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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ドナルマーが東の都に戻ってきたのには、いくつか理由があるが、その内のひとつが大変だった。

「ダイネンがやさぐれておる」
銀檻ぎんかん』のダイネンは、ウルスの町襲撃のため、多くの優秀な人材を魔国に提供していた。

 だが、帰還はゼロ。全滅である。
 技国への侵攻もそうだが、出し惜しみをしなかったことが被害を拡大させてしまった。

「人材の育成は金も時間もかかりますからね」
 ただの人の代わりならばいくらでもいるが、使える人材となると話は別である。

 磨けば光る者は少ない。
 そして磨ききらないうちに実戦に投入すれば、それはただの消耗品。
 今後の立て直しを考えているダイネンは、育成の険しさと長き道のりにやさぐれはじめたのだという。

「彼については、こちらで少しフォローしておきます。それで『楽園』はどうなっていますか?」

「人手がいるな。いま山に強い者をかき集めている最中だ。しばらく儂はこれにかかりきりになるが、よいか?」

「ええ、お願いします。私としては最初から選任してもらいたかったくらいですから」

「ならば、できるだけのことをしよう。ただし、早晩見つかるようなものではあるまい。時間はかかるぞ」

「分かっています。竜国に知られると、すべてかっ攫われてしまいましからね。秘密裏に動くことだけは約束してください」

「わかった。後腐れのない者を中心に集めておる。情報が漏れぬよう、何重にも警戒しよう」

「そうしてくれると助かります。あとはそうですね。ウルスの町は探れませんか?」
「魔国側からは無理だな。警戒が厳し過ぎる。そもそもあそこはもう落とせん」

「そうでしょうか。もし領主が死んでいた場合はどうでしょう」

「可能性はある。あそこは個のカリスマでまとまっていたからな。だが不確かな情報では、動くに動けん。探りを入れにいったのばバレたら、反対の情報くらい流す奴だ。つまり、どんな情報が入って来たとしても、当てにはできん」

「しかたありませんね。諦めます。とりあえずはですけど」

「その方がいいだろう。動くのは領主が交代してからでも間に合う。あの町を牛耳れるのはそうはおらんからな。それよりも、儂らの計画を潰した者がいたであろう。その対処はどうするのだ?」

「黒竜の主、レオン・フェナードのことですか。情報は集め終わりましたが、まだ学院生なのですよ。排除も接触も難しいですね。公の場では〈影〉がついているでしょうし、学院から出てくるのを狙うならば可能かなとは思うのですが」

「それこそ護衛がいるであろうな。囮として泳がされていることもあるやもしれん。もちろん、本人には知らされずに」

「そういうことです。一応まだ味方に引き込める可能性も残っていますので、急進的な対応はしたくないのです」

「味方に? できるのか?」
「どうでしょう。同情を誘えば、協力関係が築けるかもしれないと考えています。ただ、もう少し人となりを見たいんですけどね」

「戦果をみる限り、かなり攻撃的な性格だと思うが」

「どうやら竜に指示を出して、好きに行動させているようなんです。ですから、あれは本人の意志ではなく竜本来の性質かもしれません」

「なんと、竜に勝手させて? そんなことができるのか?」

「特殊竜だからでしょうか。その辺は情報不足ですけど、レオンがいなくても竜が敵味方をちゃんと判別して攻撃していたことは、わずかな生きのこりの証言からですが、確かです」

