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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 学院の僕のもとへソウラン操者がやってきた。
 授業中だったが、それはいいから来客の応対をしろと言われた。

 ソウラン操者は有名人。
 授業が終わるまで待ってろとは言いづらいのかもしれない。

 僕もある意味有名人なので、ソウラン操者が訪ねてきても、教師も同級生たちも何も言わない。
 この「有名人」と「ある意味有名人」の間には越えられない壁があるのだけど、それはいま関係ない。

「ここじゃあれだから、外を歩こうか」

 挨拶もそこそこ、応接室でソウラン操者はそう言って微笑んだ。
 ソウラン操者の前に置かれていたお茶はまだ温かかった。

「竜は置いてきたんですね」
 乗ってくれば騒ぎになったはず。
「ああ、王城の竜舎にいる」

「王城ですか? 操竜場ではないく?」
「女王陛下との謁見があってね。そのために王都に出てきたんだ。……ここは変わらないね」

 ソウラン操者は周囲を懐かしそうに眺めていた。
 竜操者はよほどのことがない限り、ここで二年間学ぶ。

 みな同窓生というわけだ。

「こちらに戻ったということは、アクリの町の処理は……」
「終わった。あのときは我が侭を聞いてもらってありがとう。私の納得できる形に終わらせることができたよ」

「いいえ。僕はただ反乱を鎮圧する命令を受けただけですから」
 事後処理はそれに含まれていない。

「義父を斬るのを見逃してもらっただろう?」
「それはまあ」
 斬りたがっていたし、斬られたがっていた。

 あのとき、義親子の間で通じる何かがあったのだと思う。だがら静観した。
 僕としては、結末はどちらでも良かったのだから。

「それで今日ここに寄った理由だけど」
 ソウラン操者は、ようやく本題に入った。

「女王陛下から謹慎を言い渡された」
「えっ? だって落ち度なんかなかったじゃないですか」
 捕まったのは、不可抗力だと思う。

「かなり温情措置だよ。式は挙げていなかったけど、彼女は私の婚約者だったしね。私自身、一族としてすでに扱われていたんだ」

 婚約者の名はサフラン・エイドル。
 ソウラン操者の目の前で自害した女性。

「連座されるところだったと?」
「されてもおかしくはなかった……かな。だから私は女王陛下に感謝している。それにとっておき(・・・・・)の情報も教えてもらったしね」

「とっておきの情報ですか?」
 僕の顔がゆがんだ。
 女王陛下との会話は胃に悪いのだ。

 その上で「とっておき」なんて、聞きたくない話題の筆頭だ。

「僕としては、それ。聞かなかったことにした方がいいと愚考しますけど?」

 妙な言い方になってしまった。
 ソウラン操者は笑って僕の肩を叩いた。

「変な心配をしなくても大丈夫さ。この謹慎中に私はそれをするつもりなんだ」
 今度は力強く言い切った。

 僕はふと違和感を抱いてソウラン操者の顔を見た。
「……変わりましたね」

 婚約者を亡くした時は一気に老け込んでいた。
 見て分かるほどに落ち込んでいた。

 今にも消え去りそうなほど、儚げに見えた。
 それがどうだろう。
 力強い本来の活力を取り戻したかのようだ。

「女王陛下から聞いたよ。今回の黒幕とは別に、四つの国を巻き込む戦略の絵図を描いた者がいると」
「商国のことですか」

 確証はないが、女王陛下が警戒している人物がひとりいる。

「そう。だからこの謹慎期間中に行ってくるよ。復讐? よく分からないけど、彼らの企みを潰してくる。彼女の運命をねじ曲げてしまった奴らに、死んでいった彼女たちの代わりに業火をお見舞いしてやるつもりさ」

