挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

376/656

376

 朝、パン屋でアルバイトをしてから学院の授業を受ける。
 これが最近のルーチンワークだ。

 授業が早く終わる日は、シャラザードと陰月の路へ狩りに行く。

 そんな生活がようやく確立されてきたと思った頃、リンダから手紙をもらった。

 手紙の中身はそっけない。
 日時と場所が指定されて会いたいとだけ書かれている。

「この文面、怒っている感じなんだよな」

 理由が分からない。
 最近連絡を取っていなかったが、僕が忙しいのはリンダも分かっているはず。

 いつものレストランの個室へ行くと、リンダはすでに来ていた。
「やあ、久しぶり」
「あんたねえ」

 うん、怒っている。

「リンダ、どうしたんだ?」
「怒られる理由に心当たりはないわけ?」

 どうやら原因は僕にあるらしい。手を胸に当ててみた。
 ふむふむ。

「僕の胸は、心当たりないと言っているけど」
「へえ、そう。ふーん」

 やっぱり怒っている。原因は一体何だろう。本当に心当たりがないんだけど。

 ……と思ったら、リンダは一枚の紙を出してきた。見たことある。
 僕が学院で書いた進路希望調査票だ。

「これがわたしのところに回ってきたのよね。これでいいのかって」
「そうなんだ」

「卒業後の進路よね」
「うん、軍人にはならないって以前言ったよね」

「それは聞いている。……で、卒業後の進路が地方都市のパン屋になっているんだけど?」
 どういうつもりだ、ああん? という風に聞いてきた。

「えっ? 希望を書けって言うから、僕の希望、パン屋をやりたいなぁーって……だめだった?」
 最後は可愛く言ってみた。何しろ、言っている途中で、リンダの顔がみるみる険しくなってきたのだ。

「だめに決まっているでしょ! ここは将来の夢を書くところじゃないの。何の仕事をするのか書かなきゃいけないのよ。夢見がちな少女だって、もう少し現実を見ているわよ。あんた、地方のパン屋って、シャラザードを連れてできるわけないわよ」

「でもほら、マスコット的な?」
 シャラザード可愛いし。
 黒竜がお出迎えする店。有名になって、流行るかもしれない。

「あんた、ちまたでなんて呼ばれているか知っている?」
「いや?」
 何だろう、悪い予感がする。

「黒き死神、魔国の天敵、問答無用の殺戮者、大いなる災い、月魔獣すら裸足で逃げ出す竜操者レオン、略して『はだにげレオン』よ」

「ちょっと待った!」
「……なによ」

「最後、僕のことが出てた。なんで僕が言われちゃうの?」
 シャラザードのせいなのに。

「なに言っているのよ。いまの全部あなたに付けられた名前よ」
「はい?」
 全部、僕? シャラザードじゃなくて?

「だってあなた、シャラザードの主でしょ」
「うん」
 それは否定しない。

「だから、魔国兵二万を殲滅させたのも、反乱軍を同士討ちさせたのも、みんなあなたがやったことでしょ。列挙したふたつ名はみんなあなたの頭に被せられるものよ」

「そのりくつはおかしい」

「おかしかないわよ。……というわけで、最近わたしまで変な名前で呼ばれるようになったんだら」
「ちなみにどんな?」

「ごめん、忘れて。なんでもないわ」
「ちなみにどんな?」

「………………」
「ねえ、どんな?」

「……邪竜に乗った悪鬼をアゴで使う女」
 ものすごく言いにくそうにリンダは言った。

 邪竜に乗った悪鬼? 僕が悪鬼ってこと? それはないんじゃないだろうか。
 そしてリンダの周りで、僕の評判が地に落ちているのがよく分かった。

「風評被害の恐ろしさを肌で感じたよ」

「風評被害はわたしの方で、あなたの場合ほとんど自業自得だと思うけど……で、この進路希望調査票の話に戻るわね。あなたはルッケナ商会所属で良いわよね」

「えっと……はい?」
「どうして疑問系なのよ」

「いや、どういう扱いなのかよく分からないし」

「簡単に言うと、ウチの臨時職員ね。シャラザードが必要になったらそのときだけ雇う感じかしら」
 臨時でも給料が出るらしい。

 ちなみに軍属にならないので、国からの給金は一切出ない。
 そのため僕の収入は、リンダからもらう給料以外だと、月晶石を取り出して売ったものとなる。

 シャラザードの場合、下手に国から給与を貰うよりもその方が儲かりそうだ。
 軍属にならなくても、竜操者の五箇条は守るべき義務として残っている。

「分かった。じゃ、それでお願い」

「それで手続きしてくるわね。これ、年内までにしなくっちゃいけないから、なるべく早くやっておくわ」

「なるほど」
 もう卒業後のことを考える時期に来ているのか。

 僕が王都に来たのははるか前に思えるが、まだ二年経っていない。
 そう考えると、王都でずいぶんと濃密な時間を過ごしたことになる。

「わたしはしばらく南方へ行くわね。戻ってくるのは竜迎えの儀の頃になるかしら」
「なんで? 危険じゃない?」
 反乱が鎮圧されてまだ幾日も経っていない。

「大丈夫よ。常駐している兵が多いし、もう二度と起こらないよう、町全体で目を光らせているわけだし」

 リンダは来年から本格的に商売を始める。
 その足がかりとして竜国の南方を選んだ。

 技国へはいまコネクション作りに精を出しているらしい。

 兎の氏族が序列一位を取ればそれも可能になってくるので、いまはじっくりと南方での拠点作りをするらしい。

「しかし驚いたね。南方の反乱は一気に決着がついたみたいだし」
 町ごとに起こった反乱だったため、連携される前に多数の竜と兵で各個撃破したらしい。

 多少の犠牲が出たものの、町は比較的すぐに開放され、竜国の軍の優秀さを示した戦いになったという。

「反乱が鎮圧されて、技国に行っていた政府の高官が戻ってきたって聞いたけど、技術競技会の様子はどうなっているのかしら」

「さすがにリンダでも大山猫の氏族で行われていることは分からないか」
「コネがないもの。……でも、そのうちすべての本拠地に支店をおいてやるんだから」

 リンダは燃えていた。そしてリンダならば、本当にやるかもしれない。それも、そう遠くない未来に。

 そして僕の未来も決まった。
 地方都市でのパン屋は……無理らしい。まあ、そうかなと思う。

 いまはリンダの所で雌伏のときだ。
 そして頃合いを見計らって……そのうち、パン屋を……開く!

「……あれ?」
 いま気づいたけど、当面僕はリンダに雇われることになるのか。

 なんだろ、そう考えるとちょっと複雑だ。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