挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

39/657

039

 女王陛下が住まうのが王宮で、その一角で政務を執り行う。
 謁見の間などは王宮に存在している。

 逆に多くの人が働くのが王城である。
 この王城はあまりに広く、いくつもの壁で囲まれた、いわばひとつの町と言える。

 僕が闇に潜らずに王城に近づくと、深くて大きな外堀が見えてきた。

 堀があるだけで、人の出入りはかなり制限される。
 なんとかして堀を超えても、高い塀つまり外郭がいかくが延々と続き、人の行く手を阻む。

「改めて見たけど、地上から侵入するのは面倒そうだな」
 できなくはないが、やはり時間がかかってしまう。

 夕方であるいまの時間帯ならば、そこかしこに暗闇が存在している。
 手頃な影の中に入り、僕は闇に溶けた。

 影を伝い、外郭を超える。
 城の中は広く、幾重にも内堀が張り巡らせてあり、内郭のさらに内側に行くには、相当な遠回りをしなければならない。

 侵入者がどういった経路を使ったのか確かめてみたかったが、時間もないことだし止めておいた。

「前回と同じく、城の中庭に出るかな」

 このまま進むと、複数の結界の中を通過するため、どうしても時間がかかる。
 地下水路を通り、中庭から行くのが確実だろう。

「……っと、あれは」

 歩いている人を見つけた。
 小走りしているところを見ると、急いでいるようだ。

「ちょうどいいから、あの人の影に紛れてみるか」

『闇渡り』には、自らの意志で移動する以外に、だれかの影に潜んで運んでもらうこともできる。
 そっちの方が、より深く影に同化できるので、結界を気にしなくていい。

 ただし、デメリットとして外の様子が分からないことがあげられる。

 自分で移動する場合、薄いベール越しに外の様子が窺えるが、人の影などに深く潜る場合、外をうかがい知ることはできない。
 小さな音を拾って判断するのみである。

 また自分の意志で移動するわけでないので、思った場所へ運んでくれるとは限らない。
 せっかく王城に侵入を果たしたのに、そのまま外へ出られてしまえば意味がない。
 また最初からやり直しである。

「あとは、影から出る時だな」

 少しでも影どうしがつながっていれば移動できるが、もしまったくつながっていない場合、僕はその人のすぐ足元から出現することになる。
 それはさすがに気づかれる。

 人の影に潜ると結界を気にしなくていいが、その他の部分で縛りがあるのだ。

 先を急いでいる男性は、城の中を目指しているようなので、今回は活用させてもらおう。
 僕は影を伝ってその男の足元に移動し、そのまま深く潜った。

「あら、ガリア公。どうされました」
「私の領地で月魔獣つきまじゅうの被害があったと聞いたのだ」

「報告がもたらされたのは、ウインストの町でしたわね。まだ使者が滞在しておりますから、月魔殿つきまでんに行かれた方がよろしいのではないでしょうか」

「使者にはあとで私の屋敷にも来ることになっている。被害は町とその周辺と聞いたので、まずは資料を確認させてもらおうかと思ってな」

「なるほど。でしたら、竜操者が持ってきた地図があるはずです。女王陛下がご覧になると申されて、本殿へ運ばれましたので、閲覧の許可を申請すれば大丈夫でしょう」

「ありがとう。本殿だな。助かる」
「いいえ、この度はお気の毒さまでした」

陰月いんげつみち付近にある町ならば、襲撃も仕方ない。ようはいかに被害を出さないようにするかだからな。では、急ぐので、これで失礼する」

 僕が影に潜った相手はガリア公と言うらしい。
 そして、月魔獣の襲撃があったようだ。

 月魔獣はふたつの月が合わさるとどうしても起こってしまう自然現象だ。
 被害も軽微なものから重大なものまで起こり得る。

 それを減らすのが竜操者の使命であり、国民が竜操者を崇める一助となっている。

「どこか途中で影から外れるかな」

 本殿は王宮のひとつ手前にある建物だ。
 そこまで行ってもいいのだが、中が明るいと困ることになる。

 どこかで別の人の影に潜るか、自分で移動した方がいいだろう。
 そろそろ時刻は夜と言える時間帯であるし、自分で移動した方が早いかな。

 ガリア公が回廊の中を進んだので、その隙に僕は影から外れた。

「よし、ここからは慎重に行こう」

 影専用の謁見の間に近づくほど、結界が複雑になり強力になっていく。

 進むのに時間も手間もかかる。
 あまりに面倒くさくてそろそろキレかけた頃に、ようやく見知った気配を見つけた。

 女王陛下である。
 それともうひとつ。あれは今日会った気配だが、どういうことだ?

 僕はゆっくりと移動して、その人物の影に潜った。

「本当にまさかという思いです、女王陛下」
「そうね。そういう偶然もあるものね」

 女王陛下がコロコロと笑っている。
 話が弾んでいるようだが、なんの話だ?

 というかこの人、今朝パンを配達しろと言ってきたお貴族様だよな。
 このお姉さん、女王陛下の〈影〉だったのかよ。

「ですが、本当にもったいないことをしました。一族の望みが叶うところ……たった半日の遅れが悔やまれます」
「そのために急いで来たのですものね」

「はい。いえ、もちろん女王陛下への報告が重要でして……」
「いいのよ、正直になっても」

「申し訳……」
「でも良かったわ。あの子はうまくやっているのね」
「はい、女王陛下」

「毎朝パン屋で働いていると聞いた時は、何事かと思ったけれど、好きでやっているならば、仕方ないのかしらね」

「得難い人材とうかがっております。さすがにパン屋は無駄のような気も致します。私のように活動するのでしたら、それもまたひとつの生き方かと考えますが」

「さすがに無理でしょうね。あの子には使命があるもの」
「………………」

 パン屋って……なんか、僕の話題になってないか?
 いま話しているのは絶対僕のことだよな。ここにいてもいいのか?

「あの子は、自分でパトロンを見つけるつもりがないらしいのよ。あなた、立候補する?」
「よろしければ、はい、ぜひ!」

 ちょっと待って!
 勝手に決められると困る。
 というか、ここでその話が出るか。

 いや、僕がソールの町を出る前にも同じようなことがあったっけ。
 調査した交易商人の娘さんとくっつけて、パトロンにしようとしたような。

「なら、機会を作るわね」
「よろしくお願いします! これで我が一族、町の民も喜びましょう」

 これ、出なきゃいけないやつだ。

 僕は意を決して、姿を現した。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