「ほどほどにお願いしますね」
「キミの口からその言葉が出るとは思わなかった」

 ソウラン操者は、おかしそうに笑った。なぜだろう。

「その言い方だと、僕に常識がないみたいですけど」
「いやすまない。でも、人死は出ないと思うから安心していいよ」

 何をするつもりだろうか。
 ただ、それがなんであれ、ソウラン操者に生きる目標ができたみたいだ。

「じゃ、私はもう行くよ。本当はキミにお礼を言いに来ただけだから」

 ソウラン操者が敬礼をしたので、僕も返礼した。

 そして無駄にさわやかな笑顔をまき散らして去って行った。



 その日の夜。
 僕は、義兄さんの昼間の事を話した。
 とくに謹慎を受けたことが驚きだったのだけど。

「身の安全も考えたんだろうな」
 すべてを聞き終えたあと、義兄さんはそんなことを言った。

「そうなの?」
「今回は竜に乗っていない状態を狙われたからな。もう一度あるかもしれない」

 商国の陰謀で反乱が起きたと仮定した場合、ソウラン操者は最初から排除対象に入っていたことになる。

 そのためにフラットを取り込もうとしたのかは定かではないが、商国はソウラン操者を危険視していることは疑いない。

 今後のことを考えて、もう一度手を出してくる可能性がわずかながら残っている。
 そう義兄さんは説明した。

「でも今回のことで商国はかなりの人材を失ったんじゃないの?」
 竜国内にツテでもなければ、暗殺や拘束などできやしない。人や物を集めた段階で露見してしまう。

「だから万が一さ。もしまだ敵の手が残っていて、ソウラン操者が怪我か死亡した場合、竜国は間抜けをさらしてしまうだろう?」

 一度狙われたのに何の対策も採らなかった。だからやられた。なんて馬鹿なんだ。
 そう思われても仕方ない。

「なるほど。狙われるってのは大変だね」
「おいおい。それはおまえにも言えることだぞ」

「僕?」
「反乱を鎮圧したあと、技国へ戻れると思っただろ?」

「うん。だってアンさんを送り迎えする役目だったし。そもそも兎の氏族の客分だしね」

 政変があったとはいえ、僕を招待したのは兎の氏族だ。
 技国に戻らないようにと言われた時には、「なんか変だな」と感じてしまった。

「おまえを戻さなかった理由がふたつある」
「ふたつも?」

「そう、ふたつだ。おまえ、兎の氏族領で魔国軍を蹂躙しただろ」
「あれはシャラザードが勝手にやったことなんだけど」

「それでもだ。技術競技会には魔国の要人も招待されている。情報は入っているはずだから、会わせたくなかったんだろうな。おまえとシャラザードがやってくれば、競技会を見に来た一般の魔国人たちだっていい感情は持たない。時間をおくならばまだしも、すぐは拙い」

「感情を逆なでしないようにそっとしておいた方がいいってこと?」

「そういうこと。それともうひとつが、暗殺の危険性だな。いま国外に出れば狙われる可能性がある。今まではソウラン操者よりも重要視されてなかったが、これからは違う。他国で暗殺騒ぎが続くのはいいことではないだろ?」

 なるほど。僕を戻らせたくなかった理由はそこか。
「学院と陰月の路を往復しているだけならば問題ないわけだね」

「そう言うことだな。多少窮屈になるが、隙を見せるよりはよっぽどいいだろ」

 ソウラン操者が謹慎して行方をくらませた。
 商国の目は僕に向くかもしれない。
 女王陛下はそこまで考えて僕の行動を制限したようだ。

「それとは関係ないが……いや、あるか。この前、フィロスの家の捜索を手伝ったんだ」
「へえ? ……あっ、そうか」

 犯罪者の家を捜索する人たちはちゃんといる。
 だけど、反乱の首謀者の場合、どんなヤバいものが残されているか分かったものではない。

 国家の礎を揺るがすような証拠が出ても拙い。
 というか、フィロスがアルヴァータ・ルクストラとつながっていた証拠は先に処分しなければならない。

 義兄さんが言った「手伝った」とは、正規の捜索の前にヤバそうなものを根こそぎ始末したという意味だろう。

「何か見つかった?」
「ああ、いろいろとな」

 うわっ、聞きたくないんだけど。


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