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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 西の都を占領した魔国軍は、商国の置き土産にほとほと困り果てていた。

「触れるな! 何も触れてはならん! 落ちているものは絶対に拾うな!」
 そこかしこで、兵たちの大声が響く。

 声を出して触れ回る兵の表情は真剣だ。
 何しろもう、少なくない数の兵が死亡または戦闘不能になっているのだから。

 事の起こりは、隠れている者がいないか、町を捜索したことにあった。

 取っ手に取り付けられていた毒針で、何も知らない多くの兵がその命を失った。
 必ず触れるであろう箇所に、凶悪な毒が仕掛けてあったのである。

 手甲をつけて扉を開ければ、毒針程度は防げる。

 兵たちは過剰な武装をしたまま、倉庫に踏み入った。
 すると、突如として倉庫内が発火した。

 不意の炎に多くの兵が巻き込まれた。

 外壁はあらかじめ油を染み込ませてあったらしく、火のまわりはあり得ないほど早かった。
 だれも逃げ出せないほどに。

 西の都に何条もの黒煙が立ち上るのを見て、倉庫に手出し禁止の触れを出した。
 だが都は広い。連絡が行き届かないことで被害が広がった。

 閉まっている扉は開けない。中に入らない。
 たったふたつを守らせるだけで、貴重な兵を多く失ったのだ。

 慎重な行動を求めるのは間違っていない。これでいいだろう、だれもがそう思った。
 だが、凶悪な仕掛けはそれだけではなかった。

「おっ、いいもの見つけたぜ」

 路地裏や、道の端などに、商人たちが逃げる際に落とした荷物が散乱していた。
 中には高価そうな包みも見受けられる。

 それらを拾い上げ、封を開けた兵たちが次にやられた。
 毒や小爆発だけではない。バネ式の仕掛けで刃物が回転したり、飛んできたりする。

 これで指を失ったり、顔を斬られたりすれば治療が必要となる。
「これは大丈夫だろう」と思うようなものにまで仕掛けが施されていたことで、多くの兵が負傷した。

 とくに大荷物には、凶悪な仕掛けが多く施されていた。
 荷車の上にある荷をどけたら槍が飛び出してきたこともある。
 これらはみな、興味をもった兵を殺しにきたものだ。

 建物に触れない、中に入らないだけでなく、落ちている物を拾わない。何かあっても近寄らない。
 そう告げて回らねばならなくなってしまった。

 受難は続く。
 五会頭が使用する建物がある。
 宮殿のような造りで、魔国軍としてはぜひとも接収したい建物だ。

 建物は町の中心部にあり、すべて石造りの立派なものだ。
 だが、果たして接収できるのだろうか。

 建物に近づくため、兵たちが恐る恐るくぐったトンネルが崩落した。
 生き埋めになった者を救出しようと、そばにあった角材を持ち出したらそれが燃え上がった。

 炎を消そうと、人工の泉に近づくと、柔らかい土中から刃物が飛び出した。
 みな慌てているために、隠された仕掛けに見事引っかかってしまう。

「こりゃ、あの建物も危険だろ」

 チェスターは運び出されていく兵の死体を眺めて、渋い顔を浮かべた。

「戦うためにここまで来て、こんな罠で命を落とすなんてかわいそう」
 ララは死んでいった者たちの魂の安寧を祈った。

 感傷に浸っている場合ではない。死傷者ばかり出て、事態はまったく好転していないのだ。
 井戸が使えず、建物や他の建築物も罠だらけ。

 残っている者を探すため、町中の倉庫を最初に捜索させたのが裏目に出た。
 まさかここまで用意周到な仕掛けがあるとは、チェスターも思っていなかった。

「商国の都は、商国商会の会員以外は入ることができないからな。中がこんなになっていたなんて誰も知らなかっただろう」

「そうね。外の町までしか入れなかったのはこういうことなのね」
 西の都に入れない人たちが造った城下町がここの近くにある。

 だれでもそこまでは自由に出入りできる。

「東の都を落としても同じなんだろうな」
「だとしたら、難儀ね」

 いま魔国軍は大きな壁にぶち当たっている。
 まず予定していた物資が使えないこと。
 井戸はもとより、この分ではうち捨てられた食糧にも毒が塗られている可能性が高い。

 十の食糧のうち、二つ、三つに毒が入っているだけで致命的だ。
 すべて使うことができなくなる。

 そして建物に入れない。
 無理に入ろうとすると火が出てしまう。
 消火しなければ、周囲一帯に火が燃え広がる。

 いろいろな意味で魔国軍は追い詰められていた。

「五会頭の建物はどうするの?」
 ララが心配そうに尋ねる。

「行くしかないだろう……だが、あそこは外よりも凶悪な仕掛けがありそうなんだよな」
「発動させないで解除しながら進むというのは?」

「いくつ仕掛けられているかも分からないのにか? どれだけ時間がかかるか」
「ならば手を出さずに放っておく?」

「それが一番だが、首都からここまでやってきて、ただ見ているだけというのもな」
 結局、町中の安全を確保し、陣を築く。

 宮殿はこれ以上兵の損失を防ぐ意味からも、一旦放置することに決まった。

 まずは数日掛けて、少しずつ安全な一帯を作り上げていく。
 根気のいる作業だが、石橋を叩いて渡るこれらの作業によって、仕掛けにかかって死ぬ兵の数は、目に見えて減少した。

 だが、問題も残っている。
 水と食糧だ。

「いま本国から食糧を輸送中だ。それまでの間はこれで我慢して欲しい」
 商人た溜め込んだ物資を奪うというアテが外れた以上、倹約して使うのは当然のこと。

 兵たちもそれは分かっている。
 だが、更なる悲劇が魔国軍を襲った。

「アラル山脈の隠し倉庫が穴だらけだと!?」
「なによそれ!」

 魔国の諜報は、この隠し倉庫の捜索にずっと力を入れていた。
 西の都を占領したことで、満を持してあらる山脈に兵を派遣したが、隠し倉庫はなぜかみなからだった。

 空というよりも、天井に大穴が空いているのだ。
 中にあったと思われる食糧や貴金属などは、すべて超高温の何かによって、溶け消えてしまったらしい。

「どういうことだっ!!」

 魔国民たちを食わせるための富がスッカラカンになっていた。

 これはもうどうして良いか分からない。
 立ち直れないほどの衝撃である。

 対策を立てるため、チェスターは魔国王の判断を仰ごうとしたその時。



 天頂にあるふたつの月が重なった。


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