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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ウルスの町。領主の館。

 リトワーンの居室は、地上からかなりの高さの所にある。

 襲ってきた刺客は外壁をよじ登って来たようだ。外を覗いたが、増援はない。
 安心してリトワーンは階段を下りた。

 階下では剣戟の音がいまだ続いている。
 剣は抜いたまま廊下を移動し、戦闘が行われているらしい大広間に入る。

 館を守っているのは、リトワーンが全幅の信頼を置いている兵たちである。
 彼らは廊下につながる扉を背にして、だれ一人通さないよう、必死の抵抗を続けていた。

「私が変わろう」
 リトワーンは近くにいた兵を下がらせ、身体を入れ替えると、敵を一刀で斬り伏せる。

「お館様ッ!」
「危のうございます!」
「大事無い。……それより、よく持たせたな」

 足下に転がる死体を眺めて、リトワーンは目を細めた。
 思ったより味方の死体が多い。

 精鋭を集めて館内の防備を任せていたが、敵もまた同等以上の実力者を寄こしたのだと分かる。

「戦況は?」
「五分です」
 応えがすぐにあった。

「疲れている者を後ろに……」

 言い終える前に、リトワーンめがけてナイフが飛んできた。
 それを剣で弾き、ナイフを投げた敵を見る。

 襲撃者の多くが片手で剣を持ち、残りの手で投擲用のナイフを握っている。
 あまり見ない型だ。

「奇妙な技ですね、大丈夫ですか?」
「戸惑いはありますが、慣れました」

「普段どおりやれば、問題ありません」
 生き残った者たちは一様に頷く。

 すでに対処できていることに安心し、リトワーンは剣を持って前に出る。
「ならば結構。そろそろ援軍が到着するでしょう。一気に押し返します」

「領主様、それが……」
「お館様、門の外で戦闘が始まっているようなのです」

 その言葉で、リトワーンの片眉が上がった。

 門の開閉は王宮と同じ方法を採っていて、独立している。
 簡単に開け閉めできない。
 ここにいる襲撃者たちは、塀を乗り越えるなどしてやってきたと思われる。

 ゆえに数も少ないが、どうやら城門の外には多数の敵がいるらしい。
 援軍として駆けつけてきた兵たちはそれを排除しない限り、中へは入れない。

 門を守る兵たちも、外の敵がいなくなるまで開くことはできないだろう。

「つまり、いまある戦力で目の前の敵を殲滅すると」
 すぐに事情を悟ったリトワーンは、抜き身の剣を振るい、一度にふたつの首を刎ね飛ばした。

「いかがします? 敵の数が多いですが」
「敵が有限であることには変わりない。一人ずつ確実に始末するように」

「はっ!」
「お館様の仰せのままに」

 リトワーンに負けじと、部下たちも前に出る。
 ここで膠着していた戦況が動き、迎撃側が押し返しはじめた。

 短くない時間が過ぎ、双方ともに疲労が見え始めた頃には、敵の数が目に見えて減り始めていた。

「ここが正念場だぞ!」
 だれかが気炎を上げる。
 それに呼応する声があちこちから挙がる。

 唯一、リトワーンだけは違った。声をあげる余裕がない。
 リトワーンの相手は、先ほどから尋常でない殺気を放っていた。

「ここまで温存していたとは驚きですね」

 リトワーンの剣の腕が超一流としたら、相手も同じ。
 それくらいのプレッシャーをリトワーンは眼前の敵から受けていた。

 気を抜いたらやられる。そう思うものの、敵は目の前の男ひとりではない。
 周囲にも手練れが揃っている。

 リトワーンのただならぬ様子に気づいた兵が、周囲に集まる。

「あなた達では無理でしょう。下がっているように……」
 リトワーンが一歩踏み出したとき、左耳が爆ぜた。

「ぐわっ!」
 耳元で何かが爆ぜたのは分かった。だが何が?

