挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

402/660

402

 商国、西の都。魔国軍内。

「報告します。町の調査はすべて終わりました。宮殿はご命令通り、手をつけておりません」
「ご苦労だった。今後は周辺の警戒を徹底せよ」
「はっ!」

 報告にきた兵に、チェスターは労いの言葉をかけて下がらせる。
 予想通り、西の都には人っ子一人いなかった。隠れている者は皆無。全員脱出したようだ。

 チェスターは空を見上げた。
 頭上の月は、いまだ変な動きを繰り返している。

 魔国領との間に兵がいるが、大量に発生した月魔獣のせいで連絡が取れていない。
 困ったことだとチェスターは思う。

 最近魔国領に出没している大型の月魔獣のせいで、本国との連携ができなくなっている。

「しかし、予想外のことがこれほど起こるとは」
 チェスターは奥歯をかみしめた。

 今回の侵攻は、魔国王の親征である。
 王を飢えさせないため、不自由を感じさせないために、食糧や物資は大量に持ってきてある。

 だが、それは有限。
 いつしか底をついてしまう。

 アテにしていたのは商国が隠し持つ物資だった。
 蓋を開けてみれば、西の都にあるものはほとんどが使いものにならなかった。

 いくつかの食糧は接収できたが、毒が怖い。
 遅効性のものだと手遅れになってしまう。

 一応、一カ所に集めて保存してあるが、チェスターの勘だと絶対になにか仕掛けがしてある。
 飢えてどうしようもなくなったとき手を出して、かえって酷いことになるような気がする。

「かといって、東の都を攻める訳にもいかなくなったな」
 誤算はまだある。

 アラル山脈の物資が使えなくなったのが痛かった。
 詳しい調査の結果、隠し倉庫がかなり前に襲撃されたことも分かった。

 壁面が熱で完全に溶けていた。
 一部を掘ってみると奥まで冷えて固まっていた。

 そのことから、西の都を捨てるときに仕掛けを作動させたのではないと判断した。

「あれほどの巨大穴……噂に聞く青竜の消えない炎だろうか」

 一番現実的な話だとそうなるが、ではどうして商国の隠し倉庫が襲われたのかが分からない。
 それに今更、理由探しをしてもはじまらない。ないものはないのだ。

 考え込むチェスターのもとに、ララがやってきた。

主計しゅけいから報告が来たわ。安全な食糧に限定すると二ヶ月分ですって。制限して持たせるなら三ヶ月分にはなるけれども、それ以上は無理。ちなみに商国から接収した食糧は入れてないみたいだけど」

「ありがとう、ララ。……とすると、一旦国に戻った方が良さそうだが」
「それが一番いいと思うけど、月魔獣がね」

 予定では西の都を占領して、すぐさま自国領として宣言。
 商国の物資を徴発しつつ、順次魔国民を移住させる計画であった。

 予定が狂った以上、戻れるうちに戻った方が良いのだが、それを阻んでいるのが大型の月魔獣である。

「難しいな。技国の一部でも取れていれば違ったのだが」
「そうね、どうして失敗してしまったのかしら」

「成功率の高い作戦だったな」
 チェスターもそれが不思議でならない。

 不意を突くには絶好の機会だった。
 そして最初の一報で成功したという報告も入っていた。

「ケチがついたのは、兎の氏族領に入ってからよね」
 ララの顔が曇る。
 あそこは竜国と昔から親しい間柄だった。

 魔国軍を退けたのも、竜国が派遣した一体の竜だと聞いている。

 魔国は対外政策で失敗続きであるが、無謀な計画を推し進めていたわけではない。
 確実性があり、成功が見えていたものがほとんどだったのだ。

「天に見放されたかな」
 そう嘆きたくなるほどの不幸ぶりである。
 このままでは、魔国は消滅してしまう。それが分かるからこそ、本気で足掻かねばならない。

「前回の大転移で滅んだ呪国……ああいう末路は辿りたくないわ」
 呪国が滅び、呪国人は世界中に散った。

 いまだ民族として、まとまって住むこともできない。
 他国人と他国人の間で細々と生き、人に使われ、ときには捨てられる。

 何年、何百年経っても、国を失った民は浮かばれない。
 ララは自分たちがあのような境遇に陥るのは、想像するだけで嫌だった。

「陛下は生き残りをかけて民を五つに分けた。ウルスの町への侵攻は失敗したが、まだあそこには兵も民も残っている」
 新しい情報は入ってないが、ウルスを狙える位置にいると思われる。

