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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 一番有名な竜操者と言えば、ソウラン・デポイの名があがるだろう。
 優男の外見に、爽やかな笑顔が特長の若き竜操者は国民の人気者だ。

 彼の学院生時代にはもう、甘いマスクに多くの女性ファンがついていた。
 青の属性竜を得てから、彼の人気は留まることを知らない。

 竜操者の名をひとり挙げよと言われたら、真っ先に思い浮かぶのが彼である。

 一番尊敬されている竜操者と言うならば、サヴァーヌ女王を忘れてはならない。
 竜国の力の象徴。
 白の属性竜を得た、代え難き至高の存在である。

 その実力は未知数ながら、竜国民が胸を張って、その名を讃えることだろう。

 最も荒々しい竜操者と言えば、パイル・ボレックスの名が真っ先にあがる。

 なにしろ彼の戦歴は血塗られたものが多く、ひとたび魔国との戦端が開かれれば、彼が操る竜の爪には、魔国兵の血が乾くことがないと言われている。

 また、大型竜という特性を存分に生かして月魔獣を狩る。
 現在四十二歳になるパイル操者の血塗られた半生は、だれしもが畏怖を感じざるを得ない。

 パイル操者の心は常に戦場にあると言われている。
 今回も、ウルスの町の西側を守り、決して町中に月魔獣を入れないよう奮戦していた。

 大型走竜を自在に操り、月魔獣に突進を仕掛けていく。
 通常の月魔獣であれば、踏みつぶせばよい。

 大型種には、遠距離からの体当たりを食らわす。
 他の竜には真似のできない戦法で、次々と狩っていく。

 強者の名に恥じない戦いぶり。
 そこへ空から現れたのは……。

                ○

「あれが大型の走竜か。デカいな」
『あやつ、我の獲物をどうするつもりだ!』

「だれの獲物でもないからな。……それにしてもすごい速度だな。数歩でトップスピードになるんじゃないか? あれの体当たりをまともに受けたら、シャラザードだってタダじゃ済まないだろ」

 体格差は倍以上。地上では速く走れないシャラザードと違って、向こうは走ることに特化している。
 空ならばまだしも、地上戦ではシャラザードでも後れを取りそうだ。

 見ているだけで分かる。大型走竜はとても頼もしい存在だ。

「よし、僕らはあっちの大型種を狙うぞ」
『うむ。あんな奴は放っておくか。ちょうどよい具合に固まっておるわ。うひひ』

 大型種が固まっている辺りに目をつけて、シャラザードの声がちょっとキモい。
「よし、行け!」

『無論だとも!』

 シャラザードは一度上空に舞い上がり、そこから急降下で月魔獣を狙いに行った。
 だが、運悪く、パイル操者も同じのを狙っていた。

 しかも向こうの方が距離が近く、速い。

 結果、シャラザードが向かうよりも早く、大型種が狩られてしまったのだ。

『なにすんじゃあ。我の獲物を捕りやがってぇえええ!』

 目標とした月魔獣がいなくなった。
 それも目の前でだ。

 シャラザードは目標を変え……間に合わない。
 いや、間に合った。飛翔中のシャラザードは最速だ。

 次の目標は……大型走竜?

『がぁあああああ!』
 シャラザードは、跳び蹴りを食らわせた。

 この世のものとは思えない肉と肉がぶつかる音が響き、大型走竜の巨体がすっ飛んだ。

『どうだぁ!』
「どうだじゃないだろ!」

 どや顔のシャラザードの後頭部を僕は思いっきりぶん殴った。



「本当にすみませんでした」

 ウルスの町にある竜の広場。
 僕はそこでパイル操者に頭を下げていた。

 シャラザードが向かった先で、ちょうどタイミング悪くターゲットが重なってしまったと言い訳した。
 混戦だったので、そういうこともあると思ってもらえると助かるのだが。

 問題は、シャラザードが大型竜の頭をゲシゲシと足蹴にしたことだろうか。
 大型走竜がすっ飛んだ後、シャラザードが片足で立ち、念入りに頭を踏み抜いた。何度も。

 結果、パイル操者も大型竜も気絶し、それを周囲の竜操者に見られてしまった。

 そのままだと月魔獣に襲われて危険なので、慌てて周囲を掃討したのだが、一歩間違えれば貴重な大型竜を乗り手ごと失ってしまうところだった。

 戦歴二十年以上に及ぶパイル操者は、シャラザードが間違えたのではなく、自分たちを狙ってきたことに気づいていたと思う。

 ただ公衆の場では何も言われなかった。

 ウルスの町が守られた喜びに、水を差したくなかったのだと思う。
 もしくは器が小さいと言われるのを嫌ったか。

 追求こそされなかったが、僕はシャラザードの代わりにしっかり謝った。
 いや、僕も反省することしきりである。



 ウルスの町の竜操者はこの後も職務があるということで、僕だけ領主館に呼ばれることになった。
 救援の挨拶がまだだったのだ。

 そこではじめてリトワーン卿の怪我を知った。
 意識が戻ったのはほんの二日前のことだったらしい。

「やあ、救援ありがとう。こんな格好で失礼するよ」

 執務室にベッドをもちこみ、リトワーン卿は寝ながら仕事をしていた。

 使用人が書類を目の前にかかげ、リトワーン卿がそれを読んで決済していく。
 印璽が必要なものは、リトワーン卿の腕を使用人が取り、動作を補助していく。

 凄い状態だが、面会してよかったのだろうか。

「お久しぶりです、リトワーン卿。……そんなになってまでやる必要があるのですか?」
 素直に聞いてみた。
 大怪我を負って、まだ回復していないのは明らかなのだ。

 そもそも身体を動かせないから、ベッドを執務室まで動かしたことに驚きである。
 絶対安静の状態だからと、書類は寝たまま読めるようにしているらしい。
 それっていいのだろうか。

 というか、そこまでして仕事をしたいのか。
 田舎に引きこもって静かに暮らしたい僕からすれば、到底理解できない考えだった。

「少々寝過ごしてしまってね。仕事が溜まっているのさ。領主というのは因果な商売だよ」

 そう言ってリトワーン卿は笑った。絶対安静を寝過ごしたと言い張る強情さ。
 僕は笑えなかった。


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