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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 大転移に関する情報は、はじめ竜国が独占していた。
 他の国がそれを知るほど長期にわたって研究していなかったとも言える。

 現実的な問題として、竜国が発表しなければ、他国は何の対策を立てることなく大転移を迎えてしまう。

 それを憂いだアルヴァータ・ルクストラは、より多くの人が救われるよう、妹のイザベルにその事実を告げた。

 アルヴァータには持病があった。
 若い頃から精神的に追い詰められると過呼吸をおこし、精神が安定するまで予断のない状態が続くのである。

 とくに女王の夫に選ばれてからはそれが顕著となった。
 王宮でかかっていた医者がフィロス・シラームである。

 フィロスは王宮のかかりつけ医師として何度もアルヴァータを診たことがある。

 その縁でフィロスと知り合ったのが、アルヴァータの妹イザベルである。
 フィロスはイザベルと結婚し、のちに竜国運営会の一員となる。

 そのときに、王宮医師の職は辞している。
 権力が集中することを避けたのだ。

 フィロスがアルヴァータの主治医から外れた後でも、イザベルは看病のため、何度も兄と会っている。

 それは、アルヴァータが竜国の機密情報を扱う部署で働くようになってからも同様である。

 大転移の情報がアルヴァータからイザベルへ流され、夫のフィロスを通して魔国の間者へと流されたのも、すべては少しでも多くの人を大転移から救いたいという気持ちのあらわれからであった。

 それが大いなる戦乱の幕開けと、隠謀が飛び交う事態へとなったのは、なんと皮肉なことであったか。



 大転移の情報を得た魔国王は決断した。
 自国民の命を生きながらえさせるためには、何でもしようと。

 そのため、当時『魔探またん』の行方を探していた『宝寿ほうじゅ』のドナルマー・テンナイと接触することになる。

 かつて五会頭のひとりであり、『魔探』と呼ばれていたデュラル・ディーバとドナルマーは、ともに魔国を商売の起点としていたことで親しかった。

 商国を追放になった後でも、デュラルは魔国にいると信じて疑わなかったのも致し方ない。

 天蓋てんがい山脈から出る宝石をドナルマーが、他の珍しいものをデュラルが取り扱っていたことで、互いに共通の取り引き相手がいたことも大きい。

 だが一向に『魔探』の行方は分からず、かわりに魔国王からの接触があった。
 いわく、この国難に力を貸してほしいと。

『魔探』探しを一旦切り上げ、東の都に戻ったドナルマーは、『麦野ばくや』フストラ・エイルーンにそのことを話した。

「ちょうど良いかもしれません。『楽園』には新しい秩序が必要です。商国が主導して魔国が従うのならば、協力できるでしょう。策は私が考えます」

 この後、密かに魔国と商国の二国間同盟が成立した。
 仲介したドナルマーがこのことにかかりっきりになったため、『魔探』捜索が一時的にストップしてしまった。

 捜索中であったデュラルが死亡していて、その娘が後を継いだと知るのはかなり後になってからである。

 技国が探している『楽園』の話は魔国王も聞いていた。だが荒唐無稽、眉唾なものという認識しかなかった。

 それよりも大転移である。現実の脅威が迫っているのに、あるかないか分からないお伽話に魔国民の未来をかけるわけにはいかなかった。

 魔国王が出した結論は他国への侵攻。
 陰月の路が北方に移動した場合、首都と穀倉地帯を一気に失う。

 国民を間引きするか、どこか肥沃な土地を奪取するか。
 その二択を迫られたとき、魔国王は迷わず後者を選択した。

 陰月の路が移動すれば、いまこの大陸にいる全員を食わす余裕はない。
 移住したい、食糧を分けてもらいたい……そんな話し合いは不可能だった。

 考え抜いた末に、魔国王は商国の提案に乗った。
 技国と竜国の一部分を侵略し、そこに魔国民を移住させる。

 武力前提の策であり、多くの人の命が失われる。
 それでも座して死を待つよりは何倍もいい。

 かくして策は実行され、敗北した。
 あとは死を待つのみか、それとも。

 魔国王にはもうひとつの選択肢が残されていた。
 歴史上に悪名を残すことになる道が。

 それを採択するのか、決断の時は近い。
 いや、魔国王は最初に決断したのだ。

 ――何でもすると。


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