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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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 女王陛下との謁見は、とにかく心臓に悪い。精神力を使い果たすこともある。
 そんなとき僕は、パン屋のアルバイトで癒やし成分を補給するのだ。

『ふわふわブロワール』でのアルバイトはいまだ続けている。

 竜操者としての責務があるため、不定期にしか入ることができないが、主人のロブさんはそれでもいいと言ってくれる。
 ありがたいことだと本当に思う。

「久しぶりなのに浮かない顔ね」
 仕込みの最中に、自称看板娘のミラが話しかけてきた。

 僕が技国や月魔獣狩りに行ったりしている間に、ミラの腕もずいぶんと上達したようだ。
 この仕込みの場に、ロブさんはいない。

 少し離れた場所で成形をやっている。
 仕込みを任せられるようになるとは、ミラも成長したものだ。

「そんなに浮かない顔をしていたかな。ちょっと考え事をしてたんだけど」

 そう、癒やしを求めて来たのに、あれが頭から離れないのだ。

 僕はいまだ学院生。
 もうすぐ卒業するとはいえ、軍属になるわけではない。
 にもかかわらず、竜操者の指導を、女王陛下から仰せつかってしまった。

 実際に竜を動かすのはシャラザードだが、周囲はそう思わない。
 僕がシャラザードにやらせると判断すると思う。そう考えると憂鬱だ。

「いつもここに来るたびにニコニコしていたのに。よっぽどの事がありそうね」
 あえて聞かないけれどと、ミラは手を休めずに言った。

「ちょっと悩む事がね……でも僕がやらなきゃいけないことだし」

 シャラザードと相談して、なるべく負担のないよう、効率よく指導しよう。
 僕にできるか謎だけれど。

「分かっているわよ。悩みってのは、最近おかしな移動をする月のことでしょ。ウチのお客さんも不安がっているし、気持ち悪いわよね。それと月魔獣が変なところに出没すると言うし、どうしちゃったんだろうね」

 ミラの予想は合っているようで違う。

 月に関することは確かだが、僕が悩んでいるのはどちらかと言えば人間関係だ。現役の竜操者たちをどう大型種に立ち向かわせるか、それに悩んでいる。

 僕が何も言わないと、ミラは「分かってますよ」とばかりに続ける。

「お父さんは言っていたわ。街道を通って原材料を運んでくる商人が減ってきているって」

 ミラでも知っているくらいだ。月魔獣の出現情報は、すでに王都に出回っている。
 通常とは違う場所に鋼殻こうかくが落下していることで、行動範囲の広い商人たちが疑心暗鬼になっている。

 この道の先は大丈夫か。それとも月魔獣が出ているだろうか。
 月魔獣に出会えば死ぬ。ならば、町の中で商売をしていた方がいい。

 活動範囲を広げて凶事に会うより、多少利益は落ちても、竜操者が守る安全な町中で商売をしようと考え出しているらしい。

「もしかして原材料が手に入らないの?」
 そうなったら大変だ。

「流通が少なくなっているみたい。それに値上がりもね。この分だと一時的にも店を閉めなきゃいけなくなるかもって」
「……マジか」

 原材料が上がったからって、店は商品の価格をコロコロと変えることはできない。
 それに売りたくても、原材料がなければ、物は作れない。

 今ある分を売り切ったら、一時的に店を閉めるのもひとつの手ではある。
 あるのだが……。

「クシーノは楽観視しているけどね」
 クシーノはミラの妹だ。今日も店番をやると張り切っていた。

「クシーノはなんだって?」
「大きくて強い月魔獣が出てもあなたなら倒せるから問題ないって。良かったわね。信頼されているわよ」

「そうか、クシーノがそんなことを」
 クシーノは最初からシャラザードを怖がらなかった。

 まだ竜の強さや月魔獣の強さを把握できる年ではないだろう。
 だが、周囲の大人たちが不安がる中、僕やシャラザードを信頼してくれる。

 ミラは店を閉めることになるかもしれないと言ったが、ここは僕の心のより所だ。
 そんなことはさせたくない。
「いや、させない!」

「どうしたの?」
 ミラがビックリして、僕の顔をマジマジと見た。

「ミラ!」
「な、なによ」

「僕はやる。やるぞ」
「なにを!?」

「月魔獣を倒す。いや、倒すだけじゃない。竜国から一掃させる!」
「そ、そう。……ずいぶんとやる気ね」

「当然じゃないか。パン屋を一時的に閉める? そんなことは僕がさせない! このふわふわブロワールのためにも、僕は月魔獣を倒す。倒し尽くす!!」

 僕の宣言に、ミラは粉まみれの両手を挙げた。よほど驚いたのか、粉が舞った。

「が、がんばって?」

「ああ。がんばるとも。やるぞ! やってやる!」
 パン屋のために! 月魔獣なんか、ちょちょいのちょいだ。

「でも、できれば竜国のために頑張る方が……わたしは、いいと思うわよ」
 控えめにミラはそう言った。

               ○

 操竜場で僕は竜操者たちと顔合わせをした。
 訓練にやってきたのは、総勢百二十名。

 本来はここで時間をかけて、新しい竜の編隊運用を学ぶはずだったが、彼らは僕が指導することになった。

 女王陛下から直々に言われたのだ。
 短期間でモノになるよう、指導しなければならない。

「はじめまして、僕はレオン・フェナードです。若輩者ですが、みなさんを指導するよう言いつかりました。みなさんにとって不本意な事もあるかもしれませんが、何とぞよろしくお願いします」

「………………」
「………………」

 なぜだろうか。みな黙ったままだ。
 もしかして、こんな若造に習うのはプライドが許さないとでも思っているのだろうか。

 だとしたら、最初からつまずいたことになる。
 もっと普通の指導教官らしく、強さや厳しさを前に出して接しようかと思ったのだけど、慣れないことをしてもすぐにボロが出る。

 そのため、普段通りにしたのだが……これは失敗だったか?
「何か質問はありますか?」

「………………」
「………………」

 質問はないらしい。というか、舐められている? たぶんそうだ。
「僕は軍属ではありませんが、師団長の肩書きを得ています。ですので、みなさんを指導する権限を有していることになりますね」

 通常軍属以外で師団長の肩書きを持つのは、王族かそれに連なる人くらいしかいない。
 僕が王族から特別扱いされているんですよ。だから従ってくださいねという意味を込めて言ってみた。

 しかし困ったことに、反応が一切ない。
 ここに集まった百二十人は、みな綺麗に整列している。
 反抗的な素振りは見えない。

 だからこそ、困ってしまう。
 跳ねっ返りが一人でもいれば、その人を集中して攻撃することで、全体に対して示しがつくのだけど……。

 常套手段が使えないとなると……はて、どうしたものか。

 そう思っていたら、僕の後ろにいたシャラザードが鎌首をもたげた。
 気配を感じて振り返ろうとしたその時。

 ――シャゴォオオオオ(ひれ伏せぇええ)!

 シャラザードの咆哮が一発。
 整列した竜操者たちの後方にいた竜がすべて、頭を地面にこすりつけ、伏せの姿勢で固まった。

 竜操者たちも固まった。

 僕も固まった。
 シャラザード、何やってんの!?


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