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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 シャラザードの咆哮で竜たちがひれ伏した。
 竜操者は恐怖の表情を浮かべて固まっている。

 なぜ恐怖の表情を? シャラザードを怖がっているとか?
 シャラザードが怖いとか、竜を操る者としてそれはどうなんだろう。

 竜は生涯のパートナーだ。あまり他の竜を怖がるとは思えないのだが。
 シャラザードに襲われると思ったか。

 この誤解を解かないと……と口を開きかける直前で、僕は思いついた。

 いまの咆哮で、彼らは恐怖を感じている。表情を見れば明らかだ。
 さっきまで僕は舐められていたと思う。

 これは好機じゃなかろうか。

 訓練はシャラザード任せになる。僕の出番はない。
 というか、やり方が分からない。

 だったら、これを利用して彼らの心を掌握すればいいのではないか?

 それは大変いい案に思えた。
 多少気が引けるが、これもパン屋のため。

 僕の心のオアシスを営業停止させないためにも、彼らが即戦力になる必要がある。
 厳しく指導すべきなのだ。

 方針は決まった。
 訓練が終わるまで、舐められてはいけない。
 これを存分に利用させてもらう!

「――気をつけぇ!」

 僕は大声で怒鳴った。内心ビビりながら。
 彼らは全員その場で飛び上がった。

 一斉にピョーンと、まるで喜劇を見ているようだ。
 それはいい。今から畳み掛ける。

「これより貴様らに訓練を施す! 総員騎乗!」

 彼らは、統率の取れた動きを見せた。

 即座に敬礼をすると、反転し、駆け足で竜に乗り始めたのだ。
 軍属とはこうも訓練が行き届いているのか。

 もはや感心するほど鮮やかな手際である。

 さて、僕が彼らに訓練法法を長々と説明しなかったのには訳がある。
 説明できないのだ。

 いや、やり方は分かる。
 ただ、どうすればそう動かすことができるのか、どこが悪いのか、どう直せばいいのかが分からない。
 何しろ、それらはすべてシャラザードの頭の中にあるのだから。

 質問されても何も答えられない。
 それでは不信感を持たれてしまう。

 とにかくシャラザードに丸投げだ。
 だから僕もシャラザードに乗り込み、こう言えばいい。

「シャラザード、彼らを連れて月魔獣を狩りに行こう。小型竜でも大型種の月魔獣が狩れるよう、よく導いてやってくれ」

『主よ、心得たぞ!』

 シャラザードが飛び立ち、すべての竜がそれに続いた。
 飛竜はすぐ後を追ってくるし、地竜と走竜は地上から追随する。

 百二十騎の竜は、何の打ち合わせもなく、月魔獣狩りに出発する……のは、拙いよな。
 今更だが、ぶっつけ本番は良くないかもしれない。

 彼らの安全のためにも、実戦前に練習した方がいい。
 そのことをシャラザードに相談する。

『そういうことなら、我に任せてもらおう』
「うん、お願い」

 どうやら配慮してくれるらしい。
 なんかシャラザードが頼もしくみえる。

 ――シャゴォオオオオ(動けぇえええ)!

 シャラザードの咆哮。
 移動しながら練習するようだ。

 空中と地上で、竜たちが一直線になり、ありえない動きをみせた。

 竜操者たちの表情を見ると、みな一様に引きつっており、「???」の表情を浮かべた。

「すごいな。まるで曲芸のようだ」
『まだまだこれからだぞ、主よ』

 そう言って、シャラザードが吠えた。

               ◯

 ある竜操者の述懐。

 その日私は、操竜場での訓練のため、王都を訪れていた。
 新しい訓練法が、大型種と言われる強大な月魔獣に有効であると言われたからだ。

 すでにそれを学んだ竜操者たちは、日々陰月の路で活躍しているという。
 私を含めて、操竜場に集まった同志たちは、やる気と使命感に燃えていた……と思う。

 ――教官の名前を聞くまでは。

 いま話題の黒竜の主と言えば、分かるだろう。
 私たち竜操者の間では、有名過ぎるほどの人物だ。

 歳は若い。まだ十七歳と聞いている。
 だが、この一年間で倒した月魔獣の数はダントツ。
 それどころか、内乱や外敵に対して多大な戦果を上げている。

 ――殺しまくっているのだ。

 レオン操者の名前は、畏怖とともに私たちの心に深く刻み込まれている。
 それが教官だと!?

 名前を聞いたときの私の驚きを、理解してもらえると思う。

 彼と会ったことのある竜操者は決まって、彼は噂以上の存在であると口を揃える。
 あれほど噂が独り歩きしているにもかかわらずだ!

 あれだけ悪評が広がってなお、噂の方が控えめとはどういうことだ。

 レオン操者と初対面の挨拶が終わり、洗礼はすぐにやってきた。
 黒竜――シャラザードの咆哮一発で、私たちの竜は服従の姿勢をみせた。

 あり得ないことだが、竜が私ではなく、シャラザードに従ったのだ。

 恥ずかしい話、この時点で私の膝はガクガクと揺れていた。
 なにしろ相手はレオン操者である。

 情け容赦などは微塵も持ち合わせてなく、怒れば月魔獣より怖いと評判なのだ。

 どこで気分を損ねさせるか分からない。迂闊なことは出来ないし、言えない。
 そう思っているのは私だけではないようで、みな一様に緊張していた。

 そんな中、レオン操者は、私たちを竜に乗せて出かけるという。
 訓練に最適な操竜場ではなく、他の場所にいくのだと。

 私の心は「なぜ?」で一杯になった。
 だが、その理由はすぐに分かった。

 二度目の咆哮で、騎竜たちが勝手に訓練を始めた。
 これまで経験したことのない動き。

 急加速に急上昇。そして急旋回。
 最初はなぜこんな事ができるのかと、頭の中は「???」で占められた。

 始まって五分も経っただろうか。
 ああ、これが訓練なのだと私が理解したときにはもう……恥ずかしい話だが、口からキラキラが吹き出していた。

 私だけでない。みんなそうだ。
 開始五分で私の胃は限界を迎えたのだ。
 皆もそう。そこかしこでキラキラが空中に舞っていた。

 これまで、自分が乗る竜の性能はしっかりと理解していたつもりだった。
 限界行動は把握していた……だが、それは完全に間違いだった。

 人が乗っていることを考えなければ、竜はこんなにも激しい動きができるのか。
 今回、それを身をもって知ることができた。知りたくなかったが。

 どれだけキラキラが出ようとも、訓練は中止にならず、目的地に着くまでの四時間、ずっと続けられた……らしい。

 途中で何度も気絶しているため、時間経過が分からないのだ。

 今日の訓練はこれで終わりですよね。
 正直、限界です。


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