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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 次の日の朝。
 僕は無理を言って、ディオン氏族長に会わせてもらった。

「どうかしたのかね?」
 祝賀会の後で仕事をしたのだろうか。
 疲れを残した顔で、氏族長が僕に問いかけてきた。

「おはようございます、氏族長。実は僕、思い違いをしていたようで」
「ふむ?」

「商国が僕に悪意をもって仕掛けてくると考えていたのですが、どうやら違っていました」
「時間はあまりないが、話を聞こう」

「はい。昨日、こっそりと彼らの元に忍び込んで、話を聞いてきたのですが……」
 彼らがどんな命令を受けて、ここへ何をしにきたのか、すべて話した。

「……なるほど。時間をかけて取り込むつもりか。たしかに信頼関係を得てからでないと、アプローチは無理であろう」

「はい。竜国に不審を持つように、そして彼ら商人たちの方を信用するよう、ゆっくりとした計画のようです」

「とすると、お主の両親やパトロンの方にも同じようなアプローチがありそうじゃな」
「そうですね。とくにリンダ……パトロンの方は心配です」

 新しい取引相手が増えたと思ったら、商国の息がかかっていた。なんてことがあるかもしれない。
 かといって、事前に詳しく調べてから商売の相手を選ぶのは難しい。

 裏からこっそりと来るならば排除できるが、友好的な顔で真正面からやってくる場合、それも難しい。せいぜい忠告するのが関の山だ。

「常識的に考えて、お主と敵対する意味はないからな。これからも直接間接問わず、いろいろな接触があるじゃろう」

「そうですね。僕はまだ学院生ですから贈り物は一切受け取れないんですが、卒業後は僕の意志で何でも決めなければなりません。本格的な接触があるのは来年の四月以降でしょうか」

「そんな感じかのう。……そうそう、それで思い出した。まだ前回の褒美が渡せていないのじゃが、何が良いかと思ってな」

 氏族長から、魔国軍を撤退させた褒美を渡したいと、再三言われている。
 僕はプレゼントのようなものは一切受け取れないが、任務に対する褒美などは、竜国が認めれば手にすることができる。

 過去にも学院生時代に村を月魔獣の脅威から救った竜操者が村から金品とともに表彰されたこともある。

「いろいろ考えましたが、あまり形の残らないものの方がいいかと思います」

 氏族長は僕の立場を考慮して、貰った後で困ることのないよう、こうやって事前に聞いてくれる。

「形に残らないものか……勲章などはあるが、それも少し違うかのう」
 氏族長は悩んでいる。

「竜国が認めれば何でもいいんですけど、それでも消費できるものとかがいいですかね」
 以前、『豪商』ハリムは魔道使いになれる薬を僕に渡そうとした。

 もちろん断ったが、ああいった「残らないもの」が一番だと思う。

「分かった。ではその方向で考えてみるとしよう」
「ありがとうございます」

「……ちなみに、ここだけの話。本当に一番欲しいものはなんじゃ?」
 氏族長が声を潜めて聞いてきたので、正直に答えることにした。

「僕は静かに暮らしたいんで、静かな地方都市に一軒家とか欲しいですね」

 近所のパン屋で働いて、将来的に自分の店を持つ。
 うん、理想だ。

「冗談がうまいな」
 ユーモアのセンスもあると、氏族長は上機嫌に笑った。

 ――実家に帰らせていただきます!



 この日から僕は、商国をぎゃふんと言わせるため、積極的に若い商人たちと会話することにした。

 何でもない会話も、できるだけ興味のあるフリをする。
 顔をクシャクシャにして笑顔で相槌をうったり、少々大げさに喜んだりした。

 僕がしきりと感心すると、商人たちの話が興に乗る。
 逆に僕が気になった話題には、興味のない振り。つまりなるべく平静を装うことにした。

 彼らとは、祝賀会の最後に固い握手を交わすくらい親しくなれた。
 きっと商国に戻って、成果を大々的に報告するだろう。

 竜操者レオン、与しやすしと。

 これで女王陛下の指令は果たせただろうか。
 以前のように怪しかったら捕まえる、殺すという手段を取らないので難しい。

 友好的に振る舞えば振る舞うほど、彼らはそのやり方に固執する。
 自らが選択肢を狭めるのだ。

 そう考えて行動してみたが、果たして相手はどう思ってくれただろうか。

「見ていたが、よくやっていたぞ」

 そう氏族長は褒めてくれたので、若い商人ならば騙せたと思う。
 相手が五会頭ならば感づかれたかもしれないが。



 祝賀会が終わり、兎の氏族にも日常が戻ってくる。

 僕にはもうひとつの指令がある。
 それは魔国軍に対すること。

「いまだ情報は入ってないのう」
「やはりそうですか」

 十二月も中旬に入ろうかという時期になっても、状況は大きく変化していない。

 僕は毎日魔国との国境付近に出かけ、周囲の警戒をしている。
 同盟締結のために、一度王都に戻らねばならず、その期日が迫ってきている。

「このまま動きがないならば、今のうちに行動した方がいいのでしょうか」
「そうじゃな。魔国が動くのは年明け……いや、その後くらいかのう」

 すでに魔国から商人の移動はほぼなくなっている。情報が入ってこない。
 この不気味なほどの静けさが、逆に怖い。

 このままここで神経をすり減らすよりかは、同盟へ向けて動いた方がマシなのでは。
 氏族長はそう判断したらしい。

 そんな中、大山猫の氏族領に行っていたアンさんが帰ってきた。

「おかえりなさい、アンさん」

「ただいまですわ、レオンくん。……ふふっ、家に帰ってきてレオンくんに出迎えてもらうというのも、新鮮でいいですわね」

 大まかな交渉も終わり、アンさんの出番がなくなったらしい。
 そこで一足早く、自領へ戻ることができたという。

 アンさんを運んできたのは、竜国の飛竜編隊。
 もう技国と竜国の仲は隠すまでもないというように、竜たちが頻繁に出入りしている。

「レオンくんは、お変わりなかったですか?」
「ええ。いまはゆっくりできています」

 アンさんとは何度か手紙のやりとりをしている。
 とくに王女殿下を救いに兎に氏族領へ向かってからの話は、かなり長い手紙にして届けてあった。

「今は国境の巡回をしていると聞きましたが」
「はい。魔国は大人しいものですね。毎日退屈しています」

「まあ」
 アンさんは「それっていいことなんですよね」と聞いてきたが、シャラザードがそのうち我慢できなくなるんですと言ったら笑っていた。

 アンさんと近況を報告し合い、これからの展望を語り合おう……そんな話をしていたとき、それはおこった。

 おこってしまったのだ。


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