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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 義兄さんがフィロスの屋敷の捜索を手伝ったのは理由がある。

 王都にいる〈影〉の中でも、戦闘に特化した〈右手〉などは、細かい仕事にあまり向かない。
 情報を扱う〈右足〉あたりがちょうどよいのだろう。

 僕のような地方の〈右手〉だと、何でも屋だったりするが、王都の場合は専門集団になっている気がする。

「フィロスは王配の考えに共鳴していたな。それもかなり深いところまで」
 屋敷からは、両者のつながりを示す書類が続々と出てきたという。もちろん全処分だ。

「ということは、本当の黒幕はアルヴァータとなるのかな」

「どうだろう。フィロスの方がより積極的に王配を王位に就けたかったように思えた。城の外に出られない王配のために、色々と資料集めと調査、実験をしていたようだ。作りかけの草案や書きかけのメモなんかもかなり見つかった」

 中でも凄いのはと、シャナ牛に関する調査報告書だと言うので聞いてみた。
 義兄さんも興味をもったらしく、諳んじてくれた。

 シャナ牛は言わずと知れた竜の餌である。
 これは王都の南東にある大牧草地帯シャナ地方で飼われている。

 シャナ牛一頭で、年間一万キログラムの牧草を食べているらしい。大食いだ。
 人と竜が食べる分として、最低でも二万頭が飼われている。

 牧草地には休耕地を含めて、その三倍の生産能力があるという。つまり、翌年の牧草がなくなってもいいと考えれば、実に六万頭分の餌が確保できる計算になる。

 人が年間に食べるパン。それを小麦に換算すると約二百キログラム。
 シャナ牛の育成を止めて、毎年小麦を生産した場合、シャナ牛一頭で五十人分が賄える。
 つまり最大で三百万人分の食糧に変わる。

 これをフィロスは真剣に検討していたようだ。

 大転移によって魔国の生産量が五分の一に減ったとしても、他で賄えばなんとかできるのではないか。
 そんな世界を夢描いていたらしい。

「共栄圏構想と銘打っていたけど、各国が何分の一かの食糧を負担し合って間国民を助ける。平和裏のうちに国境という概念を忘れさせて、国という制度を緩やかに解体していく……」

 それがフィロスの夢だったらしい。
 義兄さんたちはひとつひとつ資料を吟味して、王家に関わりがありそうなものをすべて処分したという。

「でも実現しないんでしょう?」
「そうだな。竜国が竜の存在を否定することにつながる。月魔獣の脅威がある状態で、それはできない選択だな」

 人を生かすために竜に退場を願う。
 それは一見正しいように見えるが、根本が間違っている。

 人は人のみで生きることはできないのだ。
 しかもこれから大転移が来るというのに、そんな『楽園』のようなものを夢見られても、現実は変わらない。

 結局、反乱はどうあっても成功しなかったと思う。
 みなが争わずに暮らせる世界は簡単にできるものじゃない。

「ただ、その考えを馬鹿にすることはできないね」
「まあな。おれたちの仕事は必要悪じゃない。ない方がいいんだ」

 もしそんな世界がやってきたら、僕は迷わずパン屋を開く。
 フィロスは間違ったけど、それはきっとやり方を間違えたんだと思う。

「それと兎の氏族に魔国軍が侵攻しただろ」
 義兄さんが話題を変えた。

「うん。王女殿下が巻き込まれて大変だったよ」

「俺たち〈影〉の間でもかなり話題になったが、王都の民の間にも広まってきてな」
「あっ、そうなんだ。早いね」

 情報の伝達速度は竜によるものが最速となる。
 竜操者どうしの情報ネットワークは馬鹿にできない。すぐに広まるのだ。

 次に早いのが〈影〉どうしのつながり。とくに義兄さんのような〈右足〉は他国の情勢には敏感にならざるを得ない。

 なにしろ、情報を自分たちの足で運ぶのだ。戦乱が勃発した町などは通行できない。
 いかに早く間違いなく届けられるか。そのためには常に情報収集は欠かせないはずなのだ。

 そして商人も同じ。
 しかも最近は、リンダが独自の伝達棒を構築しはじめたので、それによって竜国商会内部での情報伝達速度が格段にあがった。

 もはや〈影〉と同レベルではないかと思うほどだ。

「おまえがやり過ぎただろ。あれがかなり広まっていてな」
「やり過ぎたって……二万の兵を蹂躙したこと? あれはシャラザードが勝手にやったんだよ」

「世間はそう見ないってことは分かるよな。人の命を容易く刈り取る黒きいかずちはいまや、恐怖の代名詞だぞ」

「ちょっと待って! 黒き雷って、あの時は属性技は打ってないから! 僕は関係ないから!」

「王都でも、黒き雷が来るぞと言えば、どんな子どもでも泣き止むらしい」
「なんで!?」

 世のお母さん方。
 子どものしつけの時、僕をダシに使わないでください。

「東の反乱鎮圧の噂もそろそろ届くだろう。そうしたら、それ以上になるな」
「いや、いや、いや、いや。あのときはそんなに殺してないから。殺したのは向こうの竜たちだって」

「だがやらせたのはおまえだろ?」
「それはそうだけど」

「気になるなら、町の噂を集めておこうか?」

 義兄さんの問いかけに、僕はノーと言った。
 聞きたくないわ!


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