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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 最近、兎の氏族は慶事続きだ。

 まず一月にモーリスさんの結婚があり、八月にはアンさんと僕の婚約発表。
 十一月には、技術競技会で優勝した。

 また、本来ならば凶事とされることすら、反転させてしまう強運がある。
 大山猫の氏族や魔国の侵攻の際、見事本拠地を守り抜いただけでなく、敵を殲滅している。

 いま技国内で一番輝いているのは、この兎の氏族ではなかろうか。
 そんな中で始まった祝賀会である。

 多くの参列者が来ていた。

「予想外じゃわ」
 来賓の対応に追われ、ディオン氏族長は嬉しい息を吐いている。

 僕も大忙しだ。
 なにしろ、僕の名前もこの前の戦いで広く知れ渡った。

 魔国軍の殲滅を覚えている人は多く、僕をひと目見ようといろんな人がやってきていた。

 この祝賀会は本来、町の民が喜び祝うものらしい。

 町の民たちも今回の優勝を祭りとして分かち合うのである。
 数日間たっぷりと楽しみ、その後は日常に戻る。

 氏族が主催する祝賀会は、そのような一般の人々とは違って、招待された者しか参加できない。

 ただし、今回は時間もなかったこともあり、招待状を出したが、出欠は取っていない。
 本人の代わりに代理が来ることも多かった。

「お初にお目にかかります。鴎の氏族と大山猫の氏族で商いをさせていただいておりますクヌード商会のメイガスでございます」

 すでに首都から陥落した大山猫の氏族に見切りをつけたのか、氏族長もあまり知らない商人たちもやってきていた。

「竜国竜操者のレオンです。よろしくおねがいします」

「これは、これは。あなたが高名なレオン操者でしたか。竜国師団長の職にあると伺いました。ぜひお見知りおきを」

「……どうも。師団長と言っても名ばかりの学院生です」

 なるほど、しっかりと情報収集しているようだ。
 僕が師団長を名乗ったのは、ここで婚約発表をしたときだけだ。

 つまり、このメイガスという商人は、兎の氏族内部にも情報を引き出せるコネがあることになる。

「わたくしもご一緒してよろしいですかな。わたくしはバーラリー商会のウイディと申します。生鮮品を扱うことが多いため、あまり遠くに販路を持ちませんが、何かございましたら、ぜひごひいきに」

 メイガスと会話しているときに割り込んできたのはウイディという若い商人だ。
 二十代前半だろうか。ここに来られるほどの実績は持っていないだろうし、彼も代理だろう。

 メイガスにしても三十代そこそこなので、こちらも代理かもしれないが。

「僕自身商売とは無縁の人間です。お役に立てそうなものはないと思いますが、ここで会えたのも何かの縁でしょう」
 そう言って、ウイディと握手をする。

 なぜか知らないが、僕は商人たちにやたらとモテる。
 しかもみな若い。

 女王陛下の言葉もあるし、基本的に商国の商人は警戒しているが、彼らからは敵意は一切感じられない。
 それどころか、かなり好印象だ。

 なんとかして顔見知りになっておきたい。そんな意図が読み取れたので、話を合わせておく。それだけで相手は安心してくれる。

 彼らを調べるのは夜で問題ない。いまはなるべく友好的に過ごしたいものだ。

 次から次へと僕に挨拶をしてくる。
 視界の端にタイミングは計っている人たちも見えるので、いま目の前にいる人たちの会話を切り上げたとしても意味はないだろう。

 会の終了時間まで、みっちり相手をすることになりそうだ。

「……そういえば、竜国からは王族は来ていないんだっけか」

 襲撃を警戒して今回は欠席となっている。
 竜国からは文官が少しと、それを乗せてきた竜操者が隅の方で目立たないよういるくらいだ。

 そのため、どうしても僕が目立ってしまう。

「いや、シャラザードのこともかなり広まったからかな」
 ソウラン操者ほどではないにしろ、雷を司る黒竜シャラザードの知名度は、かなり上がってきている。

 それを乗りこなす僕の噂も自然と口の端に上る回数が増えているのだろう。
 とくにこのような席では、新鮮な噂が好まれる。

 結局、今日の会がお開きになるまで、僕の前に客は途絶えなかった。



 そして夜。
 僕は闇に溶けて、商人たちの部屋を探りに向かった。

 彼らが何を考え、どのような策を巡らせているのかを調べる。

「……ここか」
 ディオン氏族長に教えてもらった部屋に、僕は闇に溶けたまま忍び込んだ。

 部屋の中から話し声が聞こえる。
 貴賓が宿泊する部屋を氏族長があてがってくれたので、部屋数は多い。
 奥の部屋に何人かが集まっているようだが、その手前の部屋へそっと移動する。

「……いるのは四人か」

 四人とも僕に挨拶をした若手の商人たちだ。
 昼間それなりに酒を飲んでいたので、声が大きい。
 密談するつもりはないようだ。

「上はなにを考えているんだ? ただ仲良くなれだなんて」
 背の高い商人が言った。名前は忘れたが、たしか宝石商だったはずだ。

「たしかに指示としては曖昧よね。籠絡させてくれないし」
 ドレスを着たまま足を組んで座っている女性が長い息を吐き出した。

 真っ赤なドレスには深いスリットがついている。
 肢体を見せつけるように接近してきたのでよく覚えている。

「婚約者がいるって言っていただろ。おまえが諸肌を脱いでせまれば、兎の氏族がいい顔をしない」

「まどろっこしいわね。意図を告げずに近づけと言われても、どうしたらよいやら。……ねえ、メイガス。あなた今回のリーダーなんだから、詳細を聞いているでしょ?」

「さて。予想はつくが、詳細は聞いていないぞ」
「予想? あのシャラザードとかいう黒竜ごと、こちらの陣営に引き込むんでしょ?」

「いや違う。今回はいつもの手段は使わない」
「なんだと? その話、俺は聞いてないぞ。どういうことだ?」

「優秀な護衛がいるらしい。家族やパトロンに近づけないんだと」

「へえ」
「ほう。そっちまでガードしているのか。……ということは一戦あったか?」

「接触する前に狩られたらしい」

「中々やるな」
「家族にも護衛? それほど価値があるのか」

「重要度は分かった。で、上は何が目的なんだ?」
「知りたいか?」

「ああ」
「もちろんよ」

「これは本当に予想なんだが」
 そういって、メイガスが語りはじめた。



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