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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 僕宛の手紙をすべて読んだ。
 ロザーナさんからは、時候の挨拶と近況が書かかれていた。

 旧王都で頑張っているらしい。
 突然忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の一員となったときは驚いたけど、実家とも縁が切れて、独力で生きていくのならば、いい選択かもしれない。

「古代語の一人者だしな」
『潮の民』との接触でその実力は発揮されたし、そもそも表には出せない指令を遂行しているあたり、もう首までどっぷりと浸かってしまっているのだ。

「ロザーナさんへの返信は……無理か」

 旧王都に手紙を届ける方法を考えたが、ちょっと思いつかなかった。
 竜導教会のガイスン本部長に託せばいいだろうが、手を煩わせるのも申し訳ない。

 旧王都へ日用品を運び入れる竜操者もいることだし、何らかの通信手段はあるのだろう。
 今度どうやっているか聞いてみよう。

 問題は姉さんからの手紙だ。
 さてどうしよう。

「これは義兄さんに聞いてみるしかないかな」
 たぶんそれが一番いい。

 寮の部屋を出て購買部に行くと、義兄さんが所在なさげに佇んでいた。
 一回生はいないし、二回生はこの時期に何かを買い足すような事は少ない。

「暇そうだね」
「まあな。別にここは儲けを出すような場所じゃないからいいんだが」

 学院の寮と同じく、ここも国営なんだっけか。
 物が売れなくても潰れることはないと思う。

「僕が卒業したら義兄さんも実家に帰るんでしょ」
「そうだな。後人を手配してもらっているぞ」

 この二年間、義兄さんがここで働いてくれたおかげで随分と助けられた。
 その分、義兄さんの実家が大変だったようだけど。

「それで姉さんから手紙が来たんだけど、ちょっと意味が分からない箇所があって」
「意味が分からない? それは問題だな。俺のところにも来たが、文句しか書いてなかったぞ」

「文句だけ書いてあるのも問題だよね」
「まあ、文句はいつものことだ。それで意味がわからないというのは?」

「これなんだけど」
 僕は姉さんからの手紙見せて、かいつまんで話した。

 顔を見せに来い、なぜ帰ってこないのかという部分や、兎の氏族から高価な品が届けられたけど、どうお礼をしたらいいのか悩んでいるなどはどうでもいい。

 いや、よくないけど、技国関連はアンさんと相談すればなんとでもなる。

「この辺はなんとも言えないな。他には?」
「問題はここ、最後の部分なんだけど」

「どれどれ……良い医者を派遣してくれてありがとうってあるな……なんだこれ?」
「僕も何だかサッパリ。義兄さんなら分かるかなと思ったんだけど」

「以前、母さんが腰を痛めたって手紙が来たことがあったが、そのことかな。でもおまえ、医者なんか手配したのか?」

 半年くらい前に腰を痛めて、それを庇っていたら膝まで痛くなったと手紙に書いてあったそうな。

「まったく覚えがない。というか、腰を痛めたっていうのも今知ったんだけど」
「そうか。家族で医者って聞くと、そのくらいしか思いつかないな」

 どうやら義兄さんでも分からないらしい。
 手紙だと詳細が分からないし、今度会ったときに確認すればいいだろう。

「……ん?」
 周囲が騒がしくなった。

 と思ったら、花屋のお姉さんが入ってきた。
 手に鉢植えを持っている。

 なんだろう、以前同じようなシチュエーションを見たような。
「ハイ、これ」
 お姉さんは迷わずこっちに来ると、僕に鉢植えを差し出した。

「えっと、ありがと?」
「どういたしまして。頼まれたわけじゃないからね」

 お姉さんはウインクをした。
 アークといい、僕にウインクするのが流行っているのか?

「あれですよね。僕に用事があって、これはただのカモフラージュ」

「その通りよ。一回生がいないから、ここに来る用事がないんだもの。あなたがやっと戻ってきたって聞いて、その辺のものを引っ掴んでとんできたのよ」

 お姉さんは、腰に手を当てて僕を軽く睨んだ。

「僕に何か用?」
 はて、思い当たるフシがない。

「商国の西の都が落ちたのは知っている?」
 お姉さんが声を潜めて聞いてきた。

「ええ、女王陛下から伺いましたけど」
「だったら話は早いわ。ねえ、そこに潜入してくれるかしら?」

「はい!?」
 どういうことだ?

 シルルお姉さんの依頼は西の都への潜入。
 西の都はいま、魔国軍が占領中だ。そこへ行けという。

「どうして僕なんですか? 他にも〈影〉はいっぱいいるでしょう」
「ところが、そうもいかないのよ」

 お姉さんは周囲を気にする。
 寮の一階は、ここで寛ぐ人が時々やってくる。

「密談なら俺の部屋を使うといい。防音は完璧だ。ただし、へんな噂が立っても責任持たないがな」
「それはちょっと……」

「あら、わたしとじゃ、不満?」
「そうですね」

 お姉さんは美人だが、そういう噂が出るだけで拙い。
 いまはアンさんだけでなく、文官の人たちも多数来ているのだ。
 技国との関係にもヒビが入りかねないし。

「ちょっと自信なくしたわね。でも、密談は必要なのだけど」
「ええ、義兄さんにも聞いてもらいたいので、三人でどうですか?」

「店番は?」
「所用で席を外してますということで」

「どうしても話しておきたいのよ」
「……分かった」
 義兄さんがしぶしぶ頷いたので、部屋で密談することになった。



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