挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

378/656

378

 夜になったので、僕は王宮に向かった。
 魔国の侵攻や竜国内の反乱など、最近は国家規模の政治的事件が多かった。

 僕にはあまり関わりのないこと。その立場を貫きたくて、王宮には近寄らなかった。あえて近寄らなかった。
 そのため、闇に潜って女王陛下の元へ行くのは久しぶりだ。

「よくきたわね」

 僕が姿を現すと、女王陛下はそんなことを言った。
 周囲の〈影〉が驚く。驚いたのは小柄な〈影〉がふたり。若い女性だろうか。

 僕の気配に気づかなかったようだけど、今までだって何度も影から現れたことがあったはず……と思ったら、見知らぬ気配だった。新人かな?

「レオンです。お呼びとうかがい、参上致しました」
 僕が〈左手〉に視線を送ると「代替わりしたの」とだけ告げられた。

 そういえばと、義兄さんから聞いた話を思い出した。
 女王陛下暗殺の刺客が送り込まれて、その時の戦闘で多くの〈左手〉がなくなったらしい。

 これまでも女王陛下に張り付く〈影〉は、女性が多かった。
 相当数が殉職したことで、やや練度が下がったかな。

「どう? 元気している?」
「おかげさまをもちまして、日々忙しくさせていただいております」

「そう。忙しいのはいいことだわ。ハルイもこの前来たら、すぐに帰っちゃったし」

「無愛想な父で申し訳ありません」
 あまりパン屋を留守にできなかったのだろう。

「代わりにレオンがいるのを思い出したから、いいわ」
「僕などは、父の代わりも務まりません」

 これは本当で、父さんに追いつこうと思ってもまだまだ足らないことだらけだ。
 父さんと同じレベルを求めているのならば、しっかりと断ろうと思う。

 なにしろ、女王兵ががそんな話をする場合、たいてい碌な用事じゃない。

「ハルイは一人で十分か……二人も三人もいたら、いくつかの国が滅ぶわね」
 さすがにそれはない……んじゃないかな? 分からないけど。

「父によく言っておきます」
 滅ぼさないように。よく分からないけど。

「それで」
 と女王陛下はひと呼吸おいて、僕の顔を見た。
 久しぶりだからか? それとも顔に何かついているとか?

「聞いたところによると、月魔獣が裸足で逃げ出すそうじゃない」
「ぶっ!」

 僕の反応を見て、ケラケラ笑う。
 王女殿下を助けに行ったり、反乱を鎮圧したりしたんだから、原因の半分は女王陛下にあると思うのだけど。

「恐ろしくもあり、また頼もしくもあるところは、父親に似たのかしら」
「さて、あまりそう言われたことはございませんが」

「そう? まあいいわ。そんなレオンに指令を出そうとしたのだけど、ちょうどよいのが舞い込んできてね」
「……はあ」
 何の指令だろ。

「技術競技会で兎の氏族が優勝したわ」
「それはそれは、おめでとうございます」

 話が飛んだな。
 兎は竜国と一番親しい氏族だし、「おめでとう」でいいんだよな。

「内輪のパーティを開くみたいで、レオン。あなたが呼ばれているの」
 なるほど。アンさんの婚約者だし、そうだろうな。

 でも王宮経由で招待が?
 僕がまだ学院生だからかな。

「兎の氏族を救ってくれた立役者にぜひお礼をしたいというのね」
 おおう。政治的な話か。

「分かりました。シャラザードとともに行かせていただきます」

「こちらはパス。前回襲われたので大事を取ると答えてあるわ」

 本来ならばサーラーヌ王女が出席するところだったのかな。
 たしかに襲われた直後だしな、そう考えるのも……いや。

「向こうでなにかあるのですね」
 女王陛下がそこまで過保護のはずがない。

「分かったの?」
「なんとなくですが」

「そう。その直感、大切にしなさい。……商国と魔国に動きがあったのよ」
「またですか」

「そう、また。商国はレオン……あなたに関心があるようよ。魔国の狙いはまだ。でも今回は、魔国王直々に動くみたいね」
「………………」
 なんか凄いことになってきた。

