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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ライアートの暗闇を見通す目――『無月ニュームーン』は、常時発動できる優れものだが、それを評価する者は少ない。

 そんな彼が魔国十三階梯の第五位に就けたのには、もちろん理由がある。

「真横を通っても気づかないなんて、気を抜き過ぎだろう」

 警備する兵の横を悠々と抜けていく。

 どんな暗闇でもライアートにとっては昼間と同じ。
 彼はその能力を極限まで発揮できるよう、鍛錬に明け暮れた。

 それで習得したのは、無音歩行と気配遮断のふたつ。
 これらは魔道ではない。技能わざである。

 魔道使いとして矜持などどこ吹く風で、ライアートは一流の暗殺者に師事し、その独自技能をものにした。

 これらは彼の魔道『無月』と相性がよく、先ほども警邏の兵の真横を通過したにもかかわらず、不審すら感じさせることすらなかった。

 彼が第五位にいるのは、彼の魔道と暗殺技術の高さゆえに他ならない。

「この先の建物に氏族長一族がいるな。今日はお誂え向きに、月のない夜だ」
 光ひとつない中をライアートは進む。

 ライアートには、暗殺を成功させる自信があった。
 彼の魔道と技能の前には、条件さえ合えば序列一位のバシリスクすら倒すことができる。そう考えていた。

石眼バシリスク』と恐れられ、魔国最強の座をほしいままにして数十年。
 いまだ彼を越える魔道使いは現れていないと言われているが、真っ暗闇の中で戦闘をすれば、勝機はライアートにあると思っている。

 何しろ、バシリスクの魔道は、対象を視認して発動する。
 その能力は凶悪で、人でも動物でも、いやただの物ですら石に変える。

 だが、鼻をつままれても分からないほどの闇夜の場合、バシリスクの魔道は発動しない。
 そうなればいかに強力な魔道でも意味はない。

 この勝負の場合、魔道は汎用性の高さが勝敗に影響するのである。
 その点ライアートは、戦いそのものは自分の肉体と技術によって高めており、魔道に頼ったことは一度もない。

 それこそがライアートの強みであり、彼を序列第五位に引き上げた要因ともいえる。

 ライアートは氏族長のいる建物に入り、階段を上がる。

「兵から聞き出した情報によると、いまここにいる重要人物は、氏族長とその孫夫妻。せめて彼らだけでも亡き者にしない限り、魔国に戻ることもできん」

 寝静まったところを襲えば、簡単に殺すことができる。
 問題は逃げるときである。

 闇夜の中でどんなに優秀なライアートであっても、昼間はただの暗殺者に過ぎない。
 追われて包囲されてしまえば、脱出は不可能である。

 ゆえに逃げるときには、決して顔や姿を見られてはいけない。
 それだけは守るつもりでいた。

「……ん? こんな暗闇の通路に人? 立っているのは、青年か。まだ若そうだが、こんな真夜中にどうしたんだ?」

 ライアートの足が止まる。
 もちろん気配遮断は完璧である。足音は微塵も立てていない。

 さてどうしたものかと、ライアートは考える。
 青年が通路の真ん中に立っている。

「横をすり抜けるのは簡単だが、ここの通路は狭い。青年が少しでも動けば、身体が接触してしまうかもしれない」

 逡巡したが、思い切って通り抜けることにした。
 というのも、ライアートが見たところ、青年は通路の中央で微動だにしていなかったからだ。

 だが、ライアートが通路の脇に寄ったとき、青年の顔がつられて動いた。
「……!?」

 見られている? いや馬鹿なとライアートは考えを打ち消した。

 心臓が跳ね上がったが、そんなはずはないと、心を落ちつかせる。
 いまは完全な闇夜。ライアートの姿は見えるはずがないのだ。

「ねえ、こんなところで何をしているの?」
 青年が語りかけてきた。

 瞬間、ライアートは胸の内側を探っていた。
 暗殺者として、ライアートはたえず身体の各所に暗器を隠し持っている。

 ナイフや針などはすべて特注である。
 刃から柄まで真っ黒に塗りたくっているため、通常でも視認しづらい。

 それを闇夜の中で放れば、だれひとり気づかずに暗殺できる。

 そっと一本のナイフを取り出す。

「やっぱり護衛の人じゃないみたいだね。ということは敵でいいのかな?」

 ライアートは確信した。目の前の青年は見えている。
 少なくとも自分のことを認識していると。

 ライアートの額に汗が浮かぶ。このような事態を想定していなかった。

 だがすぐにかぶりを振る。
 見えているわけではない。勘が鋭いか、嗅覚が発達しているのか、人がいそうな気配を感じ取っただけだろうと予想をつけた。

「ならば、先手必勝」

 ライアートはゆっくりと振りかぶって、素早い動作でナイフを投げた。

 漆黒のナイフは青年の喉元めがけて飛んでゆき……青年の二本に指によって挟み取られた。

「やっぱり敵みたいだね。ということで反撃するね」

 背筋に冷たいものが走る。
 気配や嗅覚ではなく、この青年は見えているのだ。
 さもなければ、高速で飛んでいる漆黒のナイフをああも簡単に抓むことなどできはしない。

「くっ!」

 懐に手を入れ、針とナイフを連続で投げる。
 だがそれは、ことごとく躱すか弾かれる。残りは青年の手の中に収まった。

「じゃ、こっちの番だ」

 何をするのかと身構えたところ、剣を持った青年の腕が消え……。

「ぐはぁあっ!」

 ライアートの背中から胸部へかけて、剣が生えていた。
 みれば、相変わらず剣を持った腕は消えている。

「な……なんで」
 徐々にライアートの視界が黒く染まっていく。

「攻撃されたから思わず殺しちゃったけど……」
 薄れゆく意識の中で、小首を傾げる青年。

「敵だよね?」
 それがライアートの聞いた最期の言葉だった。

「(なんで疑問系なんだ)」

 そう答えたはずだったが、口からは血の泡しか出てこなかった。


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