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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 まさか僕がウルスの町で新年を迎えるとは思わなかった。
 月の軌道もまだまだ安定していないし、国の情勢も同じだ。戦い、同盟、共闘、裏切り。

 僕を取り巻く環境も猫の目のようにコロコロと変わる。
 ほんの少し先のことすら予想が付かなくなっている。

「どうしたものかね」

 僕が悩んでいる間にも、新年を祝う挨拶が長々と続いている。
 壁のすぐ近くに立って、華やかな様子を眺めている。

 ここに知り合いはいない。
 顔見知りはいるが、それほど親しいわけではないので、人の輪の中に入っていくこともできない。

「今頃、王都ではお祭り騒ぎだろうな」
 昨年は竜迎えの儀を控えて、あちこち連れ回されていた。
 ちょうどヘロヘロになっていた頃だ。

 演習につぐ演習。それが終わると祝賀会に出席してお偉いさんの相手をする。
 自分たちの価値をまざまざと見せられたあとで、またホコリまみれになって演習の続きをする。

 等身大の自分と華やかな虚像が日ごとに入れ替わって、どれが本当の自分なのか分からなくなっていた。

「それに比べたら、今年はマシなのかな」

 振り返れば戦いの日々。だが、それなりに充実していたし、なにより自分の意志で動くことができた。

「主賓のひとりがこんなところでいけませんな」

 大柄な男性が近づいてきた。
 顎髭あごひげが顔の半分を覆っている。なんだか強そうだ。

 この人とは一、二度挨拶をしたことがある。名前はたしか……。

「これはボルタ軍団長。新年おめでとうございます」

 すぐに思い出せた。ウルスが誇る軍のトップの人だ。
 先日の魔国軍侵攻のさいは、最前線で戦ったという。

 竜操者でこそないが、長年この町を守ってきた人だ。

「好んで壁の花になりたがるとは思えませんな。どうです、一緒に回られますか?」
「いえ、僕はここで。華やかな場はどうしても気後れしてしまいます。それに束の間の平穏を楽しんでいました。お気遣いありがとうございます」

 ボルタ軍団長は、僕を「主賓のひとり」と言っていたが、方便ではなさそうだ。
 僕を気遣い、この会の中心に持って行こうとしている。

 考えてみれば、今回は町を救った記念パーティでもある。
 僕は外から救援に駆けつけた者。そして月魔獣殲滅の立役者という位置づけだろう。

「若いのですから、遠慮なさらず……そうですな。でしたら、おいっ」
 ボルタ軍団長は、近くで談笑している数人に声をかけた。

 やってきたのは三人の男性、しかもみんな壮年だ。
 ボルタ軍団長の部下だろうか。
 服装から高位の人たちだと分かる。

 ひとりは見覚えがあった。軍事パレードのときに会ったことがある。レニノス操者だ。
 あとのふたりは知らないが、いずれも上品な佇まいをしている。

「これはこれは、レオン操者。新年おめでとうございます」
「レニノス操者、新年おめでとうございます」

 残りのふたりは、ウルスの町の文官たちだった。
 どうやら、ウルスの町には『文武交流』という不思議な習わしがあって、他業種との交流を積極的に行うのが推奨されているらしい。

 そういえば、あちこちで談笑している人たちの雰囲気がバラバラだ。
 同じ所属の者同士で固まらないようみな配慮している。

「先の戦いを見ておりました。さすがは属性竜の操者ですね。あれほど素早く大型の月魔獣を狩れるとは」
 シャラザード任せであることは黙っておこう。

「いえ。それよりも救援が間に合ってよかったです」

「レオン操者のおかげで、こうして新年を無事迎えることができました」
「そうそう。優秀な竜操者を手配していただけたことを陛下に感謝しなければなりませんな」
「まったくです。あやうく城壁を破壊されるところでしたからな」

