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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 リトワーン卿は、目覚めてすぐに現状の確認をしたという。
 大怪我を負っていただろうに、なんとも行動派だ。

 確認を取ったのは二点。
 魔国軍の侵攻。これは迎撃部隊が追い返したことで問題は片付いた。

 もうひとつは、館への襲撃。
 こちらも撃退したが、被害はそれなりに出たという。

「長年仕えてくれた者や、命をかけて守ってくれた者たちを多く失ったよ」
 襲撃を予想し、しっかりと迎撃体制を調えていたものの、敵の強さは想像以上だったと。

 それを聞いて落ち込んだものの、リトワーン卿の行動は素早かった。

 各地に散らせていた親族を呼び戻す手配をし、新しい組織づくりと戦時復興に取り掛かったという。
 先ほどまで忙しく働いていたのはそんな事情があったらしい。

「血脈を次代に残すのが、私の勤めのひとつだからね」
 ウルスの町に戻ってきた者、戻りつつある者、それらはみな、多少なりとも古き王族の血を引いている。

「この町が無事で良かったですね。それと卿自身も」
「最悪を想定していたけど、運良く生き残れた……いや、運も実力のうちかな。だとすれば、私の実力は相当なものなのだろうね」

 ベッドから動けないにもかかわらず、その言い草がサマになっている。
「領主の血を残すのは大事ですものね。良かったです」

「うむ、古き王国の血、祖先から脈々と連なっている王族の血を残さねばならないのさ」

 はるか昔、武力を背景としたルクストラ一族のクーデターによって、ユーングラス王家は王都を追われることになった。

 ただし完全に屈服したわけではない。
 両一族はふたつの都市に別れてにらみ合った。

 どちらか一方が完全に滅するまで戦うか、それとも妥協点を見いだすか。
 いにしえの取り決めにより、ユーングラス家はルクストラ王家を認める代わりに、一種独立した勢力を竜国内にもつことを許された。

 そんな経緯があったらしい。

 両家は竜国の存続のため、代々協力してきた間柄であるが、ユーングラス家は完全に取り込まれたわけではない。
 そういうことらしい。

「もしかして、それが今回の騒動の原因になっていたりします?」
「騒動というと、私が離反したという話かね?」

「そうです。僕自身、てっきりそうなのかと噂を信じてしまいましたし」
「それはすまないことをしたね。私と王家との間は対等という盟約がある。簡単にどちらかが頭を下げることはないからね」

 王族、旧王族、どちらも難儀な存在だ。
 いがみ合うくらいならいいけど、本気で対立したら、共倒れになるんじゃなかろうか。

 意識を取り戻したリトワーン卿が、このような状況を聞いて安心したのも束の間。
 月魔獣の襲来が確認されたらしい。

 魔国領からくる大型種の群れに、すぐさま王都そして操竜会へ知らせを出した。

「緊急事態ということで僕がここに派遣されたのですけど、そういう経緯だったのですね」

「この町は防衛に自信があったが、大型種だけは駄目だ。あれは手に余る」
 彼我の戦力を冷静に分析して、今回運良く撃退に成功したとしても、町の防衛はガタガタになってしまうと判断したようだ。

 ある意味それは正しいと思う。
 あのまま戦い続けても、小型竜はほぼ全滅。中型竜も半分は使いものにならなくなったのではなかろうか。

「いまウチのシャラザードが訓練をほどこして、小型竜でも月魔獣の大型種た戦えるようにしています」

「ほう。軍事式典で見たあれかな。中々素晴らしい動きだった。……だが、習得するには長い年月と、厳しい訓練が待っているんじゃないのかい」

「シャラザードが竜に戦い方を覚え込ませています。思いの外短い訓練時間で済んでいますよ」

「それはいいことを聞いた。我が町でも使えるように陛下に打診しておこう」
 リトワーン卿の目が光った。

「ここは月魔獣戦の最前線ですし、もし要請があればすぐにでも訓練します」
 もちろん、シャラザードがだ。
「その時は頼む」

 そんな話をしていたら、医師がやってきて、そろそろ面会の時間は終わりだと告げられた。
 仕事と休息の時間は、医師に決められているらしい。

「いいつけを守らないと、仕事をする許可がもらえなくてね。明日は新年だ。また明日、話そう」
「はい。お大事にしてください」



 リトワーン卿との面会が終わったあと、僕は与えられた部屋で倒れるように眠った。
 どうやら、ずいぶんと疲れていたらしい。というか、寝不足か。

 どんな疲れも、一晩寝れば回復する。

 翌朝、使用人が慌ただしくやってきた。
 竜舎でシャラザードが暴れているという。どういうことだ?

 放っておくと被害甚大になりそうなので、朝食前に竜舎に向かった。

「……何やってんだよ」
『主か。こやつらは物覚えが良いぞ』

 満足そうな声が返ってきた。
 シャラザードが暴れているのではなく、暴れているのは「シャラザードたち」だった。

 近くにいる竜たちを従えさせて悦に浸っているのだ。
「おまえ、それはやらない約束だっただろ」

 許可なく他の竜を従えさせないというのは、僕が最初にシャラザードと取り交わした約束だ。
 破れば、「ごはんぬき」と言ってある。

『昨日の戦いを見て、我に教えを請うてきたのだ。我から言い出したことではないぞ。それにな……』

 王都の竜たちよりも、ここの竜の方が戦闘経験を積んでいるため、扱いやすいらしい。
 なるほど、実戦経験の差か。

 シャラザードが自分の部隊に組み込みたいと言い出してきた。
 いや、ないから。そんな部隊。

「そういえば、昨日も褒めていたよな」

 僕には分からないが、シャラザードにはその違いが一目瞭然らしく、どうせ教えるならば、ここの竜がいいのだという。

『というわけで、我が部隊の……』

「それはない。ただ、昨日リトワーン卿にも言われたし、訓練の優先順位を上げるように女王陛下に話しておくから。おまえは勝手なことをするなよ」

 いいな! と念を押して振り向いたら、パイル操者がとても複雑そうな顔をしてこちらを凝視していた。

 パイル操者は、ウルスの町にいる竜の総責任者だった。
 だれかが気を利かせて呼びに行ったのだろう。

「ごめんなさいです」
 僕は深く頭をさげた。


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