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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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「相手はよりによって五会頭よ。殺してしまって大丈夫なの?」
 壮大に息を吐いたあと、王女殿下の厳しい声がとんできた。

 スルヌフ・エイドスは複数の罪で竜国から指名手配されている。
 それでも正式な裁判もなく罰を下したとなれば、問題になると考えたようだ。

「あの時僕はふたつのことを考えていました」
「ふたつのこと?」

「竜国商標が奪われたことを表に出してはいけない。もちろん敵の手に渡してもいけないと」
「それはそうね」

「そしてもうひとつ。あれは〈影〉が処理する案件だと思ったんです」
「それが世間に知られたら?」

「大丈夫でしょう。ずっと行方不明のままです」
 スルヌフは竜で海に向かって飛んでいったところまでは確認されている。
 しかも夜である。

 明かりのまったくない海で現在位置が分からなくなり、帰る方向を見失ったのではないか、つまり遭難したのではないかと。
 つまり生存は絶望的。

「……それでいいのかしら。でも今さら元に戻せないし」

 商国の重要人物を海上で殺して証拠隠滅したことに、いろいろ思うことがあるようだ。

「シャラザードに言えば、無傷で中型竜ごと確保できたんです。ただ、スルヌフを表に出して裁くわけにもいかないので、そういう方法を採りました」

 隠れて悪事を働くような相手だ。往生際は悪く、裁判になればびどい泥沼合戦になる。

 地位が高い連中の考えることは一緒だ。
 最終的に部下に責任をすべて押し付けて逃げ切ろうとするだろう。

 僕はそういう悪人は何人も見てきた。
 また、竜国商票が盗まれたと分かれば、竜国商会の信用問題にも繋がる。

 人知れず葬った方が良かったと思っている。
 女王陛下が何も言ってこないから、おそらく正しかったはずだ。

 ちなみに盗まれた大量の竜国商票は海の底なので、王城の地下で新しいのを刷り直して今は問題なく稼働している。

 問題は竜国商会の融資部門の人たちだ。
 ほとんどが殺されてしまったため、城から人が派遣されて臨時運用中だと聞いている。

「まあいいわ。このことは胸にしまっておきます」
「ありがとうございます」

「もしスルヌフの企みが成功した場合、どういったことが起こったのかしら」
 すべてを予想するのは難しいかな。それでもいくつか分かることがある。

「最低でも北方の町の経済は握られていたと思います」
「クロウセルトの町ね」

 ロザーナさんを妻に迎えて好き勝手やっていたことだろう。

「それと、盗んだ竜国商標は実際のお金と同じように使用できますから、それで地方経済が混乱していたでしょうね」
「どうして地方だと思うの? 王都は?」

「王都から盗んで王都で使えば捕まりますよ」
 使用者を突き止めれば〈影〉が処理しにいく。

「地方でも条件は同じじゃないの?」

「どうでしょう。僕は南部なら使えると思います。工場稼働によって人の流入が凄かったですし、そもそもあれは南部の町を狙う策の一つだったのではと思います」

「南部で使えば足がつかないということね。王都に竜国商標それが流れる頃には別の商人の手に渡っていると」

「はい。国境の町も商国に狙われていましたので、企みがすべて成功していたら、南部はボロボロになっていたと思います。そうなれば、反乱の拠点として利用された可能性が高いですね」
 実際には父さんがいるから、無理だと思うけど。

「そうすると、南部と東部……つまり、ソール、ダネイ、チュリス、アクリの町で反乱が起きたことになるわけね」

「北部のクロウセルトの町を含めれば、竜国七大都市のうち五つです」

 残っているのは、ウルスとヒューラーの町。
 ウルスはリトワーン卿の治める町だから、もともと敵側に属している可能性がある。とすると、実際には六つ。さすがに多いな。いや、それだけじゃない。

「いま思いつきましたが、王都もですね」
「王都を狙うなんて……いえ、ついこの前、狙われたのよね」

「王都の防衛力は強力です。何千人も反乱要員を送り込めませんから、それをせず、通商破壊を始めたのだと思います」
 この辺はリンダから聞いた話と合致する。

「その締めくくりが王都の放火?」

「あれは竜国商会を潰したかったんだと思います。王都に火をかけたのは、スルヌフが逃げる時間を稼ぐためですね。竜国商票は木箱で何箱にもなりました。大きな荷物ですから、夜間に走ると目立ちます」

「それだけのために町を焼こうとしたのね。腹が立つわ」

「竜国の全土に食指を伸ばしていたのか。狙う方はずいぶんとマメじゃな」
 ここまで黙って聞いていた氏族長が苦笑した。

「そうですね。いくつかは失敗させましたので、東部と南部の一部で反乱がおきただけに収まった感じでしょうか」

 あやうく竜国全土で反乱がおきるところだった。

「そう考え得ると、あなたがいなかったら、状況はかなり悪くなっていたわね」
「そうですか?」

「話を聞く限りだとそう思うわ。技国は言うまでもないし。竜国だって、北と南は知らないうちに敵の手に落ちていたでしょうね。そして王都」

「王都は落ちないと思いますけど」
「経済がズタズタになっていては、反乱鎮圧なんてできないわよ。今頃は極大の信用不安が起きていただろうし」

 盗まれた竜国商票は、ただの紙切れではない。
 書かれている金額と同等の価値がある。これをバンバン使われては、たしかに大変なことになっただろう。

 しかも被害を受けるのは竜国商会の会員のみだ。

「ふむ。現状は分かった。商国がやってきたこともな。それでこれからのことだが、竜国は反乱を鎮圧せねばなるまい。じゃが、大軍を派遣するには時間がかかる。そして王都を空にすれば……」

「ウルスの町が出てくるわね。反乱だけど、他の町に駐屯している軍と竜で対処できるかしら」
「向こうにも竜がいるであろうし、数で勝っていなければ消耗戦になるぞ」

「それにソウラン操者の問題もあるわね。彼がどちらについたかで状況はかなり変わってくると思うし」

「ソウラン操者は反乱を起こすような人には見えなかったけど」
 僕が言うと、王女殿下は首を横に振った。

「アクリの町の領主だってそうよ。あの人は善良で司政も信頼できるものだったもの。だから先入観は禁物」
「そうですね」

 王都でも身動きが取れていないんじゃないかしらと、王女殿下は言った。

「ただし、王都の操竜場では竜操者の再訓練が行われているから、普段よりも多くの竜がいるのよね。もしかしたら、すぐに数が揃えられるかもしれないわ」

 なるほど、怪我の功名か。再訓練で陰月の路が手薄になっていると言われているしな。

「王女殿下はどうしたいですか?」



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