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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 アクリの町は海に面している。
 竜国の七大都市に数えられるものの、自然も多く、とても静かな場所である。

 だがそれも、いまは昔。
 数日前から軍靴の音が鳴り響く、騒がしい町へと変貌していた。

「なかなかに壮観であろう?」

 そう問いかけたのは、アクリの町の領主フラット・エイドル。

 フラットは柔和な顔をソウラン・デポイに向けて同意を求めた。
 だがソウランは、うつむいたまま首を横に振る。

「不満かね?」

 重ねて問いかけるフラットに、ソウランは答えることをせず、ただその目を見つめた。

 城から見下ろす風景は、完全に様変わりしていた。
 兵が行き交い、馬車が走っている。

 運搬する荷物をチェックする商人はいるが、ほとんどが軍人だ。

 かつてアクリの町にこれほど多くの兵が集まったことがあっただろうか。

 ソウランの視線の先に気づいて、フラットは説明するように告げる。

「複数の町から竜と兵を集めたのだ。みな協力してくれたよ。……これの何が不満なのかね」

「何もかもですよ、お義父さん。……あなたは、なんてことをしでかしたんですか!」

 首だけフラットに向けて、ソウランは大声で訴えかける。
 それもそのはず、ソウランは両腕を拘束され、足には逃亡防止用に鎖が巻き付けられている。

 ソウランはいま、フラットの虜囚となっていた。



 ことのおこりは単純である。

「緊急事態が起きた。可及的速やかに来てほしい」

 そんな連絡を受けて、ソウランは自分の編隊を置いて、アクリの町に駆けつけた。

 婚約者に何かあったのか? はたまた領主本人に?

 心配して駆けつけてみれば、本人たちはピンピンしている。
 毒気を抜かれて、言われるままに飲み物に口を付けたとき、異変がおきた。

「……なっ、これ……は、しびれ薬」

 全身がしびれ、とくに四肢が自分の意志では動かせなくなっていた。
 必死に両足に力を入れるも、足が自分のものではない感覚におそわれた。

 ソウランが落としたグラスをサフランが拾い上げる。

「サフラン様、ワインに……ど、毒が」
 声を絞り、ようやく伝えたところ、返ってきた返答は驚くべきものだった。

「あら、あの量を飲んでまだ喋られますの? 絞りが甘かったのかしら」
 無邪気に首をかしげるサフランを見て、ソウランはすべて誘った。

「サ、サフラン様……あ、あなたも、もしや」

 しびれる口を動かし、そこまで言ったところで、強い眠気におそわれ、ソウランの意識は闇の中へと誘われた。

 ソウランが最後に見たのは、微笑む父娘の姿だった。



 ソウランはベッドの上で目を覚ました。
 しびれはなくなったものの、代わりに両手足を拘束する鎖がはめられていた。

 ソウランは、自分が義父とまで呼んだフラットが、何かよくないことを企んだことを知った。
 自分の婚約者がそれに加担したことも。

 ベッドから立ち上がったところで、フラットがやってきた。

「目覚めはどうだね」
「私に何をしたのですか?」

「娘が育てた花の根をね。少し絞ってワインに入れてみた。それで気分は?」
 まるで味付けを変えてみたというような気軽さでフラットが答えた。

「最悪ですよ。なぜ私を拘束するのです?」
「あなたはきっと大人しくしていてくれないだろうからね。竜国を正当なる者に返すため、やむを得ないことなのだ。大変申し訳ないと思っているよ」

「まさか……竜国に逆らうのですか? 竜国の力は強大ですよ。反乱なんてしてもすぐに鎮圧されてしまいます」

「そんなことはないさ、婿殿」
「婿と呼ばれたくありません」

「ではソウラン操者。私どもが何の勝算もなく事を起こしたと思うのかね」

「魔国とでも手を結んだのですか? それとも商国? それでもこの程度の規模では一蹴されてお終いです」

「心外だね。私は魔国も商国も手を組んだつもりはないよ」
「出し抜けると思っているのですか? それとも利用するつもりで?」

「どうやら勘違いしているようだね。私が仕えているのは、この国の古い血筋。もっとも尊き血筋にだよ」

「……まさか」

 サフランもやってきた。
 相変わらず愛らしい容姿だが、ソウランはもう、その姿を見ても何の感銘も受けなかった。

「ソウランさま、わたしたちの手を取っていただけませんか?」
「サフラン様、あなたがたは騙されています。こんなことが成功するとは思えません」

「大丈夫ですわ。絶対に成功します」
「いいえ、失敗します」

「わたしは成功すると思います、絶対に。なにしろ……」

 サフランはソウランの耳元で囁いた。
 ソウランの目が見開かれる。

「ど、どういうことです!?」
「……さあ。うふふ」

「おっ、見てみるといい。いまから王都に向けて出発するようだ。どうだね、あの姿は」
「とても頼もしいですわ」

「あれが王都に到着するころには、すべて終わっている。新しい王が出迎えてくれるだろう」
「素敵ですわね」

「ああ……本当に今日は記念すべき日になる」

 一斉に行軍をはじめた数万の兵。
 それに数十の竜が追随している。

「なに、行軍はゆっくりでもいい。時間はたっぷりあるのだから」

「まさかそんな……」

 フラットの言葉はソウランに届いていない。

「ばかな……ばかな……」

 そうつぶやき続けるソウランは、その場に力なくくずおれた。


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