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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 入学式が始まる直前、僕は会場に潜り込んだ。
 なんで主賓なのに潜りこまねばならないのか。

 いろいろ言いたいことはあるが、講堂に入るところを狩人たちに見つかると大変だから仕方がない。

 さてこの入学式だが、えらく豪華な顔ぶれが揃っているのではなかろうか。
 たった三十人弱を祝うために、二百人以上が人が集まっている。

 そっと来賓を眺める。壮年に差し掛かった人が多い。軍服を着ている人も結構いる。

「集団でいうと職業軍人が一番多いかな。次に現役の竜操者、あっちの方は竜導教会関係者か。城からもかなり来ていると思うけど、制服がないと区別つかないかな」

 胸に勲章を付けた人や、護衛を後ろに人もいる。
 毎年こんなに豪華な顔ぶれなのだろうか。

 僕たち新入生は、ステージに向かって一列に並んでいる。
 男女の別はなく、背の順になっている。

 驚いたことに、女王陛下の名代みょうだいとして、サーラーヌ王女が祝辞を述べていた。
 王族が入学式に顔を出すのか。ちょっとびっくりだ。

「たしか、僕より二つ年上だったよな」
 サーラーヌ王女は姉さんのひとつ下だから、18歳になっているはずだ。

 ややタレ目な顔は、パッチリした目を持つ女王陛下にあまり似ていない。
 王子殿下は母親似ということだから、サーラーヌ王女は王配おうはい、つまり女王陛下の夫に似たのかもしれない。

「そういえば、女王陛下の夫って、影が薄いよな」
 竜国民の間でも、ほとんど話題にならない。

 強烈な個性を有する女王陛下がいるかぎり、ずっとそのままなのかもしれない。

「名前は忘れたけど、たしか北方の出身だっけか」
 王族の傍流で、結婚後は表舞台から姿を消してしまった。

 機密文書の統括業務に就いたために、他の王族や貴族との接触ができなくなったと言われている。
 王配ともなれば常時〈影〉が付くのだから、情報漏洩に気を使わなくてもいいと思うが、そのへんはけじめ(・・・)をつけたのだろう。

 王女の祝辞が終わった。内容は……聞いてなかった。
 それでも壇上に立つ凛々しい姿は、女王陛下譲りであろうか。

 外用に雰囲気を作っている感じもするが、王女は周囲すべてから注目されても動じることがない。
 度胸がありそうだ。

 竜の学院は二年制であり、今日から僕たちははれて一回生になる。
 男子十七名、女子十名と男子の方が多いが、この人数比は毎年のことである。

 ようやく同級生全員の顔を見ることができた。年齢は結構バラバラだ。
 僕よりも年下は何人かいるし、上は二十歳近いのまでいる。

 同室のアークが十七歳で、それよりも上に見えるのが数人いる。
 十代半ばから後半までしか竜紋が現れないのは真実のようだ。

 ステージに向かって右側に並ぶ教職員を見た。
 精悍な顔つきをした若い男性が多い。若いといっても二十代後半くらいだが。

 ほかに高齢な職員も何人かいるが、どちらかというと、若手ばかりという印象だ。
 この手の教育は経験がものを言うのだと思っていたが、体力による力押しが主流なのかもしれない。

 祝辞が終わってから、学院長の訓示が始まった。
 この手の式典は退屈なものと相場が決まっているので、僕は意識を外に向けた。

「来賓も飽きているようだな」

 身じろぎしているのが感じられる。
 それと、先ほどから講堂の外が騒がしい。

 といっても、何を言っているのか聞き取れるわけではなく、雑踏の中で聞く騒音のような感じだ。
「結構な数が集まっているな。声の高さからすると、控室にいた女生徒たちかな」

 一般人は王立学校の中に入れないので、おそらくそうだろう。
「そういえば、リンダは茶話会とか言っていたな」

 これは退出するときにひと波乱ありそうだ。
 もみくちゃにされるのは勘弁願いたい。

 そんなことを考えていると、教職員の紹介が始まった。
 式次第だと、入学式ももう後半だ。

 驚いたことに、教職員の半数は竜操者だった。
 二回生になると、実際に竜の扱いを学ぶのだが、それを教えるのは現役の竜操者らしい。

 考えてみれば、竜操者以外のだれが教えられるというのか。
 万一竜が暴走したり、どこかに行ってしまったら、連れ戻す必要もある。

 一般人ができることではない。

「……なるほど、授業見学か」

 教職員の話を聞いてみて、おもしろいことが分かった。
 どうやら僕たち一回生は、二回生の授業を見学する機会が多いらしい。

 実際の竜の扱い方を見ておけということだ。
 そのため、ここには一回生だけでなく、二回生の教職員も半分くらい来ている。

 二回生は三十一名だと聞いている。
 セイン先輩や、マーティ先輩が竜を操る姿を拝めるのはちょっとだけ楽しみだ。

 だが翌年になると、僕らが見られることになる。
 しっかりできなければ、笑われる。

 見るのは楽しみだが、見られるのはちょっと……うん、このシステムは痛し痒しだな。

 教員紹介が終わり、一回生の宣誓に移った。
 だれがするのだろうか。

「一番年長の人かな」

 宣誓のために進み出た人は、並んだ僕らの中で一番年上に見えた。

 学院長が最前列、その後ろに教職員が並ぶ。
 宣誓をする生徒はゆっくりと進み出て右手を高々と挙げた。

 朗々とした声で読み上げられた宣誓は、竜操者になることへの喜びと、使命に対する真摯さ、ひたむきにこれから頑張るという自身の決意を表明して締めくくられていた。

 大きな拍手に包まれた中、代表者が列に戻る。
 最後は全員で『竜操者の五箇条』を朗読して終了となるらしい。

「……えっ?」

 竜操者が守るべき五箇条。
 実はまだうろ覚えだったりする。
 というか、この場で暗唱できない。

 僕らはこの入学式ではじめて、『竜操者の五箇条』を皆の前で披露するのだ。

 き、聞いてないよ……。

 いや、普通、暗唱できないとは思わないだろう。
 だから、あえて知らせなくても大丈夫だと判断したのだと思う。

「えーとなんだっけ?」

 なんか頑張るとか尽くすみたいなのがあった気がする。
 その次は、お前もがんばれか?

 うろたえる僕を置き去りにして、五箇条の朗読が始まった。


 『  竜操者の守るべき五箇条

  一、 (国へ)心からの奉仕
  二、 (月魔獣対する)慈悲無き戦い
  三、 弱者の保護
  四、 契約に忠実であること
  五、 竜に誠実であること  』


 うん、半分も言えなかった。
 あとでちゃんと覚えるから、口パクだったのは許してほしい。

 五箇条の暗唱が終わってホッと息を吐き出したとき、来賓最前列にいるサーラーヌ王女と目があった。
 笑っていた。

 どうやら、僕が暗唱できないのがバレたようだ。

 よりにもよって、王女にバレるとは……そんなことを考えている間に入学式は終わった。
 最後は散々だったわ。

 講堂内の全員が拍手するなか、僕たちは一列のまま退場した。
 みな胸を張っている。

 この中でブルーな気持ちになっているのは、きっと僕だけだろう。

 外には、出待ちをする生徒たちであふれていた。
 なんかもう、愛想笑いもできそうにない。

「今回も逃げよう」

 僕は気配を消して、そっと列を離れた。

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