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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 変な気配がしたから行ってみたら、コソコソと侵入してくる人影を発見した。
 攻撃してきたから、遠慮なく殺したのだけれど、マズかっただろうか?

「たぶん敵だと思うんだけどな……だれだろ、この人」
 気にはなったが、今はもうただの屍だ。

 日中、少し寝たので、頭は冴えていた。
 だが、戦場の興奮をまだ引きずっていたようだ。

 殺さないで四肢を砕くだけにしておけば良かったか。
 ちょっと反省。

「……まっ、いいか。部屋に戻って寝よう」

 発見した人が騒ぐと困るので、『殺しました レオン』と手紙をおいてきた。
 これで大丈夫だろう。

 ……と思ったら、翌朝騒ぎになっていた。

 早朝、掃除にきた若いメイドが発見して悲鳴をあげたそうな。
 僕のせいじゃないよね。ちゃんと置き手紙したし。

 戦時体制だったもので、悲鳴を聞いた兵が飛んできて、現場は大騒ぎになったとか。

「あなたねえ……」

 サーラーヌ王女が頭を抱えている。
 死体の身元はまだ分からないらしい。

 忍び込んだ暗殺者の可能性が高いけれども、それ以外の可能性もある。
 王女殿下はそこを危惧している。

「だって襲われたし」
「そりゃ不審者がいたら襲うでしょ」

「不審者って……僕?」
 王女殿下は頷いた。ちょっとひどくない?

「一応言っておくけどここは他国。それも高貴な人が住む館ね。分かる?」
「分かるよ」
 もちろん分かっているさ。

「私やあなたは客人の身分ね。館の持ち主じゃない。ここで働いている使用人でもない」
「そうだね」

「そこで考えてみましょう。客人のあなたが、見知らぬ人を発見しました。さてどうする?」

「倒す」
「倒すな-!」

「いやだって攻撃されたら反撃するでしょ」
「反撃はだめ!」

「じゃ、迎撃」
「………………」

 王女殿下は大きく息を吐き出してから、「防衛という概念はないのか」とやはり頭を抱えだした。

 結局、話は氏族長のところにおよび、僕は説明に赴くことになった。

 警邏の兵いわく、ここで働いている人は全員、死んだ人の顔を見たこと無いという。

 残された可能性で一番高いのは暗殺者らしいので、首実検、いわゆる顔検分をするらしい。

 それとは別に、氏族長への説明だが……。

「死んだのは武器を真っ黒に塗っていた奴だ。おおかた暗殺者じゃろう。よくやったな」
 ディオン氏族長はかかかと笑った。

 魔国の侵攻があったばかりなので、魔国側の人間である可能性が高い。
 氏族長は魔国の人間に詳しい者をここに呼び寄せるらしい。

「なあに、総出で確認すれば、昼前にはカタが付くじゃろ。安心しててよいぞ」

 そう言われて「じゃ、昼にまた」と答えておいたら、王女殿下に耳を引っ張られた。
 部屋に連れ込まれて、長い長い説教を受けることになったのだ。
 理不尽だと思う。


 昼食後に氏族長の呼び出しがあった。
 行こうとすると、王女殿下も一緒に行くときかないので、ともに氏族長に会いにいった。

「死体の身元が判明したぞ」
「だれでした?」
 もう分かったのか。さすがだな。

「魔国の人間じゃった。十三階梯ってあるじゃろ? あれの第五位、『無月ニュームーン』のライアートだ」

「へえー」
 知っている人がちゃんといるんだ。

「それはまた……大物ですね」
 僕より王女殿下の方が驚いている。

「さすがにわしもビックリじゃ。引退した魔国の外交官など、複数の者に確認させたからまず間違いないじゃろう」

「その人って、暗殺者だったんですか?」

「うむ。『無月』は希代の暗殺者として名を馳せておる。成功確率百パーセント。魔国王の覚えもめでたい超がつくほど優秀な魔道使いじゃ」

「へえー」
 僕と戦ったとき、魔道は使ってなかったけどな。

 なんの魔道を使うんだろうか。まあ、もう死んだからどうでもいいけど。

「レオンが勘違いで殺してなくて、本当によかったです。彼は優秀な者ですから粛清させるのは忍びないと思いましたし」
 いや殺さないでください、王女殿下。結婚もまだなのに。

