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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 今日は新年である。

 リトワーン卿はいまだベッドから起き上がれず、新年の挨拶はなし。
 昨日の襲撃の後片付けも残っているため、今年の祝いは質素なものになるという。

「じゃ、行ってきます」
 僕は率先して巡回を引き受けた。

 ここにいてもやることがないのと、シャラザードが何かしでかさないよう監視するためである。

 月魔獣狩りに行くぞと言ったら、シャラザードが上機嫌になったので、僕の行動としては間違っていないと思う。

『やはりここは近くていいな』
 シャラザードが暢気なことを言っているが、いまは戦闘中である。

 町周辺の月魔獣を排除したとはいえ、少し足を伸ばせば普通に月魔獣が闊歩している。
 シャラザードに狩られるために集まってくれたようなものだ。

「それでも簡単に倒せる相手じゃないんだから、気を抜くなよ」

『もちろんだとも。我が月魔獣狩りで気を抜くことなどあり得ん』
 たしかもそうだろうとも。

 ソウラン操者が竜国の北西部にいて、僕が西部。
 月魔獣の大型種対策としては良い布陣だと思う。

 ふと南西部に誰が派遣されているのか、ちょっと心配になってきた。

 というのも、大型種は強い。
 シャラザードですら何度か攻撃しなければ倒せないのだ。

 そんなのが大量に出たら、中型竜の戦線ですら崩壊する。

『ずっとここにいても良いな』
 大満足のシャラザードだが、それは不可能だ。

「僕らは救援要請を受けて来ただけだから、安全が確認されれば僕らは帰るからね」
 それがいつになるか分からないが、できれば竜迎えの儀までには王都に戻りたい。

 竜迎えの儀は学院生の最大イベントであり、僕も一回生を連れて竜の聖門まで送って行かねばならない。
 普段まったく授業に出ていないため、こういう時こそ、しっかりと学院生の勤めを果たさねばと思う。

「そのためには、周辺の月魔獣を一掃しなきゃなぁ」
『任せろ!』

 シャラザードから、打てば響くような返答が返ってきた。

               ○

「そうか、まだ月魔獣が多いな」
 リトワーン卿に巡回の報告をする。

 大型種への対処は、卿にとって優先順位のトップにあるらしい。
「毎日とはいいませんけど、かなりの数の大型種が降下していますし、増えることはあっても、しばらくは減らないと思います」

「難儀だな。町の防壁もあれに取り掛かられれば危うい。近づかせることなく排除せねばならんが、如何せん戦力がな」

 ウルスの町を包囲した月魔獣は、多大な犠牲を払って排除できた。
 大型種への対処を受け持った中型竜の被害が酷い。

 大怪我を負った中型竜には、しばらく……数ヶ月は安静にさせておきたい。
 だがそうすると、防衛戦力に穴が開いてしまう。

「それと女王陛下から聞きましたが、大型種ではなく支配種が確認されたとか」
「どうやらそう判断したらしいね。私としてはありのままを伝えたのだけれども」

 魔国から逃げてきた商人の話や、巡回中の竜操者の話がまとめられてある。
 それが王都へ届けられた際、他の話と総合して、魔国の首都に現れたのは、支配種であろうと結論付けられた。

「様子を見に行った竜操者は戻ってこられなかったようですけど」
「そうだね、それも聞いた。私が提出できた資料だと、活動限界を超えた月魔獣の話かな」

 先月の末の話らしいが、月魔獣と交戦し、倒しきれずに魔国領へ逃してしまったことがある。
 月魔獣の片腕を落とし、その他も手傷を負わせたのにだ。

 悔しく思うものの、わざわざ国境を越えて倒しにいかなくても、時間が経てば月魔獣はただの岩くれになる。
 そう思って放置していたが、つい最近、その倒し損ねた個体が動いているのを見つけたのだ。

 似ているが違う個体だと判断し、当然倒したわけだが、その姿を見て驚いた。
 付けた傷がそっくりなのだ。

 それだけでない。
 月魔獣が体内に持っている月晶石つきしょうせきはほぼ満タン。
 つい今しがた活動を開始した個体と言われても否定できないくらいに、満たされていた。

 これはどういうことか。
 答えは二つ。
 偶然の一致か、月魔獣のエネルギーを回復する手段がどこかにあるか。

 傷を付けた本人たちが「絶対に同じ個体だ」と主張し、他にも倒した月魔獣が持っている月晶石がみな満タンであったことから、後者が理由ではないかと考えられた。

「シャラザードから聞いた話ですと、月魔獣の支配種がいる場合、いつまででも月魔獣が活動限界を迎えることはありません」

「困ったことだね。やはり支配種だと思うかい?」
「ほぼ間違いないでしょう」

 他にも大型種に数倍する大きさの月魔獣が観測されていたりしている。
 否定する材料はもはや、どこにもない。

「倒せるから?」
「かなり難しいかと思います。幸い、シャラザードの話では、支配種はその場を動くことがないそうなので、倒すのではなく、封じ込めるなどの策が有効かと思います」

「それが向こうの狙いかもしれないね。その支配種の周囲に月魔獣が増える一方だ。そうなったら、よほどのことがないかぎり、突破できない」

「そうですね」
 と言っても、シャラザード単身で行っても負ける。
 ソウラン操者と協力したらどうだろうか。

 成功しても、どちらかが死ぬだろう。もしかすると両方が。
 そうなったら、大転移を前に戦力大幅ダウンとなってしまう。

 女王陛下は討伐許可を出さないだろうと予想できる。

「暗い話はこれからいくらでもできる。今日は新年だ。楽しんでくるといい。私はここで仕事があるからね」

 仕事というか、ベッドから起き上がれないのだが、リトワーン卿はあくまで仕事で参加できない言い張っている。

「分かりました。またあとで報告に来ます」
 僕は新年を祝う会場に足を運んだ。


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