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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 竜国。王城。

 王城は広い。小さな町ならばすっぽり入るほどである。

 王城で働く者たちはみな入れる区画が決められており、すべての区画に足を踏み入れられるのは女王のみである。

 王子、王女であろうとも、進入禁止の区画が王城には存在している。

 サヴァーヌ女王は長い通路を進み、人気のない一角に出た。
 ここから先は最重要区画となる。

 通路を開け閉めするのは、この区画を警備する者たち。
 以前レオンが〈影〉専用の通路から城に上がったことがあるが、それと同じ造りとなっている。

 気の遠くなるほど長い審査を受けて、女王はようやく最奥部の区画へ足を踏み入れた。
 ここには月の軌跡を記録し、大転移の発生を予言した月詠司つきよみつかさなどが入っている。

 ここで働く者は、二度と外へ出ることは叶わない。
 それを理解し、同意した者のみがここで働いている。

 女王は区画の中をまっすぐ進み、ある建物の前に立つ。
 ためらいなく扉を開けて、そのまま進んだ。

「いるかしら」
 女王の声に一人の壮年男性が振り向いた。
 男は脚立の上に立ち、両手に資料を持っていた。

「私がここにいない方がおかしいだろ?」
「そういえばそうね」

 巨大な円形の部屋だった。
 異様なのは、壁一面に書類棚が設置されていて、そのすべてが埋まっていることであろうか。

「話ができないわ。下りてきてくれる?」
「……分かった」

 男は脚立を踏みしめ、一段、一段と下りてくる。

 男の名はアルヴァータ・ルクストラ。
 サヴァーヌの夫であり、この『機密文書保管庫』の主でもある。

 ここには、表に出せない資料や外交文書などが多数保管されている。
 もちろん、アルヴァータはその中身をすべて把握している。

 ゆえに彼はこの保管庫から出ることはない。
 王配であるにもかかわらず、政治に関わらない理由がここにあった。

「おまえがここに来たということは」
「終わったわ。反乱は失敗というところかしら」
「そうか」

 それっきりアルヴァータは黙ってしまった。

「アクリの町にはレオンを行かせたの」
「シャラザードか。ならば、反乱軍には勝ち目はないな」

 この保管庫には、シャラザードが語り、レオンが記述した資料も入っている。

「アクリを反乱の拠点にしたのは良い判断よ。海上から補給ができるし、兵も集めやすいわ」
 もともと兵の少ない北方や、あっても動かすことのできない西方に比べて、東方は兵力に余裕があった。

「それだけでは王都は落とせん」
「そうね。だからフィロスが刺客を入れたのよね」
「だが、失敗した」
「ええ……」

「あれも田舎暮らしが性に合っていたのだ。可哀想なことをした」
「でも責任は取ってもらわないと」

「妹は心を痛めていた。無理をさせ過ぎているとな」
 アルヴァータの妹イザベル。今はフィロスの妻である。

「でもやっぱりあなただったなんて……」
 女王はこっそりと息を吐いた。

「知っていたのか?」
「半分ね。月詠司の情報が魔国に漏れたもの。手段が限られているわ」

 月読司の人間か、アルヴァータしかいない。
 ゆえに犯人は限られる。

 アルヴァータですら、この区画外へ出ることができない。
 だがアルヴァータには、外部の人間と接触できる抜け技があった。

 妹との接触である。
 アルヴァータが病に倒れ、妹が見舞いに来たことがあった。
 それもつい最近。

「あれは、心を痛めていた」
 あれとはイザベルのことだろう。
 彼女が情報をフィロスに漏らし、フィロスが魔国、そして商国に知らせた。

「すべてを救うことはできないわ」
「だから魔国を見殺しにして、商国の影響力を排除すると?」

「ええ、そうよ。救う者は選ばないと」
 共倒れにならないために。そう女王は告げた。

「傲慢な考えだ。竜国だけが生き延びてどうする? その後の世界は健全なのだろうか」
「分からないわ。竜国の中で貧富の差が出てくるかも知れないし、そうならないかもしれない」

「地方はより貧しくなり、中央は富めるままか?」
「そうならないように調整するのが王の仕事であると考えるわ」

 月魔獣の脅威があるこの国では、地方は平等ではない。
 陰月の路付近にある町では、多くの負担が強いられる。

 その他の地方でも、富は一旦王都に集められて、必要なところへ分担される。
 なぜか。竜国運営会がそう決めているからである。

 王都主導による地方政治。
 それに月魔獣への対策が重なって、目に見えない歪が至る所にできていた。

「私の提案、覚えているか?」
「もちろんよ」

 アルヴァータは、竜の餌となるシャナ牛の放牧を止め、そこを人間用の穀倉地にする案を提出していた。
 単純計算で数百万人分の食糧が賄える。

 その試算をもとに、各国の余剰食糧を効率的に運搬すると、救える人数は最低でも三百万人。
 努力すれば五百万人が、飢えることなく生きられる。

 だが女王は、竜は国防の要と、その案を議題にあげることなく却下した。

「……結局、平行線だな」
「そのようね。残念だわ」
 分かってもらえなくてと、女王は悲しげに頭を振った。

「あれはどうなる?」
「どうなるかしら……でもきっと変わらない」
「……そうか」

「じゃ、行くわね」
「ああ」

 女王は一度も振り返ることなく、保管庫を後にした。

 背後の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


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