挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

362/655

362

 アクリの町を出発した反乱軍の内訳はこうである。

 領主が集めた兵が八千。
 他の町から集まった兵が一万四千。

 飛竜五、走竜七、地竜十一。
 加えて傭兵が三百いる。

 総勢二万以上の大軍である。
 それを束ねるのが、領主フラットから任命された将軍ダルザー。

 このダルザーを総大将として、副官のトリスが各軍のまとめ役をやっている。



 行軍中、ダルザーの横へ一体の走竜がやってきた。

「壮観だな」
 走竜の上からダルザーに話しかける竜操者。名をマキアスという。
 マキアスはダルザーの幼なじみである。

「ああ、まさかこんな時が来るとは思わなかった」

 ダルザーとマキアスはともに同じ町の出身。
 小さな頃から身体の大きかったダルザーと、どんな相手にでも臆せず向かっていくマキアスは、顔を合わすたびに喧嘩をしていた。

 あまりに性格が似過ぎていたのだろう。

 会えば喧嘩するのである。打ち身、捻挫、擦り傷は数え切れないほど。
 力に対して力で対抗するふたりは、それでもいつの間にか理解し合い、互いに認め合った。

「俺は竜操者になってこの国を守る」
 そうダルザーが言えば、マキアスも負けていない。

「ならばおれは軍に入って頂点に上り詰める」

 そんな夢を語り合った二人だが、竜紋が現れたのは皮肉にもマキアスの方だった。

 長じてマキアスは竜の学院に入り、走竜を得て軍へ。
 ダルザーもまた入隊し、一兵士から上り詰めていくこととなる。

 二人はともに五十代の後半。
 もう後人に道を譲るときが迫っていた。
 これが最後の勤めになるかもしれない。そうダルザーは考えている。

 反乱軍は、街道にそって規則正しく行軍している。

「おまえが将軍で、おれが竜操者。運命は皮肉だな」
「……まったくだ」

「今回の出征、兵たちの動揺はどうなっている?」
「一応従っている感じだな」

 軍人にとって、上官の命令は絶対である。
 今回の反乱について、集まった兵に選択権は与えられていない。

 軍人であるのだから、強制参加である。
 しかし相手は自分たちを育ててくれた国。直前で怖じ気づく可能性がある。

「大丈夫そうか?」
「うむ、目は常に光らせておく」

「そうか。手伝えることがあったら何でも言ってくれ」
「ああ、そのときは頼む。慈悲ある主の願いだ。なんとしても叶えたい」

「真の竜国のため、おれも一時の汚名は我慢する。ともに頑張ろうぜ」
「うむ」

 ダルザーもマキアスも情熱的だった若い頃の自分を思い出していた。
 自分たちの信じる主人の願いをなんとしても叶える。

 その先にある幸せな未来を信じて進む。もはや引くことはできないのだ。


「……前方より飛竜が接近してきます!」

 行軍を開始して二日目。
 ダルザーのもとに敵の襲来が告げられた。
 王都が迎撃に動き出したのだ。

「数はどれだけだ?」
「一騎です」

 その答えを聞いて、ダルザーはすぐに緊張を解いた。

「……斥候か? 一騎だけなら落としてしまえ。飛竜を向かわせろ」
 取るに足らない敵。そう思ったとしてもだれがダルザーを責められようか。

 たった一騎でやってくる相手に向かって、五体の飛竜が舞い上がった。
 相手が気づいて反転してももう遅い。

 戦闘はすぐに済むだろう、ダルザーはそう考えた。だが。

『ギャシャァアアアアアアア……』

 相手側から耳をつん裂く咆哮が聞こえてきた。
「な、なんだ?」

 敵が苦し紛れに鳴いたのか、そう思った瞬間。

「ぎゃぁあああああ」
「うわあああ」
「やめろ! やめろー!」

 突然、自軍の前列から悲鳴が聞こえてきた。
 見れば、迎撃に向かった飛竜も引き返して来ている。

「なんだ? どうした?」
 ただ事ではない。ダルザーはそう判断した。

 伝令が走り込んで来た。慌てている。
「一緒に行軍していた走竜と地竜が……」

「竜たちがどうした?」
「なぜか我が軍を襲っています!」

「なんだとぉ!?」

「それだけではありません。反転してきた飛竜は軍の後方を襲い始めました」
 そういえば、なぜか飛竜が頭上を通過していったとダルザーは思い出す。

「ふっ……ふざけんな! なぜ味方が我が軍を襲うことがある!」
「本当です。竜の咆哮が聞こえた直後から、我が隊の竜の様子がおかしくなり、同士討ちをはじめたのです」