「それでレオン。指令です」
「はっ!」
 これは〈影〉としての僕にだ。

「商国が動いたならば、すべて潰してきなさい。手段は問いません」
「分かりました。必ず」

 商国が僕に関心を持っている。
 僕が狙われる理由、心当たりがあり過ぎるな。

 罠が張られているかもしれない。
 なにが出てくるか分からない。
 女王陛下はそれを食い破れと言っているのだ。

「魔国は少し厄介なの。魔国王が動くみたい」
「と言いますと、十三階梯もでしょうか」

「当然そうなるわね。ただし、魔国の狙いまでは分からないわ。というより、探れなかったの」
「なるほど」

 魔国王が動くとなれば、その動向は必ず秘される。おいそれと情報が流れるようなことはないか。

「技国とはまだ正式に同盟を結んでいないの。だから大量の竜を派遣できないのよ。というわけで、レオン」
「ハッ!」

「もし魔国がやってきたら、出来る限り時間を稼いでちょうだい」
「かしこまりました」

 大雑把な指令だが、詳細が分からないのだからしょうがない。

「それで帰りは兎の氏族の者を何人か乗せて来るように。ここで同盟を結びます」
「了解しました」

 同盟さえ結べば、各氏族へ竜を派遣できるらしい。
 それまでは……僕がやるのか。

「話は以上だけど、何かあるかしら、レオン」
 珍しく話を振られた。さて何かあるだろうか。

 少し考えて、この前の反乱について尋ねてみた。
「フラットの反乱と魔国の侵攻は連動していましたが、事前に示し合わせていたのでしょうか」

「領主の館を捜索した結果、魔国との関係を示す証拠は何も出てこなかったわ。フィロスやその周辺もね」
「ということは、知らなかった?」

「そう考えるのが妥当でしょうね。騙された、もしくは踊らされた……これで満足かしら」
「ありがとうございます。謎がひとつ解けました」

 フラットが魔国を引き込むようには見えなかったし、義兄さんの話からも、共謀している話は出てこなかった。
 今の話を聞いて「やはり」という気持ちだ。

 騙されたのか、唆されたのか分からないが、理想をいいように使われたのだろう。
 そして今度は僕を狙って来ている?

「よろしくね、レオン」
「お任せください」

 もし本気で狙ってくるならば、手加減しない。
 女王陛下に一礼して、僕は闇に溶けた。

              ◯

「……行ったのかしら」
 レオンの姿が闇に溶けた後、サヴァーヌ女王は呟いた。

 周囲を見回すも、だれも明確な答えは持っていなかった。
 闇に溶けた気配を追える者がいないという証だ。

「まあいいわ。あの気配、覚えておいてね」
 女王の〈左手〉が頷く。存在を現していない〈左手〉もまた、そっと頷いた。

 暗殺未遂があったことを受けて、女王とその兄妹には過剰なまでの護衛がついていた。
 はっきりと分かる新人〈左手〉以外にも複数が控えている。

 逆に彼らをしても、レオンの気配を辿れないことに、その特異さが浮かび上がることになるのだが。

「警備の件、よろしいのですか?」
〈左手〉筆頭のヒフがおずおずと尋ねた。

「レオンの周囲のことかしら?」
「そうです」

 女王の警備ではない。たったいま消えていったレオンや、そのパトロン。
 他にも実家のパン屋にまで〈影〉による警備がついているのだ。

 この人手不足にもかかわらず、〈右手〉であるレオンに警備が必要なのか。
 ヒフはそう問いかけたのだ。

「いいのよ。だって、その方が間違えてくれるでしょ」

 レオンが直接排除するのではなく、周囲を警護している者がそれをやる。
 敵は、レオンに戦闘能力がないと判断するだろうと。

 貴重な〈影〉を警護に回す以上に価値があると女王はいいたいらしい。
 それは今後に繋がると。

「……分かりました」
 ヒフは一礼して下がる。

「それにね」
 と女王は何気なく言い添えた。

「周囲の者は傷つけられたら、あの子。殺るわよ」

 復讐、報復、言葉は違えど、レオンは「殺る」と言っているのだ。
 だれを「殺る」のか、どう「殺る」のか、女王は語らなかった。

 直接手を下した者を闇から?
 それとも関わった者すべてを関係なく?

「……は、はだにげッ!」
 誰かの声がその場に響き渡った。



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