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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 僕はリンダに雇われるという事実に愕然とした数日後。

 女王陛下から呼び出しがあった。
 届けてくれたのは花屋のお姉さん。つまり〈影〉の方の呼び出しだ。

 久しぶりだけど、あまりいい予感がしないのはなぜだろう。
 女王陛下と会うと無茶ぶりが多いからだろうか。

 翌日の朝、僕はいつものアルバイトに来ている。

 パンの焼けるいい匂いに包まれながら、僕が至福の時間を過ごしていると、『ふわふわブロワール』の主人ロブさんが変なことを言い出した。

「最近、王都にくる商人たちが話しているんだが」
「ええ」
 何か目新しい情報だろうか。

「陰月の路で月魔獣の被害が増えているらしい。……何か知っているか?」

 知っている。陰月の路を巡回している竜操者から聞いたところ、月魔獣の降下は、昨年の三倍を超えはじめたという。

 そもそも竜操者の巡回が追いついていないので、被害が出るのはやむを得ない。
 危険回避のため一度に巡回するメンバーを倍に増やして対処しているくらいだ。一般の商人が増えたと感じるのも分かる気がする。

「そうですね。増えたと思います」

 授業が終わったわずかな時間でも、僕とシャラザードは狩りに行っている。
 その際、月魔獣はシャラザードがウキウキするほどいるのだ。

 そのため、授業の演習で遠出ができなくなった。
 学院生が演習中に半壊したとなったら、動揺が大きい。

 過保護と言われようが、卒業する前に大きな被害が出ないよう、教員たちも神経をとがらせている。

「大転移が近いんじゃないかって、噂もある。竜国もそうだが、他の国の情勢も安定しないし、商人たちが不安がっているんだよな」
「なるほど……」

 大転移に関しては箝口令が敷かれているが、そろそろそれも意味がなくなってきたのかな。
 月魔獣を頻繁に見るようになれば、おのずとみな同じ結論にたどり着く。

「月魔獣については、ほら。竜操者が何とかしてくれるんじゃないかって、そんなに気にしている奴はいないんだが……」
 ん? 月魔獣の被害以外に何か困ることでも?

「あと、他に何かありましたっけ?」
「毎日見かけるらしいんだよ……アレ」

「…………?」
「頼もしい反面、住民も怖がっているようなんだな。……学院から飛び立っていく黒竜の姿が」
「はう!?」

「いやさ、頼もしいって意見もあるんだよ。ただ、ほら、それと同じくらい怖いって話も出ているみたいなんだよな」
「それって、シャラザードがですか?」

「まあ……そうだな。魔国の一軍を鼻唄まじりで壊滅させたらしいじゃないか」
「おう!?」

「他にも、ほら。竜を操って軍を大混乱に陥れて撤退させただろ」
「がふぅ!?」

「俺は信じているよ。だけどよ、月魔獣すら裸足で逃げ出すっていうじゃないか。王都の住民は結構、怖がっちまってなぁ」

 いや俺はそう思ってないぜ、世間の噂だしとフォローしてくれたが、僕の繊細な心はズタズタだ。
 商人たちがそんなことを言いふらしているのか。

 申し訳ないと思ったのか、ロブさんが説明してくれた。
 竜迎えの儀の頃はそうでもなかったが、徐々に入ってくる物騒な噂はみな僕が起こしたものばかりで、極めつけは二万の軍を壊滅させたことで頂点に達したらしい。

 黒竜が王都を襲ったら廃墟になるんじゃないのか?
 そんなことを考える人が出始めた頃、僕が竜を操って反乱軍を同士討ちさせた話が入ってきた。

 竜を思い通りに操れるってことは、反乱より怖くないか?
 いやそれよりも大転移なんかよりよっぽど酷い被害が起こせるんじゃないか?

 そんなことを考える人が出てきているらしい。

「いや、僕もシャラザードもそんなことしませんし、そんなつもりはこれっぽっちもありませんよ」
「だよな。けど、動揺している連中もいるようだし、いろいろ気を使った方がいいかもよ」

 商国との経済的対立があって、魔国の武力侵攻があった。
 そのうえで竜国内部でも反乱があったりして、民は不安がっているらしい。

 月魔獣の被害が増えて大転移が噂されている中で、シャラザードの強力無比な力は頼もしく感じるものの、あまりの被害の大きさに畏怖に似た感情も芽生えているという。

 これはしばらくシャラザードの姿を王都の民に見せない方がいいのかな。
 そんなことを考えながら、僕は寮へ戻っていった。



 アルバイトから戻った後、僕はアークに今朝の話を聞いてみた。
「いろんな噂が飛び交っているのは確かだね」

 あっさりとアークも肯定した。
「そうなのか。僕としては、目立つようなことは極力していないんだけど」

「シャラザード自体が目立つじゃないか。それに竜操者の間でもかなり話題になっているって聞いたけど」
「竜操者にはほぼ毎日会っているけど、そんな話は出たことないけどな」

 月魔獣がたくさんいそうな場所を知るのは、現役の竜操者に聞いた方が一番早い。

「俺は何度か軍の遠征にお邪魔させてもらっていて、そこで聞いた話だけどね」
「うん」

「キミと話すのは、上官にミスを報告する時より緊張するらしい」
「なんで?」

「いつ暴れるか分からないから? そんな噂が出回っているね」
「……マジか」

 僕と話す時、そんなに緊張していたのか。
 悪いことをした。

 言ってくれれば良かったのに……ん?

「そういえば」
「どうしたんだい?」

「思い出したけど、現役の竜操者たちと話す時はいつも、丁寧な人たちだよなとか、年下の僕にも礼儀正しいなと思っていたけど」

「怒らせないために最大限、気を使っていたんだろうね」
「……マジか」

 やたらと腰が低いなとは思ったんだ。
 なぜだろうとも。

 怖がられていたなんて……知らなきゃよかった。

「シャラザードが暴れればどうなるのか、竜操者ならば正確に理解できるからね」
「暴れないよ」

「でもキミはそれを簡単に選択するって思われているみたいだからね」
「すごい風評被害をみた」

 九割以上シャラザードのせいなのに……。
 いつかどこかで僕の名誉を回復させなければ。

 アークの話を聞いて、僕は心底そう思った。


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