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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 使者を下がらせて、再び三人の話に戻る。
 サーラーヌ王女と氏族長は難しい顔を崩さない。

 僕はといえば、状況を整理するために、授業で習った地理や歴史、これまでの関係を思い出している最中である。

 竜国の南と東で同時に反乱がおきたのがどうにも信じられない。
 僕が学院に入る前、竜国の南部には、そんな気配は微塵もなかった。

 東部はどうだっただろうか。
 生存環境の厳しい北部や、魔国との小競り合いのある西部に比べて、政治も経済も安定していると授業では習っている。

「無事に王都へ戻れるのかしら」
 サーラーヌ王女がボソッとつぶやいた。

「道中も危険ということですか?」
 王女殿下の懸念はそこにあるらしい。

「ええ、そうよ。竜は便利だけどそれは諸刃の剣ね。竜操者の中にも反乱に加わったのがいると思うし、私が競技会に出席したのも知れ渡っている。だったら、慌てて戻るのも簡単に予想がつくわよね」

 王女殿下が兎の氏族領にいるのは、竜国の反乱勢力に知られていないと思う。

 いま彼らはどう考えているだろうか。
 チュリスとアクリの町で反乱が起きている。

 大山猫の氏族領から北上するのも、一旦海上に出てからも、反乱軍の勢力圏内を移動することになるので、危険だ。

 帰路はソールの町を経由するしかない。
 そうなれば、ルートはほぼ特定されるだろう。

「でもシャラザードがいれば大丈夫じゃないですか?」
 僕がそう言うと、王女殿下は手をポンッと叩いた。

「そうだったわね」

 竜が行く手を阻んでも、シャラザードが一声出せば言うことを聞かせられる。
 問題は王都に戻ってからだ。

 そもそも王都が安全なのかという問題がある。
 先日の王都襲撃は少人数で行われた。

 ああいった攪乱作戦だからこそ人を厳選したとも言えるが、今回は地方の町ですら千人規模の参加である。
 もし王都で同じような事がおこれば、大混乱は間違いない。

「反乱の目的ってなんでしょうね」

「それはもちろん……政権の奪取?」
 王女殿下は自信なさげだ。

 王家に反旗を翻すのだから、いまのルクストラ王家を廃して別の新しい王族を作り出すのが目的だろう。
 僕はそう思っている。

 なにしろ、反乱が失敗すれば、首謀者は間違いなく死罪だからだ。
 生半可な要求のために死を覚悟して反乱を起こすとは考えにくい。

 王家を交代させ、反乱の罪をなかったことにする以外、彼らに生きる道はない。
 だが、目的は分かっても理由は分からない。

「だとすると理由はなんでしょうね。ただ気に入らないから反乱しましたじゃ、誰もついてこないだろうし」

 私利私欲のために武力蜂起したところで、おまえのために戦えるか。
 勝手にやっていろということになってしまう。
 反乱には大義名分が必要なのだ。

 かといって、王家の専横を許さない? それだけでは理由は弱い気がする。

 そして本当の首謀者はだれなのか。
 それによって、今後の反乱の動きも変わってくると思うのだ。

「目的が分からんと動けんな。わしも預かっている責任がある。動乱のある状態で軽々しく王女を国に戻させたくないわ」

 氏族長は難しい顔のまま、そんなことを言った。

「気になさらないでください。我が国は地方の反乱程度では揺らぎません」

「じゃがのう。不思議なこともあるんじゃ。今回の一連の出来事が仕組まれたものだとしたら、腑に落ちんことがひとつある」

 先ほどから難しい顔をしていたのは、ずっとそれを考えていたのだろうか。

「なんですか?」
「反乱が起こるとすれば、わしは真っ先にウルスの町を思い浮かべる。だが、先ほどの報告には入っておらんかった」

「「……あっ!」」
 僕と王女殿下の声が重なった。

 そう、ウルスの町だ。なぜそこが反乱に加わらない?

 リトワーン・ユーングラス卿の治める魔国との国境近くにある町。
 そして、最近王都との不和が噂されていた町。

「リトワーン卿が二心ありという噂がここまで届いておったからの。じゃが、フタを開けてみれば……」

 おかしい。なぜウルスの町は沈黙を守っているのだ?
「ウルスの町はこの反乱に関係ない?」

 僕の言葉に王女殿下は首を振った。
「リトワーン卿は旧王家の流れを汲む古支配者の血筋よ。もし政権交代を考えるのならば、こんなに適任はいないわ」

 ウルスの町は地理的にみると、旧王都に一番近い。
 そもそも、大転移で旧王都が使用できなくなったときに、そこから移住してきた者たちで作った町がウルスだと言われている。

 そしてユーングラス旧王家の子孫。
 正当なる嫡子がリトワーン卿なのだ。王女殿下の言葉に嘘はない。

 当代から五代さかのぼった時代、地方領主であったルクストラ家が竜国の支配者となった。
 竜という武力を背景にしてだ。

 ユーングラス旧王家もまた、その前の王族を追い出して王冠を手にしている。

 つまり時代は巡るということだ。
 今回、ルクストラ王家が追い落とされようとするならば、まったく新しい家か、かつてルクストラ家に追われたユーングラス家が候補に挙がってもおかしくない。

「南と東で反乱が起きたのですよね。ということはそれを鎮圧するために王都から竜が派遣されたとします。すると王都ががら空きになりますよね」

「ふむ。そこを西から奇襲するわけか」
「可能性のひとつですけど」

 その場合、王都が一番激しい戦場になる。

「ちょっと話を整理したいわ。あなたも〈影〉なんだから、裏の事情に詳しいでしょ。最近のことを教えてちょうだい。私も知っていることは話すから意見を聞きたいの」

 王女殿下は情報の共有を言い出した。
 それはいい案かもしれない。

 なにしろ、下手をすると王都が火の海になる可能性だってある。

 分かっていないのは、西部の動向。
 ユーングラス卿がなぜ沈黙を保っているのかだ。

 いや、もうひとつあった。ソウラン操者はどうした?
 彼がどちらの陣営につくかで、王都の運命が決まるのではないか。

 消えない炎を吐くという青竜。
 もしソウラン操者がそれを王都に使用すれば……。
 そんな予想を、僕は後悔した。

 王都には、リンダやアーク、多くの友人がいる。
 ロブやミラをはじめとした、商業区の人たちがいる。

 義兄さんも、ときに敵対することがあるけれど、〈影〉だっている。
 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の人たちや、市井で働く人たち。

 彼らのためにも、情報を整理して最適解を見つけておきたい。


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