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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 魔国軍が西の都に攻め入ってから、およそ半日経った頃。
 第一の門に続き、第二の門を突破することができた。

 これで魔国軍の士気はさらに上がった。
 すぐに次の門に取り掛かる。

 商国が雇った傭兵は手練れ揃いである。
 いまは第三の門の奥から、効果的な抵抗を断続的に行っている。

 対して魔国軍は、魔道使いを要所に使って、攻城側という不利を覆しつつあった。

「この調子で第三の門も突破しろ!」

 第二の門が破られる寸前、傭兵たちは潮が引くかのように次の門に撤退している。
 傭兵たちの戦力はいまだ残っているとみていい。

「組織的な抵抗はまだ続きそうだな」
 チェスターが一旦戻ってきた。

「ごくろうさま。次の門はいいの?」
 ララの問いかけに、チェスターは第三の門を見上げた。

 序列第二位のチェスターと第十三位のララ。
 不思議とふたりは馬が合った。

「次の門は力業でしか突破できない」

 第三の門は分厚い門扉と高い壁に守られている。
 城門の上には、なにやら技国式の仕掛けも施されていた。

「なるほど……ということは?」
「さっき『穿孔せんこう』と変わってきた」

 魔国十三階梯以外にも、魔道使いは多く参戦している。
 中でも派手ではないが、月魔獣戦においてかなりの撃破数を誇るのが、『穿孔』のメーヴェである。

 メーヴェは射出型の魔道使いで、中距離限定というひどく狭いレンジ内ならば、高い威力の貫通攻撃ができる。

 城門のように動かない相手には、メーヴェの魔道は絶大な効力を発揮する。

「穴を開けただけでは門は落ちないけどな」
「そこは兵たちに期待しましょう。それでチェスターは休むの?」

「いや、陛下の守りを固める」
「さいですか」

 穴だらけになった第三の門が陥落したとチェスターのもとに報告が入ったのは、日没の直前だった。

 それ以上の侵攻を中止して、その日の戦闘は終わった。

 翌日、残りの門を突破して西の都を占領すると意気込んだ兵たちに異変がおきた。

「体調不良だと?」
「兵たちが言うには、四肢の力が入らず、また気づかぬうちに便を垂れ流しているようです」

「……毒か?」
 チェスターはすぐに被害状況をまとめさせた。

 多くの兵が体調不良を訴え出ている。
 その日、戦闘継続はできなかった。

「原因が分かりました。くるわ内にある井戸の水を飲んだ兵の調子が悪いようです」

 第二と第三の門の間に井戸があった。そこの水が怪しいらしい。
 昼前に上がってきた報告では、全体の二割の兵が体調を崩していた。

「井戸に毒が投げ入れられいる。飲料用の水は川から汲んでくるようにしろ」

 水を飲んだのは昨夜、戦闘が終わってからだ。
 井戸の水をそのまま飲んだ者だけでなく、煮出した湯を飲んだ兵も発症していることから、沸騰させても意味がないことになる。

「商国め……やってくれたな」
 まさか自国の井戸に毒を入れるとは思わなかった。

 武力を持たない商国民では、落ちた都を奪還する術はない。
 自分のものにならないのならば未練もないものなのか。

「ねえ、今日の戦闘はどうするの?」
 陛下にお伺いをたててくる。

 チェスターが向かった先は、魔国王のいる天幕。
 魔道結界を張り、幾重もの護衛に守られている。

 チェスターが面会に赴くと、魔国王の隣に小柄な老人が立っていた。

 序列一位のバシリスクである。
 通り名があまりに有名すぎて、本名は誰も知らない。
 彼こそ魔国最強の魔道使いであり、魔国王を守る最強の護衛である。

 バシリスクは、いつもと同じく目を閉じたまま、静かに立っていた。

「現在は体調を崩した兵の介護を優先しております」
「攻城は進められそうか?」

 魔国王の問いかけにチェスターは首を横に振った。
「原因は井戸の毒でありますが、それが人に伝染るのかまだ分かりません」

 毒と言っても種類はいろいろある。
 罹患した兵の嘔吐物や便から伝染ることも考えられる。

「いま隔離して様子をみておりますが、症状が出ていない者も、これから出て来る可能性もあります」
「そうであるな」

「また、使用可能な井戸は他にもございますが、念のため、すべての井戸を使用禁止にしました。今日は戦闘よりも水の確保を優先したいと考えます」

「よろしい。では、本日のその方が思う準備をすべて終わらせよ。攻城は明日より再開する」
「かしこまりました」

 チェスターは魔国王の指示通り、その日のうちにすべての準備を終わらせ、翌日から攻城戦を始めた。

 だが、その頃にはもう、傭兵も商人もだれも残っていなかった。
 空城だけがそこに残されていた。

「……逃げたのか」

 西の都はあまりに大きく、魔国軍は完全包囲するほど人手がなかった。
 要所の出入りは押さえていたが、どこか秘密の脱出路があったようである。

 発症者の治療と隔離に奔走していた一日の間に、みな逃げ去ってしまったようである。

「これで万事解決といけばいいんだが、悪い予感しかしない」
 このチェスターの心配は、現実となった。

 苦労して残りの門を開き、ようやく西の都内部に足を踏み入れた魔国軍。
 だが、本当の苦労はここからだった。

 人っ子ひとりいない大路を兵たちは歩く。
 商人たちの国は普通の国とは大きく違っていた。

 住居ではなく倉庫が立ち並ぶ。
「隠れている者がいないか、徹底的に探せ!」

 決死隊が潜んでいる可能性もある。
 町は広いが、それが捜索しない理由にはならない。

 チェスターは兵を散らせて町の安全を確認させた。

「うわっ!!」
 倉庫の中に入ろうとした兵が、慌てて扉から手を引っ込める。

「どうした? ん? 血が出ているじゃないか」
「取っ手の下部にトゲが……ううっ」

「どうした!? おい!」

 突然苦しみだした兵に何人かが駆け寄る。
 彼らが見ている前で、手から血を流した兵が痙攣し、泡を吹いて事切れた。

「し、死んでる!?」

 ついさっきまで元気に歩いていたのだ。
 何ら変わったところはなかった。
 強いて言えば、取手を触ったときにトゲが刺さったくらい。

「なんで……」

 仲間の兵が呆然とする中、近くで破砕音が鳴った。

 どこかの倉庫から、黒煙が一条、立ち上りはじめた。


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