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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 竜国の王宮。

 テラスにいるサヴァーヌ女王に、刺客の群れが殺到する。

 彼らの動きは洗練されている。すばやく女王の真正面と左右に展開し、逃げ場をなくしてから襲いかかる。
 三方から攻められては、女王も動けない。

 彼らの刃が女王に届く、その直前。

 ――キィン

 硬質な音が響き、刃がすべて弾かれた。

「……ッ!?」
 刺客が周囲を見回し、原因を探る。

「ぐわぁっ!」
 一人の首があらぬ方向に曲がり、絶命する。

「ぐほっ!」
「ぎゃっ!」
 続いて一人、また一人と見えない何かに首をへし折られていく。

 残った刺客が女王に攻撃を加えたが、結果は変わらない。
 女王を守る不可視の壁は健在だった。

「ど、どういうことだ!?」

 狼狽えたフィロスが周囲に目をやれば、すでに立っている刺客は皆無だった。
 ほんのわずかな時間で六人全員が事切れていた。

「殺さないでね」
『……分かった』

 頭上から応えがあった。
 フィロスが見上げると、空中の何もないところを足場に黒衣の男が立っていた。

「〈影〉か? いつのまに……ぐわっ!」

 フィロスは不可視の盾によって床に押さえつけられた。

「ごくろうさま」
 女王の声とともに黒衣の男が下りてくる。

「……こいつはどうするんだ?」
「責任を取らせるわ。今回の事件の首謀者としては物足りないけど、民は納得するでしょ」
「好きにすればいい」

「なにを勝ったつもりでいる! 王子たちにも刺客は送っている。今頃はこいつらのように死体に変わっている頃だ。絶望を味わうがいい!」

 押さえつけられたフィロスは視線だけ女王に向けて叫んだ。

「すでに手を打ってある」
「なんだと!?」

「反乱を成功させるには王権の交代が必要だ。手を打たないわけがないだろ」
 ハルイは反乱の一報を聞いて、女王を守るため、すぐにソールの町を出発した。

 敵側の勝利条件が分かっているのならば、それを阻止すればいい。
 ハルイが女王の護衛につき、残りの〈影〉が王子、王女を守る。

〈左手〉の中には反対する者もいたが、ハルイが実力で黙らせた。
 与えられた恐怖ゆえに、〈左手〉は王子と王女を守り抜くだろう。

 ハルイがやらせたのだ。
 女王もそのことはまったく心配していない。

 異変を感じてテラスに王宮の兵が集まってきた。
「こいつを拘束しろ」
「……ハッ!」
 フィロスは縄を打たれた。

「終わったわね。じゃ、後始末に行ってくるわ」

 だれも「いずこへ?」とは聞かない。
 女王は、連行されるフィロスに一瞥をくれることなく、その場をあとにした。

               ○

 魔国領に近いウルスの町では、その日異変が起きていた。

 竜国七大都市のうち、ここウルスはもっとも栄えていると言っていい。
 陰月の路に近いものの多くの竜に守られていることから、深夜になっても町中に人の姿がみられる。みな安心して暮らしている証拠だ。

