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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 僕が訓練場に選んだ場所は、大型種が出現したと報告があった場所。

 発見した竜操者は、自分たちでは太刀打ちできないと応援を求めてきた。
 と言っても、中型竜はほぼ出払っており、すぐに駆けつけられるわけではない。

「うってつけの場所だよな」
『うむ楽しみだわ。ぐふふ』

 シャラザードが変な笑い声をあげた。
 大型種の群れがそこまで嬉しいか。

 目的地までの移動中、都合四回、シャラザードの咆哮が響き渡った。
 その都度、竜たちの動きは激しさを増していった。

 最後の方は、神業としか言えないくらい素早く、そして厳しいものだった。
 これを見世物にしたら、おひねり(・・・・)は確実にもらえる。

 まるで舞のように美しく、ずっと見ていたいと思わせるものだった。
 だが、そんな思いは唐突に終わりを迎えた。

 月魔獣の姿が見えたのである。報告より人里に近い。

「思ったより近いな。ここは陰月の路よりかなり南側なのに」
『好都合だ』

 近くに町や村こそないものの、このあたりに月魔獣が出たことはない。
 それなのに数十体の大型種が徘徊しているなんて、これがの回天の恐ろしさなのかと、身震えるほどだ。

 シャラザードは別の意味で身震えている。

「おまえ今、突っ込もうとしただろ」
『なっ、なにを!?』

 シャラザードが動揺してる。突っ込みたくてウズウズしているのは丸分かりだ。

「これは訓練だからな。勝手するなよ」
『……わ、分かった』

 まだ距離があるうちに、彼らの曲芸編隊行動を止めてもらった。
 一旦地上に集結し、操竜場のときと同じく整列してもらう。
 月魔獣は数キロメートル先だ。時間的余裕はない。

