挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

364/655

364

 僕は夜を待って、領主の館に忍び込んだ。
 人々が寝静まるには、まだ早い時間だ。

 見つからないよう、闇に潜って慎重に行動したのだけど……なぜソウラン操者は縛られている?
 趣味?

 ソウラン操者は竜国の民ならばだれでも知っている存在。
 もちろん僕も知っている。見間違えるはずもない。

 もう一度よく見た。……ソウラン・デポイで間違いない。
 竜国の有名人が両手と両足を縛られてベッドに寝かされているこの状況。

 罠?
 だれかがこの館に忍び込んでこれを見つける。
 慌てて助けたら、実は敵側で……という罠を仕掛けているとはどうしても思えない。

 来るかも分からない侵入者を騙すためだけに、ソウラン操者がこんな姿でいるなんてありえない。
 やはり趣味か?

 いや普通に考えよう。捕まっているのだ。

「外に見張りもいたし、やっぱり閉じ込められたんだろうな」

 僕が最初にこの部屋を覗いたのは、外に見張りが立っていたからである。
 見張るくらいだから何かあると思ったが、これは想像していなかった。

「……起こすか」

 寝入ったわけではないだろう。
 僕は闇から姿を現し、寝ているソウラン操者の肩を揺すった。

「ん? キミは……」

 案の定、目を閉じて休んでいただけのようだ。体力の消耗を避けたんだと思う。
「静かにお願いします、ソウラン操者」
 僕は囁いた。

「キミはレオン操者。どうしてここに? キミも閉じ込められたのかな」
「いえ、どちらかと言うと助けに来た方ですけど」

 そこではじめてソウラン操者は上半身をおこした。
 鎖がジャラリと揺れる。

「……扉の外には見張りがいたと思うけど」
「その辺はまあ……それでこれはどういう状態なんですか?」

「飲み物に一服盛られてね。しびれ薬だった」
 動けなくなったところを捕まったのか。哀れだな。
 竜と離れた状態の竜操者は、必要以上に注意が必要だと再認識できる。

「山の中腹に青竜がいましたので、この館内にソウラン操者がいるとは思っていましたが……油断しましたね」

「こんな状態だとは思わなかったかな。義父はどうやら本気で女王陛下に刃向かうらしい。仲間にならないかと説得されたよ」

「説得ですか。断ったからこんな状態なんですね。どうします? 鎖を外しますか?」
「できるのならば頼む。私は義父を助けなければならない」

「助けるのは無理だと思いますよ」

 反乱の首謀者は死罪だ。領主ならば、助かる道はないと思う。
 僕の言葉に、ソウラン操者はなにも答えなかった。



 ソウラン操者の鎖を外し、部屋の外へ出る方法を考える。鍵は外からしっかりかかっている。
 僕は闇に潜って移動したから、ソウラン操者に魔道を見せずに出る方法が思いつかない。

 見張りは何かあったときのためらしい。たとえば用足しとか。
 だったらそれを利用しない手はない。
 ソウラン操者に部屋の中から見張りを呼んでもらった。

「なんだ、便所か?」

 部屋に入ってきた見張りを、僕が後ろから襲う。簡単な仕事だ。
 気絶した見張りを部屋の中に引き込み、鍵をかけた。

「これはもらっておこう」
 ソウラン操者は見張りの持っていた剣を腰にさした。

「では行きましょう。領主はどこにいると思いますか?」
「義父は勤勉な人だ。この時間ならば執務室だろう」

「なるほど。では執務室へ急ぎましょう」

「途中に見張りが何人かいるはずだが、どうするんだい?」
「倒します」
「そうか」

 三人の見張りを斬ったところで執務室に着いた。
「はじめての館だろう? よく場所が分かるね」
「暗記してきましたので」

「なるほど……さすがは女王陛下だな」
 僕の答えだけでソウラン操者は色々察したらしい。



「だれだね」
 領主のフラットはまだ起きて仕事をしていた。

 どこかへ手紙を書いていたのだろう。
 ちょうど朱印を押すところだった。

 顔をあげたフラットが僕に目をやり、続いて入ってきたソウラン操者を見て顔をしかめた。
「戻ってきましたよ、お義父さん」

「見張りを配置していたはずだが、その剣を見る限り無駄だったようだね」
 全員かどうかは分かりませんが、処理してあります。

 フラットはゆっくりと立ち上がってこちらに歩いてくる。

「抵抗しても無駄なんだろうね」

「剣に心得は?」
「少しならば……だが、通用するとは思えんよ」

「では拘束させていただきます。声を出したり、暴れたりしないでください」
「ちょっと待って!」

 拘束しようとする僕の前にソウラン操者が躍り出た。

「お義父さん、質問があります。どうしてこんなことをしたんですか!」
「話したところで、ソウラン殿には分からないだろう」

「そうやってごまかすつもりですか? お義父さんは誰かに騙されたんじゃないですか?」
「それは失礼な言い草だね。他人にそそのかされたくらいで、こんな大事な決断をするものか。すべて私の意志だ」

「でしたら言ってください。なぜこんな愚かなことをしたんです!」

 しばらくフラットとソウラン操者がにらみ合っていた。

「……相変わらず真っ直ぐだね、きみは。だがそれゆえ見えてないこともある。たとえば、王都と地方の格差とか」

「地方との格差? そんなもののために?」

「些細なことではないぞ。富める者はどうにでもできよう。だが、貧しき者たちには些細な格差が死活問題だ。それを是正するために、私は何度も訴状をあげた。だが、結果は変わらなかった」

 この国は竜国運営会によって、大小様々なことが決められていく。
 構成員は全部で六十一名。フラットもそのひとりである。

 半数の三十一名の賛同を得られれば、王都や地方の政治に関わる重大案件でさえ決めることができる。

 ただし、竜国運営会の中に地方出身者は少ない。
 おのずと、地方の地位向上に関する議案が通りにくくなってくる。
 フラットはそのことで何度も苦い思いをしていたと語った。

「そんなときだ。同じ構成員のフィロス殿と知り合ってな。いろいろ悩みを聞いてもらった」

「フィロス……だれですか、それは」
 ソウラン操者はその名前に聞き覚えがないようだ。
 僕は知っている。

 フィロス・シラームとは、アンさんのお兄さんの結婚式で会ったことがある。
 王女殿下に「リトワーン卿は危険」と警告した人物だ。

「フィロスというのは医者をしている人ですね?」

「知っているか。その通り。王配の妹君を奥方に迎え、本人の意志とは反対に、政治の表舞台に出ることになった、ある意味不幸な方だ」

 なるほど、奥さんの権勢かどうか知らないけど、本人は無官の医者だと名乗っていたっけ。

 公的な役職――竜国運営会のメンバーであることを名乗らなかったのは、そういった矜持があったのかもしれない。

「フィロス殿から、竜国を憂うひとりの人物を紹介してもらったのだ」

「誰ですか?」

 ソウラン操者の声が厳しくなる。
 つまりこのフラットよりも上の立場の者? 今回の黒幕か?

「その方の名は……」

 フラットは黒幕の名を告げた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