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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 義兄さんの部屋は、購買部のすぐ隣にある。
 そこで三人で移動して、僕が周囲を探る。

 うん、気配はない。
 もともと学院内には、滅多な人は入れないのだけど。

「さて、場所も変わったことだし、聞いてちょうだい」
「分かりました」

 なぜ西の都の調査がお姉さんに回ってきたのか不思議だったりする。
 商国は人が住むには適さない土地で、そもそも西と東の都の二つしか町がない。

 さらに商国商人たちが使用できる町と、それ以外の人たちが暮らせる下町は明確に区分けされていて、潜入している〈影〉は下町、つまり外部の町までしか入れない。

「魔国軍の侵攻で下町に住む全員が待避させられたのよ。ひとりの例外なくね」

 全員が避難するなら、潜入している〈影〉も従わざるを得ない。
 残ったところで、どうなるものでもない。逃げて正解だろう。

「つまり今、西の都には〈影〉はだれもいないわけですね」
「そう。長期潜入している〈右耳〉はもともと戦闘能力はないし、呼び戻すわけにもいかないわ」

 下町に住んでいたのは〈右耳〉らしい。宿の主人とか、酒場の主人とかに扮してだろう。

「現場で〈影〉を用意できないので、王都から人を派遣することになったんですよね」
「そうよ。わたしの手持ちでも潜入できそうなのはいるの。だけど、脱出できそうなのは、いないのよね」

 町への潜入といっても、実際には軍が制圧している町に潜り込むことになる。
 見つかった場合、独力で逃げ出せる手駒がいないのだとお姉さんは言った。

 そこまで黙って話を聞いていた義兄さんが、首をひねる。
「無理ならば話を戻せばいいんじゃないか? どうして自分で手配することにこだわる?」

「一度戻したのよ。そうしたら、お祖父さまが……」
 お姉さんのお爺さんといえば、王城の庭師をやりながら〈左手〉をやっている人だっけか。

 流れとしては、こうだろう。
 女王陛下から西の都を探るようにと指令が出た。

 それを〈左手〉が受けて、適任と思われる〈右足〉に話を振る。
〈右足〉は自らの繋ぎがつけられる〈右手〉の中から選んで指令を渡す。

 だれも受け手がいないので、〈右手〉に戻したら突っ返された。
 そんな感じだろうか。

 だからって、僕が受ける話なのだろうか。

「うーん、なんか違うような」
「そうは言っても、達成難易度が桁違いなのよね」

 占領された西の都には、一般人はいない。
 つまりノコノコ出かけていけば、目立ってしまう。

 発見されないことが前提。もし発見されても逃げ出せる技量を持った者が絶対条件。

「占領軍が総出で追いかけても逃げ切れる者か。たしかにな……」
 義兄さんも納得した顔をしている。

「でも僕も忙しいですよ」
「潜入依頼だから数日で結果を出せなんて無茶な事言わないわよ。だからお願い。引き受けてくれないかしら」

 通常の場合だと、西の都まで七日か八日かかる。
 潜入する算段をつけて、一通り状況を確認。

 戦果をもって帰還したとして、往復で一ヶ月くらいか。
 僕なら往復はシャラザードがいるから短縮できる。

「すぐに取り掛かれませんけど、それでもいいですか?」
「どのくらい?」

「どのくらいと言うか、一ヶ月後までに結果を出すのはどうですか?」
 潜入を始める時期がまだ分からない。

「それでもいいわ。引き受けてくれる?」
「やるだけやってみます」
 シャラザードが嫌がりそうだけど。

「ありがとう。本当に困っていたのよ」
「僕も興味がありますし。ただし、出かけるのは、どんなに早くても竜迎えの儀が終わった後ですよ」

「もちろん。期待しているわ」
 お姉さんは上機嫌で去って行った。

「おまえ凄いな」
「なにか?」

「バックアップなしで単独潜入とか、普通引き受けないよ」
「そうかな。そうかも」

 単独潜入はまだしも、バックアップがないと、すべて自分で手配しなければならず、困ったことになる。

 行きはシャラザードで上空まで行って、直接下りちゃえばいい。

「まあ、なんとかなるかな。それより、これどうしよう」
 僕は鉢植えを持ったまま途方にくれた。

 部屋に置いても枯らしそうだ。



 考える事、やることは結構多いのだけど、なぜか魔国軍が駐留している中に潜入することになってしまった。
 今まで魔国から仕掛けてくることはあっても、こっちから乗り込むことはなかった。

 これは魔国を知るいい機会かもしれない。
「と言っても、月魔獣も気になるんだよな」

 リンダからの手紙を思い出す。
 いま南方にいるらしく、マメに手紙を書いてきている。
 その中には良いニュースと悪いニュースが混在していた。

 ディオン氏族長が予想したように、リンダに対して商国から接触があったようだ。
 事前に知らせておいたので対処できたと書いてある。

 それ事態はよいニュースだが、商国の狙いが僕のパトロンにまで及んだのは困ったものだ。
 周辺への注意が必要かもしれない。

 リンダは南方に商売の拠点を作成中。
 コネを広げる作業もうまくいっているようだ。

 シャラザードが自由に降下できる場所も確保して、竜務員も新しく雇ったらしい。
 これで卒業後は安泰だ。ただし、大転移がどうなるか分からない。

 国を守るため、僕とシャラザードは陰月の路に張り付いてなければならないかもしれない。
 とにかく、手紙にはシャラザードの世話をする人と顔合わせをしたいので、そのうち来るようにとある。

 西の都へ潜入する前にでも寄ってみようかと思う。
 なんにせよ、商売が順調なのはいいことだ。

「そして問題はこれか」

 最新の手紙には、月の軌道が変わって、リンダがいる町の近くにも月魔獣が出始めたとある。

 このまま徐々に陰月の路が東へずれていけば、いくつかの町が飲み込まれるとも。
 回天によって、月は予想付かない動きをする。

 いまある軌道からずれていくが、それが北方向なのか西方向なのか、そしていつ頃移動するのかが分からない。

 月の軌道が近づいてきたら、遠ざかるまで戦々恐々としていなければならない。
 リンダが拠点を作ったのは、少し早まったのではなかろうか。

 今となっては遅いのだけど。


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