 まあ、今のは冗談だろう。
 別室で僕に怒ったときは、外交問題になるのを心配していたし。

「うむ。わしらが顔を知らない時点で怪しすぎたしな。当然の結果じゃろう。逆によく暗殺を防いでくれた。こちらから礼を言わねばならんくらいだ」

「たまたまです。本当に」

「ところがそうはいかん」
「ん?」

「礼のことじゃよ。というのもな、戦時報告書がわしのもとに上がってきたのじゃ。もちろん簡易版であるが」

「はあ」
 お礼って、氏族長は何が言いたいのだろう。

「今回、魔国の襲撃を防いだのは、事実上お主という結論になった」
「……へっ?」
 意味が分からない。

「戦果だけでも膨大であるが、事はそれだけではない。わしらが守りを固めて、いつ陥落するか戦々恐々としていた時に、外の敵をすべて倒したのは最大限評価できる案件だと戦術武官たちは申しておる」

「暗かったですしね、全滅させるのは簡単でした」
 森の中だったので、僕に有利な条件が揃いすぎていたから、意外に簡単な仕事だった。

「敵兵三万のうち、二万近くをお主が倒してくれたおかげで我が町は救われた。これには報いなくてはならない」

「そんなにいたんですか……二万?」
「うむ。二万じゃ」

「……あなた、私を助けに来る前に、そんな破壊の限りを尽くしてきたの?」

 王女殿下がジト目で僕を睨んでくる。
 ちょっと待て。なにかがおかしい。

 僕は考えた。
 まず王女殿下を探しに東の森へ向かった。
 シャラザードが森に降りられないので、魔国兵だけを狩るように指示を出した。

 僕が森へ入り、王女殿下を探すついてに森に入ってきた魔国兵は全滅させた。

「もしかして……」
「ん? どうしたのじゃ?」
「いえ……」

 もしかして、僕が森にいる間にシャラザードの奴……魔国兵を全滅させた?
 森の外……というか、その周辺だけじゃなかったのか?

 そういえば、近くにはいなかったけど。

「ついでに魔国に詳しい者に、敵側の攻撃について聞いてみたのじゃ。槍を打ち出したのが『魔槍』パディスで間違い無いじゃろうとのこと。正門を破壊したのは、恐ろしいことに『崩壊』の
ノールセイドだと思われた」

「ふたりとも魔国の英雄ですね」

「そうじゃ。それらを投入してきたことに驚きを禁じ得ないが、それはそれ。まずはそれらを撃退したレオン殿に褒美をとらせないとならん。……というわけで、何か希望はあるかね?」

「希望ですか?」

 僕はチラッと王女殿下を盗み見た。
 殿下は「好きにしなさい」とジェスチャーを送ってくれた。

「でしたら、この町にパン屋を開くのを……許可してもらえますか?」
「パン屋じゃと?」

「ええ……駄目でしょうか?」

『何でも』というのなら、僕の夢を叶えてみたい。

「まあ、おぬしがそれでいいというのならば、店を持たせるくらいわけないが……良いのか?」

 最後の「良いのか」は王女殿下にあてたものだ。

「彼の国籍が竜国のままでしたら、こちらで何を望んでも規制するつもりはありません。店といっても一時的なものでしょうし」

「ふむ……なるほどのう」

 あれ? 決まったの? 僕もパン屋が持てる?
 大転移までのわずかな時間でもいい。
 一国一城の主にならなくてもいい。

 僕は小さくてもいいから、自分の店、パン屋を持ちたいんだ。
 それが叶うみたい。

「よし、ではお主にパン屋を……」

 氏族長がそこまで言ったとき、使者が慌てて駆け込んできた。

「何事じゃ!」
 一喝する氏族長。だが、使者は「緊急事態です」と言いつのる。

「何があった?」
「はっ、ただいま竜国より飛竜がやってきまして……竜国の南と東で大規模な反乱が勃発したそうです」

「なんですって?」
 王女殿下が目を大きく見開いた。

「それと、王女殿下におかれましては、すぐに王都へ帰還するようにとお達しです」

「直接話を聞きたい。竜国の使者をこちらへ」

「はっ、ただいま呼んで参ります」
 使者が出て行く。

「…………」
「…………」
 氏族長も王女殿下も口を開かない。
 内容が衝撃すぎたようだ。

「……それでですね、僕のパン屋ですけど」
「おお、そうじゃった。話の途中じゃったな」

 氏族長が王女殿下を見る。
 王女殿下は、僕を見て一言。

「駄目に決まってるじゃない」

「ですよねー」


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