「そうね。もう一度というのは無理でも、残っている戦力は大きいはず」

「二つ目はここ。西の都にいる我々だ。日々食糧を消費してじり貧だけどな」
「陛下がいらっしゃるから、戦力としては最大よ」

「三つ目は、陛下のご子息がいられるフェンの町だ」
「ここと近いし、すぐに連絡が取れると思ったのだけど、月魔獣が邪魔をしているわね」

「ああ、あそこには大量の物資があるから、月魔獣を狩れれば戻ることができる。なにより、先を見越して早めに移動させていたからな」

 以前、魔国王は息子を首都から追い出した。
 表向きは勉強のため。だがだれもが、王位争いの末の追放劇だと疑った。

 そのため、魔国王よりもその息子に期待をかける一部の者たちがついて行ったのだ。
 チェスターはなぜそのような暴挙を赦すのか不思議だったが、あとで分かった。

 魔国王家の血を残すため、また勢力を残しておくためにあえて首都から離れさせたのだと。

「万一竜国と技国が協力して本国に攻めて来た時のためだったのでしょう?」
 ララもチェスターが考えていることを察した。

「可能性は少なかったが、あり得たようだな。まったく陛下のご鶏眼には恐れ入る」
 報復による全面戦争を視野に入れていたと知って、チェスターなどは驚いたものだ。

 表向きは魔国王の考えに反対した者の集まり。
 竜国が魔国統治を嫌がれば、その血筋を探すのは至極当然。

 万一首都が落ちても、フェンの町で旗揚げをするか、竜国の傀儡としてでも魔国を存続させるか。
 そのような政治的判断ゆえに、フェンの町では一大勢力が残されていた。

「そして四つめはもちろん首都イヴリールだな」

「戦力としてはシミオットがいるから申し分ないわよね」
「ああ、第三階梯のシミオットは、俺でも勝てるとは限らない優秀な奴だ」

「そもそも視認しなくても魔道がかけられるあなたたちって異常よ。それで最後のひとつは? 私はその四つしか知らないのだけど」

「最後は、天涯山脈だ。魔国に帰順した『霧の民』を中心に、山脈で生きていけそうな者たちが山に入っている。あそこは過酷な場所だが、そこで生活していた者たちがいたからな。回帰したともいえる」

 なるほどとララも頷く。

「これらはすべて、大転移という難局を乗り切るためなのよね」
「そうだ。妨害にあって予定通りといかないのが困りものだがな」

「それなら尚のこと、フェンの町と合流した方がいいわね。時間をかけて西の都の宮殿を捜索しても、得るものは少ないわ」
 食糧はないだろう。あっても、なんらかの措置が施されているに違いない。

「そうかもしれんな。陛下に相談してくる。だが、月魔獣の大型種は危険だぞ。俺たちは月魔獣戦を想定していなかったから、装備がなにもない」

 魔国では十分な準備をした上で月魔獣と戦っている。
 それは強力な魔道使いを効果的に使うための措置だ。

 魔国は、魔道使いたちだけを戦いに赴かせるわけではない。
 その逆である。彼らを大事にし、ここぞという時に投入する。

 その準備なく戦うことは、兵にとっても魔道使いにとっても良いこととは言えなかった。
「兵が動揺しないうちに決めたいわね」

「うむ。とすると、相談ではなく……説得かな」

 チェスターは現状を思い出し、そう言い直した。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