 町の片隅、光の届かない路地裏から異変が始まった。
 複数の影が、領主館を目指して疾走していた。

 彼らは一様に顔を隠していた。唯一、眼の周囲だけが現れている。
 あまりに異様な姿である。

 彼らは路地裏を知り尽くしたかのように、人のいない道を選び、ときには不幸な者を刃にかけながら進んでいく。



「お館様、襲撃です!」
 武官のひとりがリトワーンの居室に駆け込んでくる。

「こんな時間にご苦労なことだね。迎撃は?」
「出ました。館の中で交戦中です」

「城壁を越えたか。手練だね。外へは?」
「鏑矢を撃ちました」

「そう。じゃ、待っていれば援軍がくるかな」
「はい! しばらく持ちこたえれば、大丈夫かと思います」

「どうだろうね。それを許してくれる相手ではなさそうだけど。非戦闘員は上へ逃がすように。私も着替えたら行く」
「かしこまりました!」

 武官が退出したあと、リトワーンは手早く着替えを済ませ、立てかけてあった細身の剣をく。

「あまり剣は使いたくないのだけどね……おっ、詰所の鐘が鳴ったか」
 兵の詰所は館の外にある。

 敵の襲来を知らせる鐘がなったということは、鏑矢の連絡が外の兵に通ったことを意味する。

 詰所の鐘は、叩くリズムによって敵の位置を知らせるものである。
 いま流れているリズムは、『領主の館に敵あり』を示していた。

 これで詰所の兵と町中を巡回中の兵がやってくる。
 それまで持たせればこちらの勝ち。
 持たせられなかったら、負けである。

「ぜひ勝ちたいものだね」
 鏡を見て髪をセットし、リトワーンは居室を出て行った。



 ことの起こりは、魔国軍の不審な動きだった。

 魔国が、竜国との国境付近に軍を集結させたのが二ヶ月前。いつ攻め込んできてもおかしくない力の入れようだった。
 リトワーンは警戒を強め、いつでも軍が出立できるよう、準備を怠らなかった。

 十日に一度くらいの割合で、魔国軍が増強されていった。
 それにあわせてリトワーンは警戒度を上げる。

 敵側からの示威行動はなく、不気味な沈黙が何日も続いた。

 リトワーンは飛竜編隊に指示を出し、わずかな変化を見逃さないよう、徹底した監視を行わせていた。

 そして昨日、ついに魔国軍が国境を越えてきた。
 国境からウルスまでの道のりは、ほぼ決まっている。

 行軍に耐えられそうな道はただひとつしかない。
 迎撃の準備も完成している。

 侵攻してきた魔国軍に対して、リトワーンは竜と兵の混合部隊を出撃させた。

「竜だけ先行させると、被害が大きくなるからね」
 侵攻してきたからには、竜への対策は万全であると見ていい。

 魔国軍へは歩兵と騎兵をぶつけ、竜は切り札として使う。

 これは何度も練り込んだ戦略であり、作戦上の漏れはない。
 将軍たちは意気揚々と出発した。

 迎撃軍が出発したその日の夜。
 リトワーンの予想通り、襲撃者がやってきた。

 魔国軍の陣容はほぼ分かっている。
 何年、何十年も小競り合いを繰り返してきて、その強さ、装備、兵の質は熟知している。

 ゆえにリトワーンは確信する。
 防備を疎かにしない限り、決してウルスの町が落ちることはないと。

 それは魔国側も分かっているはずで、ウルスの町を攻略するには、正面からの武力衝突は得策ではないと判断するだろう。

 ではどうすれば良いのか。
 防衛の要は、竜と兵による連携戦略である。

 これを何とかするのは難しい。
 ゆえに、目標をトップの排除に動く。

 リトワーンは魔国側の狙いを正確に把握していた。
「敵の襲撃は予定通りだけど、狙われるのはあまり気持ちのいいものではないね」

 リトワーンの周囲を固めすぎると、凶刃が親族に向かってしまう。
 それは絶対に避けたかった。

 そのため、できるだけ親族を遠くに追いやって襲われないようにし、隙を見せるため自身の守護をなるべく少なく見せるようにした。

「うーん、押されているね。増援を送ってあげて」
「はっ。しかし、こちらの守りは?」

「下が突破されたら本末転倒だよ」
「かしこまりました」

 階下から戦闘音が響いてくる。
 敵は予想以上の戦力を投入してきたようだ。

 もしくはこちらの精鋭でも抑えきれない連中か。

 すでに外の鐘は鳴っている。
 援軍は必ずやってくるが、敵が下の階からやってくる方が早いかもしれない。

 リトワーンがそんなことを考えていると、外から窓が破られた。

 飛び込んできたのは三人。

「呪国人か……これは困ったな」

 相当な手練れであることが窺えた。
 襲われないために部屋の隅にいたことが災いした。

 リトワーンは追い込まれていた。
 後ろは壁で、窓と扉を塞ぐようにして呪国人が立ちはだかる。

「どいてくれないと逃げられないのだけど」
 軽口を叩くリトワーンに、殺気の刃が向けられる。

 そこいらの兵では太刀打ちできないくらいのプレッシャーが放たれ、思わずリトワーンが剣を抜く。
 その動きに触発された呪国人たちがリトワーンに襲いかかった。


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