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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 僕が姿を現すと周囲から驚きの声があがった。

 いや声を出さない方がより驚いているかもしれない。
 僕が影に潜ったお貴族様――というか、同業者の〈影〉のお姉さんなんか、目を開いて固まっている。

 目の前で手を振ってみた。
「………………」

 だめだ、驚きすぎてまったく反応がない。

「あら、来ていたのね。いつからかしら」
「ほんの少し前からでございます。なにやら僕の話をしているようでしたので、終わるまで待てず」

「そうなのよ。どうかしら、彼女。あなたのパトロンにちょうどいいと思わない?」

「まだ、考えられるほど過ごしておりませんので」

「そう。だったら、考えておいてね。リミディアちゃんはもういいわ」
「は、はい。……御前、失礼いたします」

 僕にパンを配達させたお貴族様は、ぎこちなく動き出し、途中からしずしずと退出していった。
 残されたのは僕だけ。

 そして、膨れ上がる殺気。
〈左手〉のみなさん、僕のことが嫌いなのか?

「すごいわね。まさかここに来るなんて思わなかったわ」
「昨日のこと、ご報告にあがりました」

 すっとぼけてみた。

 まあ、人の影に潜らなかったら、僕もひとつかふたつは、魔道結界に引っかかっただろう。
 あれは脱出するより、侵入する方が何倍も大変だ。帰りに結界の種類をしっかりと確認しておこう。

「じゃあ、報告をお願いね」

 周囲の殺気などどこ吹く風で、陽気な声が聞こえてきた。さすが女王陛下。動じてないな。
 こっちも努めて明るい声を出す。

「スルーの処理に成功しました。同時に敵対してきたダブルも処理しております」

「聞いたわ。ダブルは……ええっと、なんだったかしら、予知のダブル。そう呼ばれていたみたいね」
「予知の……ですか?」

 予言的なアレかな。

 両方とも戦闘向きではなかったのか。
 あの場に残ったのだから、戦闘系の魔道使いかと思ったのだけど。

「ダブルは以前、拠点の同時襲撃を察知しているわね。どうも、別の場所のことを見てきたように分かる能力のようね」

 ということは、遠見とおみかなにかの魔道だろうか。
 やっぱり戦闘向きではないな。

「スルーはかなり高度な感知系の魔道でした。他の〈右手〉が近寄れなかったのも、近づく前に探知されていたからでしょう」

「とすると、王城に侵入してきたのは、どういうことかしら」
「予想になりますが、探知魔道に親和性が高かったのか、そういう魔道すら探知できるのかと思います」

 もっとも、死んでしまったわけで、もうその影に怯える必要はないのだけれども。

「そういうことなのね。ありがとう、レオン」
「はっ、すべては女王陛下のために」

 お決まりの文句を伝えて退出を促そうと思ったが、どうやらまだ用事があるらしい。

「それで、あなたが相手をした『悪食』と『千本針』だけど」

 と女王陛下は言った。
 言い訳しておこう。

「指令を完了した直後に襲われましたので、やむなく応戦いたしました」
 あのお姉さんがどう報告したのか知らないが、いま言ったのは事実だ。

「そうみたいね。でも、やり過ぎた?」

「まさかあの程度すら避けられないとは思いませんでした。情けをかけるつもりはありませんし、必要以上に処理するつもりもございません」

 つまり、反撃したら死んじゃったんだけど、それって相手が弱すぎるよねと弁明してみた。

「そうみたいね。生き残った方、町で会ったらどうするつもり?」
「もちろん処理します」

 それが何かと首を傾げる。

「一応あれでも厳しい鍛錬を積んだの」
「はっ、では今回は見逃します。つぎに敵対的な行動を取りましたら、そのとき処理致します」

「それでいいわ。……そうそう、魔国が急に蠢動しゅんどうしてきたでしょ。理由は分かるかしら」
「いえ、寡聞にして、存じ上げません」

 これは本当である。
 スルーによって重要な何かが魔国の手に渡ったとは聞いたが、それが何なのか、どうしてそれで魔国が活発に動き出したのかは、分からない。

「ここだけの話だけど、近々、大転移だいてんいが起こるらしいの」

「ブフォオオ!」

 何だと? 吹いたじゃないか。
 だ、大転移って、あれか? あれだよな。

「驚いたみたいね」
「驚きます。……大転移とは、陰月いんげつみちの移動でございますか?」

「そうよ。ふたつの月の重なり方を観測していたら、その兆候が出たみたい」

 うわー、聞きたくないけど、聞かないとヤバイ。
「それが魔国に知られた情報でしょうか」

「ええ。知られたみたいね。大転移が起こるのは四年後。もっとも、詳細な観測をはじめてから今回が最初の大転移なのだけど」
「………………」

 エイダノとカイダというふたつの月が頭上にある。

 このふたつの月が近づくと、エイダノから鋼殻こうかくと呼ばれる岩の塊がやってくる。
 それが地上に落ちると月魔獣つきまじゅうが生まれる。

 月魔獣を倒せるのは、この国では竜操者のみ。

 鋼殻が落ちる場所、つまり月魔獣が出現する場所はだいたい決まっていて、エイダノの動くルートになる。
 そのルートはずっと決まっていて、それをこの国では陰月いんげつみちと呼んでいる。

 なので竜国は、そこを避けて町や街道ができている。

 そして重要な話だが、過去、ふたつの月が大接近したことが何度かあった。

 その度ごとに、大量の鋼殻が地上に降り注がれ、同時にエイダノの月がカイダの月に引っ張られ、が移動するのである。

「前回の大転移はおよそ二百年前かしらね」
「正確には百七十六年前になります」

「そう。そのときは、陰月の路が北に移動して、竜国は大きな被害を受けたわけだけど」
「はい。多くの文献に、その時の様子が描かれています」

「今回も北に移動するみたい。竜国としては助かるのだけど、魔国がね」

 僕は魔国の地図を頭に思い浮かべた。
 いまある陰月の路がそのまま北に移動すれば……。

「…………ま、まさか」
 女王陛下はコクリとうなずいた。

 僕の予想が当たっているならば、魔国は滅ぶかもしれない。

【大陸地図】
挿絵(By みてみん)

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