挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/656

004

 なるほど、パトロンね。
 理解した。

 他国からやってきた交易商人だが、すでに竜国に定住している。
 中古の屋敷を購入して、大金をかけて魔道結界も施してある。
 この町から出て行くことはないだろう。

 商いは手広くやっているし、地元の人間も大勢使っている。
 商売は繁盛しているようだ。

 その規模はもう、大商人と言っていい。
 もちろん僕のパトロンとして申し分ない。

商国しょうこくでは、新進気鋭の若旦那は煙たがれたみたいだね」
 義兄さんはそんなことを言った。

「そういえば、出身は商国だったね」
 魔国まこくからやってきたけど、もともとは商国の人間だった。

「苦労して販路はんろを広げて、魔国にもいくつか店舗を持っている。ただし、魔国に腰を落ち着けることはしなかったようだね。つい棲家すみかとして、この竜国を選んだわけだ」

 僕が調べた書類でも、そんな感じが見て取れた。
 商国で苦労したのも本当だろう。

 多品目を扱うといえば聞こえはいいが、ようは儲かる品を扱わせてもらえなかったから、そうせざるを得なかったのだ。
 十年以上、冷や飯を食わされたと思う。

「商国ではスタートラインがはるか後方にあったんだろうね。しかも自分のレーンだけ障害物が置いてある。だけど不正に手を染めることなくここまで手を広げるなんて、大したもんだと思うよ」

 それは僕も認める。
 賄賂も送らなければ、詐欺も働かない。禁制品も扱っていなかった。
 誠実な取り引きの記録だけが多数見つかった。

「いや、そっちじゃなくてさ」
 義兄さんが口角こうかくをつり上げた。

 よくないことを考えているな。
 あんまし度が過ぎると、姉さんにチクるからな。

「屋敷には主人の一人娘がいただろ? どうだった?」
「どうとは?」

「可愛いとか、美しいとか、スタイルがいいとか、優しそう、誠実そう、気立てがよさそう……それから、結婚相手に良さそう?」

「そっちかよ!!」

 確かにそれらしき人物はいた。
 顔は……まあ、そこそこ……いや、かなり整っていたと思う。

 だが……。

「そうそう都合よく、パトロンが決まるか!」

 思わず、そう叫びそうになった。
 真夜中なのにだ。

「……まっ、一年間は余裕があるんだ。すぐに見つかるだろうさ。運命の人がね」

「ふうん。たとえば、姉さんのような?」
「そういうこと」

 あっ、嫌味が通じてない。

「……ちなみに、あの屋敷だけど、どんな魔道結界が施されていた? 魔国の最新技術が使われているらしいんだよね。屋敷ひとつに大げさだとは思うけど、女王陛下はその魔道結界について知りたがっている」

 たしかに面倒な仕掛けがいくつかあった。
 だが、あれで最新?
 ここに罠がありますって知らせてくれているようなものだったぞ。

「途中、何度か闇を渡ったから全部じゃないけど、覚えているものだけなら書き出せると思う」

 伊達に十日間、張り付いていない。

「だったら、できるだけ詳しく頼むね。よし、これで国内の諜報活動がはかどるぞ。いくつかの建物に同じのが使われているんだよね。どんな仕掛けか事前に分からなかったから、一人で切り抜けられる者以外、潜り込めなかった」

 大げさだな。いや、そうでもないのか。
 僕ら〈右手〉と違って、戦闘をしない〈右足〉じゃ、難しいだろう。

「どうりで事前情報がなかったわけだ」
「ほぼシロだとは分かっていたから九割がた、パトロン探しだったんだろうねえ」

「だったら先にひと言、ほしかったな」
「こういうのは、予期せぬ出会いが大事なんじゃない?」

 予期せぬ出会いを予見してセッティングするなよ、まったく。

 潜入して『何か』を探すのはいつものことなので、深く考えもせず引き受けたけど、こういう裏だったとはね。

「で、今回の調査報告書だけど、昼に取りにいくから、それまでに書いておいてくれるかな」
「昼まで? ずいぶん早いね」

「女王陛下が首を長くしてお待ちなんでね。〈右足〉の中でも最速の僕が届けることになっているのさ」
「ここからまた王城へ? もの好きだね、義兄さんも」

 僕だったら行きたくない。
 あそこ警戒がすごいし、王都も怖い。

「女王陛下のためならどこへでも行くさ。向こうで会えるかな、義弟おとうとよ」
「……さあ、どうだろうね。僕はゆっくり行くんで、無理なんじゃないかな」

「いずれにしろ、報告書は昼までに頼むよ」
「なるたけ善処してみる。……それでは、女王陛下のために」

「ああ、女王陛下のために」
 その言葉を聞き終わるよりはやく、僕は闇に溶けた。

               ◯

 一人だけ残った男は、レオンが消えたであろう方角を目で追ったが、そこにはただ闇が存在するだけだった。

「……いつも思うけど、『闇渡り』を使われると、〈右足〉の僕より、絶対速いと思うんだよな」

 そしてクリスタンは、レオンが忍び込んだ屋敷を一瞥いちべつする。
 侵入に気づいた様子はない。静かなものである。

「今回も潜入もどれだけ高難易度なのか、まったく気づいてないみたいだし。あれで十六歳はないだろ、ほんとに」

 商国で嫌われ、魔国で警戒された交易商人が、安住の地を求めて竜国にやってきた。
 それは歓迎すべきことだが、過去の経験から、屋敷にやたらと強力かつ最新の魔道結界を敷いていた。

 年頃の一人娘がいたのも理由のひとつだろう。
 ツテを頼って、最新最高の魔道結界を手に入れたようだ。

 これはまだ最近出回り始めた感知結界で、いまだおおやけな解除方法が確立していなかった。
 難解過ぎて、女王陛下の〈影〉たちがさじを投げたのだ。

 レオンには、十日間と期限を切ってみた。
 それだけあれば、一度くらい潜入できるだろうと見越しての依頼だった。

 それをなぜか勘違いして、毎晩潜入しては、明け方戻ってくるというサイクルを繰り返したと聞いて、クリスタンは驚いた。

「義弟がいなくなると、ソールの町も寂しくなるな。いっそ、王都に転属願い出そうかな。でも奥さんが怖いし……反対しそうだしな。どうしようかな……」

 そのつぶやきに答える者は、だれもいなかった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