「よし、これより訓練の詳細を発表する」

 僕が話しても、相変わらず誰も何も言わない。まだ僕は指導者として認められていないのだろうか。
 そうだとしたら悲しくなってくる。

 僕が彼らを恨みがましい目で彼らを見ようとしたら、なぜか彼らの方が、僕を恨みがましい目で見つめてくる。

 あれ? なんで僕が恨まれているの?
 本来、ともに戦う仲間同士、心を一つにしなければならないのに。
 だがこれは急ごしらえの部隊。指導者の僕に至ってはまだ学生。

 こんなぺーぺーでは、彼らの心を掴めないのか。
 ここで気の利いた演説をしたところで、何の実績もない僕では、彼らの心に響かない。

 シャラザードが竜を操ってくれれば、大型種に対抗できることが分かっている。
 それだけは確実だ。

 ならば僕が話すのは、『事が終わってから』でいい。
 今は恨まれようが、舐められようが、仕方ないのだと我慢しよう。

 だが、舐められたままでは士気につながるし、後々よろしくない。
 分かっていても、威厳を示さねばならない。指導者の辛いところだ。

「ここから数キロメートル先に大型種の月魔獣が大量にいる。喜べ、ようやく本番だ。これからキミたちだけでそれを狩る」

「……!?」

 みんな驚いている。訓練と聞いて集まったら実戦だったら、驚くのは分かる。
 しかも相手はただの月魔獣ではない。大型種だ。

 だが、パン屋を閉めないためにも、彼らに頑張ってもらうしかない。

「今から全員で月魔獣に突っ込んでもらう」

 彼らの間に動揺が広がっている。
 明らかに逃げ出したいと目で訴えている者もいた。

 だが、甘い顔はできない。
 ここは心を鬼にして、僕は決断を下すのだ。

「いいか、これを覚えておけ。レオンの師団は前進あるのみだ!」

「………………」
「………………」

 みな、何を言っているのだという顔をした。
 少しだけ僕も、何を言っているのか分からない。

 だが、赤面していられない。インパクトが大事だ。
 彼らには、大型種に突撃してもらう覚悟を分かってほしい。

「いいか、レオンの師団は前進あるのみだ。前進以外は認めないし、させない。分かったな!」

「……ッ!!」

 よし、もう一押しだ。

「復唱しろ! レオンの師団は前進あるのみ!」

「レ、レオンの師団は前進あるのみ!」
 良かった。素直に復唱してくれた。

「もう一回!」
「レオンの師団は前進あるのみっ!!」

「まだだ!」
「レオンの師団は前進あるのみ!!」

「よし、そのまま復唱しつつ騎乗せよ!」

 彼らは「レオンの師団は前進あるのみ」と呪文のように唱えながら竜に乗り込んだ。
 よく訓練されている。本当に素直なものだ。

「シャラザード、頼む。彼らに地獄を見せてやってくれ」
『あい分かった!』

 シャラザードの咆哮で、小型竜たちは大型種相手に玉砕覚悟の突撃を敢行した。

 間違えた。月魔獣に地獄を見せるんだった。
 ……まあいいか。



 月魔獣の大型種は、全長数百メートルもある。
 小型竜がいくら頑張ろうとも、倒せる存在ではない。

 そもそも人が月魔獣を倒せないのは、その硬い表皮を貫けないからである。
 小型竜が月魔獣の大型種をいくら攻撃したところで、人が月魔獣と戦うようなもの。

 小型竜の牙や爪では、大型種にまったく痛痒を与えることができない。

 だが、短時間で何十何百という攻撃を、同じ場所に与え続ければどうだろうか。
 水滴が岩に穴を穿つかのごとき、いかに硬い月魔獣の表皮であろうとも、穴を開けることが可能となる。

 もちろんそれをやり遂げるには、ただ一点のみを狙う高度な技術と、途中で恐れない強靱な精神が必要となる。

 今回はそれをシャラザーが負担したのだ。
 シャラザードの号令一下、多数の小型竜たちが大型種に向かっていった。

「~~~~!!」
「○&×▲■#ッ!」

 時折、声にならない悲鳴が聞こえてくる。

『我も参戦するぞ』
「そうだね。彼らだけでは手に余ると思うし」

 彼らだけでは倒しきれないので、僕らもまた月魔獣狩りに勤しむ。
 すべてはパン屋のため。


 そして日が沈みかける頃、ようやく戦闘が終わった。
 ここいらにいた、すべての月魔獣を刈り終えたのである。

「よくぞ生き残った」

 彼らは僕の言葉をまったく聞いていない。

 虚空を見つめる者、ぶつぶつと何かを唱え続けている者。
 あとで分かったが、「レオンの師団は前進あるのみ」と言い続けていたらしい。戦闘中もか?

 他にも放心して口を開けたまま、よだれで口周りがぐちゃぐちゃになっている者。
 突如感極まって泣き崩れる者たちがいた。
 全体の三分の二がそうである。

 残り三分の一は、竜共々その辺に転がっている。
 月魔獣から返り討ちにあい、地上に投げ出された者たちだ。

 生きているか死んでいるか分からない。
 絶え間ない波状攻撃を繰り返していたので、月魔獣に止めを刺す余裕があったとは思えないので、おそらく生きていると思う。

「よし、訓練の初日はこんな感じだ。今日は初日だから軽めにしたが、これから徐々に厳しくなるから、覚悟するように!」

「………………」
「………………」
 反応がない。また反抗的になってしまったのだろうか。

 その辺は諦めて、転がっている者たちを回収しつつ、近くの宿泊施設に向かった。
 明日はもう少し長い時間、月魔獣狩りをして経験を積ませようと思う。

 そして翌朝。

「……あれ?」

 レオンの師団は半分に減っていた。

               ◯

 ある竜操者の述懐、続き。

 目的地に着いたら、レオン操者はこういった。
「この先に大型種の月魔獣がいる」と。そして「今から群れに突っ込んでもらう」と。

 正気かと目と耳を疑ったが、レオン操者はもちろん本気だ。

「レオンの師団は前進あるのみ」

 そうを復唱させられて、月魔獣に戦いを挑まされたのである。強引にだ。

 生きた心地がしなかった。いや、私は生きているのだろうか。
 生も死もよく分からない。私はだれだ?

 自分が何者かさえ分からなくなるほど、恐怖も絶望も味わった。
 味わい尽くしたと言ってよい。

 レオン操者の噂?
 噂の方が何倍も大人しい。

 あれは何だ? 魔物か?
 私だってレオン操者と月魔獣がいたら、月魔獣の方へ逃げていくぞ。
 あれは関わっていい存在ではない。それを心の底から理解した。

 無限の時が過ぎ、地獄が終わった。
 するとどうだろう、レオン操者はこういった。

「今日は初日だから軽くしておいた」と、そして「明日から本番だから、気を引き締めろ」とも。


 ――ど・う・い・う・こ・と・だ!


 そう叫ぶ前に、私の意識は途切れた。


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