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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「大山猫の氏族領から駆けつけて、娘を助けてくれたようね」
 謁見の間で、女王陛下はそう切り出した。

〈影〉として呼ばれたわけではないので、文官や大臣も近くにいる。
 彼らを刺激しないような受け答えをしなければならない。

「僕が間に合うことができましたのも、知らせに来た同胞や、最後まで王女殿下を守り抜いた護衛の方々あってのことです」

「そうね。でもあなたが来なかったら、娘は捕らわれるか、もしくはこの世にいなかったことでしょう。感謝します」

「もったいないお言葉です」
 僕は深く頭を下げた。こんな感じでいいはずだ。

 裏のときと違って、女王陛下もくだけた態度は一切見せない。
 僕のことをレオンと呼び捨てにすることもなければ、爆弾発言をして僕を困らせることもない。

「大筋は娘から聞きました。確認したいことがあるのだけど、よろしいかしら」
「答えられることでしたら、なんなりと」

「技国に侵攻した魔国軍は、あなたが壊滅させたで……よろしくて?」
「…………」
 よろしくないんじゃないでしょうか。

「質問を変えましょう。兎の氏族の本拠地外に展開していた魔国軍の総勢は、二万と聞いています。合っているかしら」
「空から確認した限りですと、そのくらいだったと思います」

「兎の氏族軍は市街戦と市民の避難誘導をしていたとか」
「そのように聞いております」

「他の町からの援軍はまだ到着していなかったでいいのかしら」
「はい。到着しておりません」

「あなたが到着してから娘を救出するまで、およそ半日」
「はい。夕方に到着して王女殿下を探しました。見つけたのは翌朝です」

「その間はずっと本拠地の外に?」
「はい」

「娘を発見するまでの間に魔国軍二万が壊滅していたのだけど、それはあなたが?」
 いえ、あれはシャラザードです……とは言えない。

 シャラザードがやったことは僕がやったことだ。
 僕がやらせたのだから、間違っていない。

「……はい。その通りです」
 そう答えるしかない。

「兎の氏族より感謝の言葉がきています。十分なお礼ができなかったと」
 ディオン氏族長が別れ際、王女殿下に手紙を渡していたな、そういえば。

「もったいないお言葉です」

「魔国軍二万の殲滅、ごくろうさま。あなたの活躍で技国が救われました。これは娘の救出とは別に感謝します。また、技国とよく話し合い、その行いに報いたいと思います」

「はっ、誠にありがとうございます」
 それはパン屋でいいのだろうか。

「……さて、現在我が国は少々困ったことが起きています」
「はい」

「あなたに東へ行ってもらおうかと思います」
「はい?」

「ちょうどよい所に戻って来ました。ダネイの町にはソウランがいます。彼が敵となった場合、ただの竜では太刀打ちできないでしょう。あなたは一度、ソウランの竜に勝っていますね」
「シャラザードのことでしょうか」

「そうです。あなたが戻ってこなければ、妾が出るしかないと考えていましたが」
「僕が行きます」

 女王陛下に行かせたと分かったら、いろいろヤバい。
 とくに忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)のみなさんにつるし上げを食らいそうだ。

「そう、良かったわ。方法は任せます。東部へ赴き、反乱を鎮めなさい」
「はっ、かしこまりました!」

 謁見は終わった。
 なぜだろうか。流れで東へ行くことが決まってしまっていた。

 思い返してみると、謁見の流れもおかしかった。
 僕の成果が強調されて予定調和のごとく、流れるままに答えさせられた気がする。

「東の反乱を鎮めろと言われたって……」

 魔国兵のように蹂躙しろってことなのか?
 いや、反乱したとはいえ、同じ竜国の民。

 首謀者は自動的に死罪になるけど、すべての兵に罪があるわけではない。
 積極的に参加した者を除けば、そうそう重い罪に問わないと思うのだけど。

 ではなんで、女王陛下は謁見であんなことを言ったんだ?

 あてがわれた部屋に戻り、しばしの休息をとる。
 女王陛下の態度とか、考えることは多いが、いまは目先のことに集中しよう。

 東部が起こした反乱について、実はまだ何も知らないのだ。



「レオン様、こちらの資料に目を通しておくようにと、言付かっております」
「ありがとうございます。……これは東部の地図ですか」

「はい。申し訳ございませんが、読み終わりましたら、回収しに参ります」
「分かりました。大事に読みます」

 受け取った資料には、東部一帯の地図があった。
 町や村、街道、山や谷だけでなく、ちょっとした高低差まで書かれていた。

「これ、軍事資料だ」

 おそらく僕レベルが見ていいものじゃない気がする。
 模写も許されないだろうな。だから回収か。

「他にはなにがあるんだ」
 資料を読み進める。つぎは数字が並んでいた。

 反乱を起こした町の収支状況や、流通、領主の家族構成、仕えている人の情報などが載ってる。しかも詳しい。

「これは文官の資料か。それも高位の人しか閲覧できないものだろうな。アクリの町なんか、城の見取り図まで入っているんだけど。どうやって調べたんだろう」

〈影〉を総動員して何度も潜入して調べていったんだろうな。小さな部屋まですべて載っている。でもいつの間に。

 見取り図の作成を指示したのは女王陛下だろう。
 裏切ると分かっていたから? いやこういう時のためかな。

「抜け目がないな」

 主要な町の地図が王宮に保管されているんだろうな。
 これを僕に見せる際、内部で反対もあったかもしれない。

 かなり貴重な資料だ。
 これを見せる意図はなんだ? ここまでして僕になにをやらせたいワケ?

「……うーん、考えても分からないな」

 女王陛下は、なにか重要なことを僕に伝えてない気がする。
 なぜだろうか。

 じっくりと資料を読み込み、それを最初の状態に戻して返却した。
 こういう貴重な資料は長い時間持っていたくない。

 一通りのことはすべて頭に入った……と思う。
 あとは出発するだけだ。

 夕方、シャラザードの準備ができたと知らせが入った。

「さあ、シャラザード。東へ飛ぶぞ。反乱鎮圧だ」
『心得た!』

 僕はアクリの町を目指して、一路東へ進んだ。


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