 耳鳴りで音が拾えない。
 何がおきたかを考える前に、今度は目の前で光が膨れあがった。

 慌ててリトワーンは目を閉じるが、光をまともに見てしまった。

「くっ!」
 バックステップし、横転する。
 肩と頭上を敵の剣が薙ぐ。すんでのところで躱せたことに、リトワーンは安堵の息を吐く。

 十分距離を取ったところで気がついた。今のは魔道。
「あなたは……魔国十三階梯のケイティン。『騒乱』のケイティンですね」

 ケイティンは魔国十三階梯の序列第四位。
 魔国の重要人物であり、対人戦では破格の強さを持つと思われる相手。

 魔国十三階梯は、筆頭の『石眼』をはじめ、序列三位までは他に類を見ない化け物揃いと言われている。
 ケイティンは第四位。それに次ぐ実力があると目されている。

 彼の使う魔道は、音と光をただ発生させるだけのもの。
 殺傷能力は皆無に近く、魔道単体では何の意味もなさない。

 だが、ひとたびそれがケイティンの剣技と合わされば、爆発的な効果を生む。
 十三階梯の序列は、魔道の強さではない。対人の総合力である。

 リトワーンはこの僅かな時間で、嫌というほど味わった。

 いまだ左耳は聞こえない。両目に至っては、回復まで時間がかかる。
 この状態では、もはや十全に戦えない。

「困りましたね」
 幸い右耳は聞こえる。だが、全く安心できない。
 次の戦いで、ケイティンは右耳を狙ってくるだろう。

 しかも一番効果的な場面で。
 距離を取りたかったが、ケイティンが回復する暇を与えてくれるとは思えない。

 音や光を出す魔道……それだけなのに、戦えばこうもやっかいなのかとリトワーンは舌打ちしたい気分になった。

 それでもやらねばならない。
 他の者に任せても、確実に沈められてしまう。

「この手は使いたくなかったのですけどね」

 リトワーンは剣を両手でしっかり握る。
 青眼に構えて相手の気配を探った。

 耳鳴りが酷いし、目も見えない。
 それでも本能は、敵の位置を把握した。

「ハッ!」

 大ぶりな攻撃である。
 型もなにもあったものではない。
 だがその一振りには、気迫が込められていた。

 ケイティンは避けなかった。
 尋常ならざる剣気に、紙一重で躱すことは危険だと判断したのだ。

 大きく退くくらいならば受ける。
 ケイティンの考えは正しい。

 大きく避ければ追撃が来た。
 だから受けたのは正しい。

 ただし、受けきれれば……。

「……ぐっ」

 重い剣であった。
 体重の乗った一撃。それだけではない。
 リトワーンの気迫がこもった一刀。

 剣を合わせたまま、じりじりとケイティンは押される。
 押し返すことはできない。膂力が全く違う。

 どこにそんな力が隠されているのかと思うほど、両者の力の差は歴然だった。

 徐々に、徐々に、リトワーンの刃がケイティンの首筋に近づいていく。ケイティンは逃げる事ができない。
 そしてついに、ケイティンの首筋から血がほとばしった。

「……がぁああああ!」

 最後はありったけの力で押し切り、ケイティンの首を半ばまで落とす。
 ケイティンの身体は痙攣し、血を吹き散らせながら床に倒れた。

「こんな野蛮人のような力業……絶対にやりたくなかったので……ッ!」

「お館様!」

 リトワーンの脇腹から腹部にかけて一本の剣が伸びた。
 眼と耳が回復していない状態で、背後に忍び寄った者が認識できなかったのだ。

 リトワーンが剣を振るい、その者の首を刎ねる。
 そして膝をついた。

「お館様、しっかりしてください!」
「敵の残りは?」

「もうまもなく殲滅が終了します」
「そうか……それはよかった」

「治療を!」
「はやく、包帯を……だれかっ!」

 この少し後、大広間にいた敵は一掃される。
 それを知った城門外の敵は、散り散りになっていずこかへ消え去った。


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