挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

356/660

356

 王女殿下が竜国で発生した内乱にかかわるのか、それとも。
 僕は王女殿下はここに残ってもいいし、王都に向かってもいいと思っている。

 王族の義務として国に帰るというならば付き合うし、万一を考えて王家の血を残したいというのならば、ここにた方が安全だ。

「私はソールの町に行きたいわ」
「はい?」
 ちょっと予想と違った。

「私だっていずれは王都に戻るわ。でもその前に現場を見ておきたいのよ」
「危険じゃないですか?」

「使者はソールの町から来たのよね。だったら安全なはず。それに、何かあってもあなたがいるでしょ。守ってくれるわよね」

「もちろん守りますけど」
「ソールの町が反乱に加わらなかったということは、安全。あなたがいればもっと安全……ほら大丈夫じゃない」

「えーっと、簡単にそう言い切るわけには……」

「国が危なそうだったらここに戻ってくるわ。けど竜国の王女として地方の様子をこの目で見てみたいの」
「……そうですか」

 そこまで言われてしまえば、反対する言葉が見つからない。

「なかなか肝がすわっておるの」
「好奇心が強いだけかもしれませんよ」

「それでもじゃ。いつ出てもいいように、準備はさせておるぞ」

 氏族長が言うには、シャラザードにはすでに餌を与えてあり、いまは休憩中だという。
 新しく雇ったシャラザード専用の竜務員たちがいつでも飛び立てる準備をしてくれているらしい。

「ありがとうございます」

 氏族長の配慮はありがたかった。
 いつ僕が来てもいいように予め手配してくれていたのだ。

「だったら今から行きましょう。氏族長、お世話になりました」

 ソールの町ならば生きた情報が入ってくる。
 出るならば早い方がいいということらしい。

「なんの。そうそう、婿殿」
「なんでしょうか」

「都市が落ちるのを防いでくれた恩、しっかり返させてくれよ」
 つまり死ぬなということらしい。

「はい。アンさんと式を挙げるまでは絶対に死ねません」
「そうじゃったな」
 氏族長は笑った。



 僕と王女殿下はシャラザードに乗って出発した。
 最後まで王女を守ってくれた護衛の人たちだが、疲労と怪我の状態が酷いので、ここに置いていく。

「さあ、一気に行っちゃいなさい!」

「分かりました。……シャラザード。全速力だ」
『心得た!』

 飛翔し、全速力で北上する。
 竜国に入って、万一にも奇襲されないためだ。

「シャラザード、高高度飛行で行く」
『この前試したやつか。ふむ、いいぞ』

 飛竜は通常、雲の下を飛ぶ。
 がんばれば低い位置にある雲の上までは出ることができる。

 シャラザードの場合、およそ飛竜の倍の高度まで上がることができる。
 ただし、そこまでいくと僕がもたないが。

 僕が耐えられる限界の高さを高高度として、シャラザードに覚えてもらった。
 理由は簡単。地上から発見されないためだ。

 今回の場合、商国を抜けていくので、あとで文句を言われないよう、だれにも見つかりたくないのだ。

 商国の西の都や街道からも外れた場所を選んで、高高度飛行を続けたので、この移動はだれにも見られていないと思う。

 慎重に行動して、ようやくソールの町に着いた。

 一緒にきたのは王女殿下である。
 本来ならば領主の館に赴いて挨拶するのだが、王女殿下の希望で、寄らないことにした。
 近くの町で反乱が起きていることもあり、存在は隠した方がいいという判断だ。

「これをつけてくださいね」
 帽子とマフラーで変装させてから馬車に乗り込んだ。

「……どこへ行くの?」
「実家ですよ」

 町を見てみたいとは言っていたが、そのまま散策させるわけにはいかない。

「実家って……お母様が信頼しているという〈影〉のところね」
「まあ、間違ってないですね」
 それって、父さんのことだろうなぁ。

「ちょっと楽しみね」
「観光じゃないですからね。それと、家族には内緒にしているので、〈影〉に関する話は一切しないでください」

「〈影〉の本場は王都なんだし、それくらい分かっているわよ」
 家族ぐるみで〈影〉をやっている場合もあるが、それは少数だ。

 通常はひとりかふたり。
 親子で代々引き継ぐような構成になっている。

「そうでしたね……もうすぐ着きます」

 家の前に馬車を止めて、僕と王女殿下は降りた。
 本来ならば裏口から顔を出すのだけれど、ここに一人、高貴な身分の者がいる。

「ただいま」
 表玄関、つまりパン屋の入り口から帰還した。

「いらっ……あら、レオン、どうしたの?」
「姉さん? ついに義兄さんに愛想を尽かしたとか?」

「馬鹿なこと言ってないの! 手伝いよ。それよりレオンはどうしてここの?」

「近くの町で反乱が起きたって聞いたから、情報収集がてら寄ってみたんだけど……父さんは?」

 エイナ姉さんが店番をするのはいいのだが、雑貨屋はいいのか?
 よくドロドフおじさんが許したな。

「お父さんね、なんか親友が大変だって出て行っちゃったのよ。それで手伝いにきたわけ……あら、お連れさん?」
「しまった! 父さん、留守か」

 親友ってのは隣町の〈影〉とかか?
 あっちの制圧に動いたのかな。

「父さんはいつごろ出て行ったの?」
「一昨日、家の方に来たから、三日前かしら」

「なるほど」
 やはり〈影〉からみか。姉さんに伝えたのはついでで、ドロドフおじさんに連絡を入れたのかもしれないな。

 店の中を見ると、保存がきくパンしか売っていない。母さんが焼いたパンだ。

 母さんも小さい頃からパン作りをしていて、学生時代は『ふわふわブロワール』でアルバイトをしたほどだったが、パン作りの腕は父さんに敵わない。

 母さんが焼くのは、あまり技量のいらない硬いパンばかりだ。

 父さんが反乱の町へ行ったのならば、何日も帰らない可能性がある。
 ここにいても無駄か。

 反乱の町の情報を聞きたかったのだけど、この町の〈影〉の知り合いはほとんどいない。
 さてどうしようか……などとひとりで考え込んでいたのがいけなかった。

 なにしろ僕が色々と考えている間に、姉さんは僕の連れに話しかけていたのだ。

 そして僕は、王女殿下に〈影〉の話はするなとしか言っていなかった。つまり……。

「私の名はサーラーヌ・ルクストラだ。私に名乗らせるなど、久しぶりのことであるな」

 そう言って王女殿下は、姉さんをひと睨みした。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