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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 商国、東の都。

 五会頭のひとりである『宝寿』ドナルマーは、先ほどから難しい顔をしていた。

『麦野』フストラから聞いた話は、自分の予想と大きく違うものだった。

「竜国の反乱が、それほど呆気なく鎮圧されたと?」
「その通りです。私としても意外でした」
 ドナルマーは目を閉じ、しばし考える。

 竜国の反乱はただの呼び水で、あれが成功する確率は半分程度と見ていた。
 竜国内が混乱すれば魔国が侵攻しやくすくなり、竜国の影響力も減る。

『楽園』が見つかったあとの世界構想には、竜国の力ははっきり言って不要だった。
 なんとしてもその影響力を低下させねばならない。
 そのための作戦だったのだ。

「技国への侵攻の方も失敗したと聞いたが、どういうことだ?」
 両方の策が失敗するのはさすがに許容できんと、ドナルマーは厳しく問う。

「そう言われましても、必ず成功する策などありませんよ」
「失ったものは多すぎる。作戦が漏れたのか?」

「いえ、それはあり得ません。こちらが提示した策は、政権交代のやり方だけですよ。魔国関連については、一切伝えていませんから」

 フストラにとって情報戦はお手の物である。何を伝えるのか、間違うはずがない。
 竜国の王宮を探っていたときに知り合ったフィロスには、王位簒奪の方法しか伝えていない。

 女王を暗殺しても、武力の背景がなければ机上の空論。ゆえに他の町の少なくとも領主格の同盟者が必要であると伝えた。

 例によってあと数年かければ完璧な計画が出来上がったのだが、大転移は待ってくれない。
 最低限の成功保証が出た時点で詳細な策を授けて決行を促した経緯がある。

 その裏をかいてウルスの町襲撃をよんでいたとは到底思えない。

 魔国が侵攻したのは、自国民を生き残らせるため。
 ずっと援助をしてきたドナルマーとしては、侵攻の失敗はかなり腹に据えかねるものだった。

 貴金属を扱うドナルマーには多くの顧客がいる。
 彼らに売った宝石で得た金は、すべて今回の反乱につぎ込んでいた。

 魔国が国費を使って何かやれば、かならず竜国の諜報に見つかる。
 ゆえにドナルマーは私財でそれをあがなったのだ。
 竜国侵攻だけではない。その前の技国に対しても、多大な援助をしている。

「魔国の生き残り策に方向性を与えたのは成功しました。揃えた武力もかなりのものでしたしね。その節は協力ありがとうございます」

 フストラはドナルマーに頭をさげた。
「だが失敗した」

「ええ、下準備は万全でした。何しろ魔国は貴重な人材を供出したのですから」
 フストラは技国侵攻時の戦力を並べ上げた。

 多くの兵と貴重な魔道使い……その名前をフストラが読み上げるうちに、ドナルマーの顔がさらに険しくなる。

「儂が思うに、豪華な顔ぶれだ。失敗する要因が見当たらぬのだが」

 不意さえつければ、一夜にして本拠地を落とすのも夢ではない。
 それを繰り返せば、労せず技国を手中に収められるだろう。

「すべては黒竜とそれを操る竜操者のせいでした。そのときの資料はできていますので、読みますか?」

 この時点でフストラは、兎の氏族領で起こったことをほぼ正確に把握していた。
 負けるはずのない奇襲攻撃で敗北したのは、絶対的な暴力に抗えなかったからである。

「資料か。見せてもらおう」
「どうぞ。読んでも驚かないでくださいね」

 ドナルマーは黙って資料を読む。

「……なるほど。これでは失敗するか」
 目を通したドナルマーは納得せざるを得なかった。

 たった一体で二万の兵を壊滅に追いやる竜の存在を考慮して、作戦など立てられない。
 報告書を読む限り、黒竜が出てこなければ、魔国の勝利は確実であった。

 すべては、戦局をひっくり返した竜のせい。それもただ一体の。

「私としては、竜国の反乱の方が不気味なんですよね」
「……うん?」

 竜国の反乱が失敗して打つ手がなくなったことは知っている。
 今回も、後のことを検討するため、ドナルマーは戻ってきたのだ。

「竜国の反乱は、東部の蜂起、王都の暗殺、西部の襲撃。この三つで成り立っています。これがすべて失敗するとは、さすがに予想外にもほどがありますよ」

 ここではじめて、ドナルマーはフストラの表情に気づいた。
 根を詰めているのだろう。よく寝られていないのか、顔色が悪い。

「ダイネンは人材を供出し、儂は金を出した」
「ええ。領主の暗殺は、失敗するはずがなかったんですけどね」

 リトワーン・ユーングラスを倒すため、魔国はかなりの精鋭を送り込んでいる。
銀檻ぎんかん』ダイネンの秘蔵っ子を投入したのだ。
 勝利は揺るがないはずであった。

「なぜ失敗した?」
「分かりません?」

「ん?」
「本当に分からないのです。館を襲った刺客は、だれひとりとして戻っていません。ああ……そうですね、分からないといえば、暗殺が成功したのか、失敗したのかすら、いまだ分かっていません」

「どういうことだ?」

「ウルスの町に動揺がないので、失敗していると判断したまでです。襲撃の事実含めて、領主側からの発表は一切ないのですよ」

「ふむ……奇妙だな」

「そうなんですよね。もしかすると、リトワーンは生死の境をさまよっている……なんてことも考えられますが、動きが一切表に出ないので、探ることができない状態です」

「分かった。探れないのならば仕方ない……それで竜国に侵攻した魔国軍の状況はどうなっている?」

 魔国がウルスの町を挑発し、その上で侵攻したのは暗殺の成功率を上げるため。
 リトワーンが倒れれば竜国軍は動揺する。

 その隙を突いて、領土を切り取る作戦が練られていたのであった。

「町が落ちませんでしたので、順次撤退しています。今は魔国領内に戻っています。次の機会を狙うにも、最大限に警戒されていますので、難しいでしょうね」

「それは困った。当初は、技国と竜国の半分を得る予定であったはず」

 技術競技会という、各氏族の代表者たちがいない時期を狙っての侵攻だった。
 注目が技国の東に向いているのもちょうどいい。

 密かに侵攻を続け、気がついたときには国の半分を手に入れているはずであった。

 竜国に至っては、多方面から反乱の火の手が上がり、魔国の侵攻に対処する隙を与えないうちにことを終わらせる予定だったのだ。

 あれだけ入念な準備をし、多額の金品を投入しておこした今回の作戦。
  何一つ得る事なく終わるのは、投資してくれた仲間たちを裏切ることになり、死んでいった者たちも浮かばれない。

「悲しいことに竜国も技国も手が出せない状況になってしまいました。魔国の状況はどうです?」

「最悪だな。多数の兵を失い、貴重な魔道使いが未帰還となった。いずれ魔国民も知ることになるだろう。すべての希望が絶たれた、どうしてくれるのだと」

 それはひとつの国が終わる怨嗟の声。
 一身に受けるのは魔国王とその側近たち。

 魔国に起死回生の策がまだあるのか、それとも……。


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