 たしかに僕の到着で救われたところもあったが、この町の竜操者もかなり頑張っていた。
 被害が出ただろうが、最終的には撃退できたのではなかろうか。

 そういえば、気になったことがある。
「先ほどユーングラス卿に聞きましたが、中型竜の怪我がひどいとか」

「ええ。残念ながら、余裕をもって戦わせることができませんでした」

 複数の中型竜で一体の大型種を相手にしても大変なのだ。
 今回、乱戦となったことで、いくつかの戦場で被害が大きかった。
 ちょうどしわ寄せが来たらしい。

「復帰まで時間がかかりますが、必ずや元の精強な部隊に復活してみせますよ」
 レニノス操者は笑って言った。

 レニノス操者はここで笑えるのか。なかなかできることではないな。

「レオン操者は、いつまでいられるのですか?」
「それは僕にもよく分からないのです。言われたのはウルスの町を守ることだけでしたので。いま町周辺を巡回していますから、安全が確認されるまではこのままではないでしょうか」

「なるほど。心強いことですな」

 みな一様に喜んでくれる。
 王都だと怖がられているため、このような返答は心地よい。

 シャラザードも陰月の路が近いことで気に入っているようだし、このまま延長してずっとここにいてもいいかな。
 そんな気分にさせられる。無理だけど。

 しばらくボルタ軍団長やレニノス操者たちと談笑し、頃合いを見て会場を出た。
 シャラザードの様子を見に行きたかったのだ。

 昨日しっかりと釘を刺しておいたが、また変なことをしていないか見張っている必要がある。

 竜舎に向かって歩いて行くと、若い女性を見かけた。見知った顔だ。

 以前、飛行型の月魔獣に追いかけられていた竜操者で、名前はたしか……シルビア・ハロリ。
 ただの竜操者かと思ったら、リトワーン卿の親類と聞いて驚いた記憶がある。

「あっ!」
 向こうもこちらに気づいた。

「こんにちは、シルビア操者。しばらくぶりです」
「こ、こんにちは、レオン操者。そ、その節はどうも……」

 顔を赤くしているシルビアだが、別段僕に気があるとか、そういうわけではない。
 以前ちょっとだけ色々あったので、そのせいだ。

 ちょっとだけ色々ってなんだと、自分でも思うが、その通りなのだからしょうがない。

「竜を見に来たのですか?」
「そうです。今日到着したばかりでしたので、仮眠をとっていたら寝過ごしてしまって……」
 今日到着ってどういうことだ?

「どこかに行かれていたんですか?」
 月魔獣戦だろうか。だがそれならば防衛戦に参加していないはずがない。

 シルビアの騎竜は小型の飛竜だ。
 単独任務ということもあるか。

「技国に避難させられていました。危ないからって……それでようやく帰還命令がでたので、帰ってこられたんです」
「な、なるほど」

 聞いたら、領主命令だそうな。
 一族の者を国内どころか、国外まで追いやってしまったらしい。

「それはあれですか。一族の血を残す的な?」

「そうだと思います。足手まといになる人もいますから、純粋に戦いから遠ざけたかったのもありますけど、わたし含めて、戦える人たちがすべて倒れてしまわないように世界各地に散らしたと言われました」

 どうやらリトワーン卿、そういう所は徹底しているらしかった。
 自分が死んだ後のことも考えて、色々手を打っていたらしい。

 やはり、王族の血を引いている者は考えることが違う。
 血を残すため、事前にそういう手を考えるのは普通じゃない。

 いまは回天によって、絶対安全と言える場所も存在しなくなっている。
 だったら、防御力のあるこの町に戻ってきた方がいいわけか。

「よかったら、一緒に竜を見に行きませんか。僕もシャラザードが心配でしかたがないのです」
「はい」

 こうして久しぶりの邂逅を得つつ、僕はシャラザードのもとへ向かった。
 シャラザードが何もしでかしてないことを祈りつつ。


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