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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第5章 大転移-回天編

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シャラザード「もうちょっとだけ、続くんじゃ」
 月魔獣の大量降下が確認された日から今日で六日目。
 僕は……いや、僕とシャラザードは相変わらず、技国と魔国の国境付近に常駐している。

『ぬぉおおおおお』

 元気なのはシャラザードだけだ。僕は疲労困憊。

「シャラザード、そろそろ戻ろう。日が沈む」
『ぬ、もうそんな時間か』

「そんな時間だよ。それと今日、僕は昼抜きだったんだからな」
『うむ。そういうこともある』

「おまえが調子に乗って深入りしなきゃ、食べる時間くらいあったんだぞ」
『その分、多くの月魔獣が狩れたではないか』

 シャラザードが調子に乗って狩りすぎている間に、後方に待機していたサポート部隊は、月魔獣接近を受けて、整然と撤退していった。
 僕の昼食を持ったまま……。

 僕がどんなに恨みがましく言っても、シャラザードはどこ吹く風で取り合ってくれない。

 日が沈む前にサポート部隊は、一斉に町へ撤退する。
 彼らは非戦闘員であるため、安全な城壁の中に戻ることが義務づけられている。

「さあ、戻るぞ」
『分かった。……明日はどこへ行こうかの』

「もう明日の話か。今夜の降下を見てからだろうね」
 夕日を背にしつつ、僕らは町に帰還した。

               ◯

 話は、月が重なったあの日に遡る。

 僕とアンさんは月魔獣の降下を確認して、すぐに本拠地へ戻った。
 アンさんは氏族の者たちを連れてくるというので、僕は氏族長のもとへ向かった。

 多くの人が月の異常を見ていたので、氏族長にも話がいっていた。
 執務室に駆け込んだとき、氏族長は書類仕事を中断して、ちょうど秘書に指示を出しているところだった。

「氏族長、大量の鋼殻こうかくが降ってくるのを確認しました」
「ばかな!? こんな場所にか?」

 ディオン氏族長は驚きのあまり、ペンを取り落とした。
 今まで月魔獣の降下は他国の出来事。考えたこともなかったのだろう。

 僕は氏族長の机の上を見る。書類だらけだ。
 祝賀会のせいで滞った仕事は山と積まれていて、本来一緒に処理してくれるはずの息子夫婦はいまだ大山猫の氏族領から戻っていない。

 必然的に氏族長の負担がだけ増大しているのだろう。

「月の軌道が変わったみたいです。それで技国の近くに……降下場所は国境の外、魔国領でした」

「そ、そうか。それは不幸中の幸いか」
 他国の不幸を喜ぶ訳ではない。だが、何の準備もなく自国に落ちてきた場合、被害が計り知れない。

「ただし、僕が見たところでは、すべて大型種でした」
「大型種? この前聞いた、通常よりもかなり巨大な月魔獣のことか」

「そうです。通常の十倍はあります」
「そんなにか!? 竜でもおいそれとは倒せんじゃろう」

「中型竜ならば複数で当たればなんとか。小型竜だけだと、厳しいですね。いま、新しい戦法の訓練中です。もしかすると、そろそろ倒せるような連携ができあがっているかもしれません」

「やはりそれほどの個体か……まずいの。駆動歩兵は、通常の月魔獣戦しか想定しておらん」
「ああ、そうですね」

 駆動歩兵の大きさを思い出した。
 人が乗り込んで戦うのだから、あれはそれほど大きなものではない。

「その大型種はどのくらいいた?」
「降下中を確認しただけですけど、数百は……もしかすると千を越えるかも知れません」

「………………」
 氏族長は口を開けたまま固まった。
 数百ではもはや倒せる倒せないの話ではない。

「お祖父さま、みなさまをお連れしました」

 アンさんがやってきた。後ろに十数人がついてくる。
 みな祝賀会で見かけた人たちだ。

「す、すまんの。い、いま、衝撃的な話を聞いて、意識が飛びかけたわ」
「月魔獣のことですか?」

「そうじゃ。本当の話であろうな」
「はい。巨大な鋼殻が見える範囲でも何百と降っていましたわ」

「なんですって!?」
「巨大な鋼殻?」

 氏族の人たちが驚愕の声を上げはじめる。

「婿殿、すまんが先の話をもう一度してもらえんかの」

「そうですね。では月が重なったところから」
 そう言って、僕は見てきたことすべてを語った。

「……というわけで、大型種の鋼殻は通常の十倍に相当します。もしかすると通常の鋼殻も落下しているかもしれません」
 距離が遠かったため、通常のは見えなかったかもしれない。