 竜が自軍を襲う。
 それはダルザーにとって受け入れがたい事実だった。
 だが、ある会話が記憶の底から浮き上がってきた。

 少し前。
 めずらしくダルザーとマキアスが酒場で杯を酌み交わしていたときのこと。

「今年の竜迎えの儀で、久しぶりに属性竜が出ただろ」
「ああ」

「なんでも、他の竜を咆哮一発で従えさせたらしいんだ」
「ははっ……まさか」

 あれは酒の上の冗談かと思った。
 竜操者のマキアスが口にした戯れ言かと。だが……。

「今年の竜迎えの儀……たしか、黒竜」
 属性竜はすでに白と青がいる……そして新しく加わったのは黒だと聞いた。

 ダルザーが目をこらすと、遠くに佇む一体の竜が見えた。
 その色は……黒だった。

「……ッ! てっ、てった」

 もし酒場で聞いた戯れ言が真実ならば、もしダルザーが見たあれが黒竜ならば。
 竜を従わせる属性竜がやってきたことになる。

 属性竜を向かわせるなど、女王は本気なのか?
 兵の命は塵芥か?
 考察は後だ。
 いま分かっているのは、すべての竜が敵に回ったばあい、自分たちに勝ち目はないということ。

 ダルザーは撤退を命令しようとした。
 だが撤退を言い出す前に、走竜が現れた。

 走竜の爪も口も兵の血で汚れていた。
 多くの兵の命を刈ったのだと知れる。

 走竜がの顎がダルザーを噛み砕こうと、迫ってきた。

「うわあああああ」

 走竜の背中から声が聞こえた。
 乗っていたのは……ダルザーがよく見知った人物だった。

               ○

『主よ、これでよいのか?』
「うん、ごくろうさま……じゃ、そろそろ並べてくれる?」

『心得た』

 シャラザードの二度目の咆哮。
 それによって反乱軍を襲っていた竜たちは、一旦集まり、まるで通せんぼするかのように一列に並んだ。

「シャラザード、行こう」

 僕は竜と反乱軍の間に向かった。
 シャラザードに頼んで、大地に線を引いてもらう。

『これでよいのか?』
「うん、上出来」

 シャラザードの尻尾が地面を擦り、現れた一本の線が竜と反乱軍を見事に分けた。

「……さて、僕はレオン。反乱を鎮めるために派遣されてきたのだけど、この軍の代表はだれかな」

 大声を出したので、よく聞こえたと思う。
 少しして、半壊した兵たちの中からひとりの人物が進み出た。

「副官のトリスだ」
「副官? 大将は?」

「ダルザー様は……お亡くなりになった」
「……なるほど。じゃ、あなたが代表でいいんだね」

「そうだ」
 トリスと名乗った男は、やたらと僕を睨んでいる。

「じゃあ、言うね。このままアクリの町に戻って沙汰を待つならば、これ以上の攻撃は加えない。ただし、だれかひとりでもこの線を越えたら、戦闘の意志ありとしてさっきのが再開される」

「なんだと」
「嘘だと思うならば試してもいいよ。そのかわり、二度目はない。止めない」

「……ッ!?」

「僕が書いたこれは死線デッドラインだ。ひとりでも越えたらみんな死ぬ。分かりやすいでしょ。というわけでトリスさんだっけ? あなたがちゃんと町に軍を帰すんだ。町で武装を解いて待っていて」

「わ、我々は、し、死を恐れん」

「だからそれは好きにしていいってば! 越えたら竜が襲いかかるだけなんだから、僕に許可はいらないよ。それこそ勝手にやってほしい」

「貴様はそれでも……」

「じゃ、僕はアクリの町に行かなきゃだから」
「…………」

 トリスさんが呆然としているけど、彼らはこれでいいはずだ。
 そのうち諦めて帰るだろう。もしくは互いに殺しあうか。

 僕は宣言通り、アクリの町へ向かった。

「……なあ、シャラザード。ソウラン操者は敵方にいると思うか? 青竜と戦闘になるかな?」

『あの未熟者か? 戦うのならば、勝てばよいであろう』
「あー、シャラザードはそういうよね」

 僕とソウラン操者が戦った場合はどうだろう……昼間だと五分かな?
 時間を調整して夜に行くか。相対しても魔道が使えればなんとかなるし。

「シャラザード、ゆっくりでいいよ」
『ふむ?』

「町には暗くなってから入るから、適当に寄り道しながら行こう」
『なぜだ?』

「僕が怖いから?」
『……なんともしまらぬことよの』

 そう言いつつもシャラザードはゆるゆると飛んでくれた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