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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 リンダが僕の瞳を覗き込む。
 半分はからかっているのだと思う。そのくらいは分かる。

 残り半分はマジだ。
 あれ? リンダってそういうタイプだっけか?

「ずいぶん積極的だね。さっきは興味なさそうなこと、言っていたけど」

「竜操者の名前くらいすぐに調べられるしね。パパが知ったら、積極的に行けと言い出すわ」
 リンダをここに入れたのだ、当然期待しているのだろう。

 実家には、パトロンに立候補できるだけの資金があり、本人は王立学校に通っている。
 姉が三年間でパトロンを見つけられなかったのは、運よりも積極性が物を言う世界だからだ。

 僕はリンダの姉を思い出してみた。
 容姿はリンダ本人よりもいいかもしれない。楚々とした美人だった。

 多少身体が弱いのか、活発的なところは見たことがなかった。
 その分、深窓の令嬢といった雰囲気が出ていたと思う。

「パパも、姉さんならきっとと思ったんでしょうね。三年間もあれば、絶対に大丈夫と」
 僕の考えを知ってか知らずか、リンダはそんなことを言った。

「たしかに、容姿、性格からすれば、選ばれてもおかしくないよな」

「ここに来て思ったけど、他の生徒は意気込みが違うのよ。みんな獲物を求めてさすらうハンターよ。姉さんじゃ、ロクに話すこともできなかったんじゃないかしら」

 やはりハンターなのか。
 リンダのお姉さんは、人を押しのけてというタイプじゃなかった。
 つまり、どんな好条件でも、竜操者の目に留まらなければ意味はない。

「リンダなら、うまく立ち回れそうだと思うけどな」
 性格的な面では、人当たりもよく、積極性のあるリンダは候補に上がりやすいと思う。

「そうね……そういう風にも振る舞えるわ」
「……なるほど」

 幼少時のことを思い出した。
 リンダは活発ではあるが、人の思いを無視してグイグイいくタイプではなかった。

「それにわたしの場合、もう諦めていたから。それに準備員会は、二、三年生の方が有利なのよね。いいとこ取りできるわけ」
 そうリンダは笑った。

 接待係以外にも、会場準備係、入学式後の茶話会準備係など、直接竜操者と出会えない役職もあるのだとか。

「なるほどね。でも、竜操者は男ばかりではないだろ」
 女性の竜操者もいる。
 同時に王立学校の生徒にも男子生徒がいたはずだ。

「女性の竜操者には貴族の男子が群がっているわね。平民の女子で竜紋が現れちゃったら大変よ。いまごろは、見目麗しい男どもにちやほやされて、舞い上がっている頃よ」

 あー、なんとなく分かる気がする。
 平民の女性が貴族の男性から求婚されたら、舞い上がるだろう。

「結婚して僕の領地に来てくれ」なんて頼まれれば、ホイホイ付いて行きそうな気がする。

 貴族の方も万々歳だろう。配偶者には、もれなく竜がついてくる。
 持参金と考えたら、お釣りが必要なくらいだ。

「それよりもこんなところに逃げてくるレオンくんがおかしいのよ。下のハンターたちに囲まれたら逃げられないでしょうに」

「僕はすぐに気づいて、ここまでダッシュしたから」
 そう言い訳をしておいた。

「どうして? 最初の話に戻るけど、もうパトロンは決まったの?」

「いや、どうするか悩み中なんだ」
「いったい、何を悩んでいるのよ」

「実はさ、ずっとパン屋を継ぐものと思っていたわけだ」
「そうね。よく言っていたわよね」

 僕がパン屋を意識し始めたのは、五歳のときからだから、リンダもそのこととはよく知っている。

「去年、竜紋が現れたけど、まだその夢を捨てきれない」
「無理でしょ」
 バッサリだ。

「そ、そうなんだけど、なんとかパン屋と竜操者を両立できないか考えているんだ」
 ついでに女王陛下の〈右手〉もだ。それはリンダに話せないけど。

「なんとかパン屋? 難しいわね。竜操者は、かならず守るべき五箇条があるわけだし。そもそもお店を経営するなんて、だれでもできることを周囲がやらせるとは思えないのよね」
 正論。リンダの言うとおりだ。

 たとえば、非常に過酷な場所、たとえな日常ですぐに怪我人が出る地域に住んでいたとする。
 そんな場所では、人を癒やせる人間がとても貴重である。
 そんな力があるのに、人を癒やしもせず、別の仕事を一生懸命やっていれば、周囲の人はどう思うだろうか。

 最初は説得するだろう。しだいに脅迫に近くなるかもしれない。
 それでもやらなければ、呆れ、最後には憎悪することだって考えられる。

「もったいない。なんでその力をみんなのために使わないのだ」と怒り出す。

 月魔獣つきまじゅうの脅威があるこの国で、竜操者が使命を果たさないでパン屋を経営すると言えば、周囲からどんな目で見られるか簡単に想像できる。

 では兼業はどうか。
 いつ出撃するか分からない竜操者で、パン屋を経営するのは難しい。

 ――店が開いているときだけパンを売ります

 そんな商売が続くのかどうか。

 仕込みをして、さあ焼くぞと思ったら、出撃。
 パンを焼いている途中で、出撃。
 店番をしているときに、出撃。

 残された店はどうなるのか。

「やっぱ、無理かな」
「趣味の範疇ならいいけど、職にするなら無理だと思うわね」

 リンダの答えは取り付く島もなかった。

「……やっぱ、将来設計をちゃんと考えないとな」
 そんなことを思っていると、下のほうが騒がしくなった。

「そろそろ時間じゃないの?」
「入学式か」

「ハンターたちは講堂の中には入れないから、入り口まで見送りかしらね」
 テラスから覗くと、大勢のかたまりが歩いている。僕も行くか。

 立ち上がったら、腕をとられた。
「ねえ、私からじゃ連絡が取れないのよ、だからレオンくんから手紙を出してくれるかしら」

「手紙?」
 こんなに近いのに? 道を挟んだ隣どうしなのに?

「学院への手紙は家族以外、出せないのよね。でもレオンくんが先に出せば、返信を書くのは平気なの」
 よく分からないシステムだな。

「……手紙くらい別に構わないよ」
「よかった。じゃ、忘れないでね。きっとよ!」

「了解。じゃ、僕も入学式に行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい、アナタ」

「それ、やめて」
 僕は苦笑した。

 リンダも笑った。だけど目がマジだった。
 あれ? 会ったときは半分冗談だったのに……。


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