「ふうむ。信じられんな。……人と竜の新しい関係か?」

「さあて、どうなんでしょう。彼については引き続き接触していく方向でよろしいですか? 排除は保留で」
「ああ、そういうことならば任せる」

「ありがとうございます。では引き続き、『楽園』探しの方、よろしくお願いします。私は竜国の目を他に向けさせますので」

「分かった。互いにもう失敗はできん」
「そうですね。気をつけましょう」

 こうしてフストラとドナルマーの会話は終わった。
 商国は魔国に見切りをつけ、『楽園』探しへ本格的に動きだしてゆく。

                ○

 竜国の南にアラル山脈がある。
 東西に長く延びるこの山脈のおかげで、竜国と商国はほとんど領土を接することがない。

 アラル山脈はその昔、魔物山脈と呼ばれ、平地を追われた魔物たちが多数逃げ込んだ場所と言われている。

 それも今は昔。
 山脈のどこを探しても、当時の魔物姿はどこにもない。
 駆逐され、数を減らした魔物たちは、いつしか淘汰されていった。

 この広大な山脈の商国側を管理しているのは、五会頭のひとり『鉱燐こうりん』バッカール・トーリオである。

 バッカールは、魔物が逃げ隠れるために開けた穴に目を付け、そこを改造し、広大な洞窟倉庫をいくつも作り上げていった。

 商国の国土は肥沃とはほど遠い。

 砂地と荒地がほとんどで、大きな岩がゴロゴロとした難所がいくつもある。
 西の都と東の都周辺はそれでも水も緑もあるが、ほとんどが人が入るのも難しい深い森となっている。

 世界中で活動する商人は、自分たちの荷をどのように管理しているのか。
 都に置く?

 東西の都にはそのような空き地はない。
 倉庫ひとつ建てるのも大変なくらい狭いのである。

 他国に置く?

 政変があればどうなるか分からない状況で、全財産を他国に置くのは得策ではない。

 またあらぬ嫌疑をかけられ、全財産を没収される可能性もある。
 その中に禁制品が混じっていれば、目も当てられない。投獄か処刑である。

 ではどこへ仕舞っておけばよいのか。
 それが商人たちの悩みの種だった。

 バッカールはアラル山脈の空洞を利用して、商国商人専用の倉庫を造った。
 巨大な倉庫である。

 それを商人たちに貸し出している。

 人が常駐しない倉庫は危険である。
 バッカールは出入り口を強固にすることでその問題を解決した。

 門は厚さが一メートルもある鉄板を使用している。鍵も特注である。

 中型竜がまる一日体当たりしても破られることがないというのが売りである。

 事実、数人の見張りを付けたところで、大勢に襲われてしまえば意味はない。
 門そのものを頑丈にすることで、中の荷を守ることを思いついた。

 バッカールは決められた者以外が開けられない扉を用意し、それはどんなにがんばっても破壊不可能という付加価値で信用を得た。

 事実、今まで一度も破られたことはない。
 そのため、多くの商国商人たちが荷物を預けていく。

 絶対安心の倉庫。
 それがバッカールが売りにしている名文句であった。

 ――だが。

 アラル山脈から複数の黒煙が上がっている。
 そんな一報を受けて、バッカールは大勢を引き連れてやってきた。

 誰か向こう見ずな者が倉庫の中のものを狙いにきたと思ったのだ。
 駆けつけてみると、倉庫は無事。というよりも、扉には傷一つついてなかった。

「変だな」

 この辺りで黒煙が上がっていたと報告があった。
 来てみれば門は全くの無傷。

 念のためと、バッカールは扉を開け、中身の確認をした。すると……。

「なんじゃこりゃぁ!?」

 中は空だった。
 といっても盗まれたわけではない。
 なくなったのだ。何もかも、溶けてなくなっていた。

 バッカールは見上げた。光が差していたのだ。
 天井には大きな穴が開いており、遙か先に空が見えた。

「まさか、山の上からだと?」

 山の上から超高温の何かを流し、その真下まですべてを溶かし尽くした。それしか考えられない。
 上がった黒煙は、商人たちが預けた荷が燃えたもの。

 つまり、倉庫の中身は全滅だった。

「……ハッ。まさか、他の倉庫も?」

 悪い予感は当たる。
 報告のあった複数の黒い煙は、みなバッカールの倉庫を山の上から溶かし尽くしたものだった。

「だ、だれがこんなことを……」

 商人たちから預かった荷をすべて失い、バッカールはくずおれた。

 破産は確実。
 いくら損害を賠償したところで、払いきれるものではない。

 それどころか、何人もの商人が破産するだろう。
 そんな未来がすぐそこにやってきている。

「だれがこんなことを!」

 血涙を流すバッカールだが、それに答える者はだれもいなかった。

 そこにはただ、すべてが溶けた大穴が開いているだけ。


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