「…………」
「…………」

 結局、だれも最後まで言葉を発しなかった。よほど衝撃的だったのだろう。

「呪国が滅んだのは……」
 前の大転移で国がひとつ滅んでいる。
 生き残りの呪国人は悲惨だ。祖国を失い、他国に寄生しながら生きながらえている。

「今の話を事実として、戦時体制に移ろうと思う。だが、正直月魔獣との実戦経験のない我が国では、有効な対抗策が思いつかん。各氏族に情報を渡し、警戒を強めるとともに竜国に援助を依頼しようと思う」

「通常の迎撃案では駄目なんでしょうか」
「駆動歩兵では難しいと思う。何の対策も採らずに死地へ赴かせることは避けたい」

「大型種ですか……やっかりですね」
「うむ。それゆえ、皆の知恵を借りたい」

「で、でしたらすぐに議会の招集を。みなで意見を出し合えば……」
「戦時体制と言ったであろう。悠長なことはしてられん。明日の朝には近くの町が襲われるかもしれん。まずは行動すべきだと思う」

「たしかにそうですね。氏族長の判断に従います」

「基本政策は住民の安全を第一に。月魔獣について情報収集を優先。大型種ならば戦おうとせず、逃げること……他にあるかね」

「今の時期は夜に月が出ます。できれば各町で月とお鋼殻の降下を観測して、その情報を共有した方がいいかと思います」

「なるほど。それも伝えよう」

 方針が決まると、みな慌ただしく動き出した。
 情報収集を重視して、すべての氏族と連絡を取るため、ここに常駐している飛竜が使われた。

 翌日、続々と情報が集まってきた。
 みな月魔獣の降下は知らなかったらしく、すぐに迎撃体勢を取るという。

「まずいの。しっかりと話が伝わらなかったか」
「そうですね。大型種だった場合、ただの兵や駆動歩兵をいくら集めても意味がないと思います」

 いまだ月魔獣と戦ったことのない者が多い技国では、その脅威を軽く見ている人がいる。
 あらためて脅威の説明と、その対策、つまり存在が確認されたら逃げるよう、伝えることになった。

 そして夜。
 相変わらず月の位置はおかしい。
 僕はシャラザードと空に飛翔したまま、その成り行きを見届けることにした。

『今宵も落ちて来ておるぞ』
「僕には見えないけど、どの辺?」

『昨日と同じあたりだな』
「ということは魔国領か。国境まで飛んでくれる?」

『そのまま月魔獣を倒しにいった方がよいであろう』
「ダメだって。それは本当に自重してくれ。どうせすぐに倒しきれないほど受け持つことになるんだから」
 そう伝えたら、本当にその通りになった。

 ディオン氏族長は、他氏族に連絡をとって、国境防衛に乗り出した。
 戦うのはもちろんシャラザード。

 本人が望んだというよりも、シャラザードが駄々をこねて、竜舎でもうるさくてしょうがなかったのだ。

 後方にサポート部隊を待機させ、情報収集とシャラザードや僕の世話を中心に、逃げ遅れた人などの対応をすることになった。

 どうやら、技国には駆動歩兵の運用手順が頭にあるらしく、僕とシャラザードのメンテナンス要員が必要だと考えたらしい。

 実際、そこまで必要ではないのだけど、今後のこともある。
 月魔獣との戦いを見るのはいい経験になると思って、お願いすることにした。

 国境に陣を張った翌日、魔国領から月魔獣の大型種がやってくるのが見えた。

 月魔獣の大きさは様々だが、全長はみな百メートルを超えている。
 二百メートルを超えているのもちらほら見かける。

 それが数十いた。
 サポート要員全員が恐怖に声すら出せない中へ。

『いよっしゃぁああああああ!』

 シャラザードが嬉々として向かっていった。


「第五章 大転移-回天編」の始まりになります。
以前、大転移編を前後編とか、起承転結編などに分割するだろうと書いたことがありますが、小タイトルをつけていくことにしました。しばらくは、『回天編』となります。

明日より、18時投稿になります。ではでは。
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