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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 魔国十三階梯、第五位のライアートは呆然とした。
 外に展開させていた部隊が全滅したというのだ。

 しばらく言葉が出ないほど驚き、考えようとしても混乱して、うまく頭が働かない。

「全滅だと? 市街の外に展開させていた部隊がか?」

「はい。ジュチ様とノールセイド様は黒竜のまえにあえなく戦死……士官を失った兵たちは連携もとれず、命令する者もいなかったため、そのまま黒竜に蹂躙されました」

「パティスは? 『魔槍』のパディスはどうした?」

「いまだ行方が分かりません。昨日、本拠地の反対側に向かってから、森の方に向かったまでしか確認できていません」

「そうか。せめてパディスだけでも無事でいてくれたら……嘆く前にやることがある。全員よく聞くように!」
 ライアートの言葉に、周囲の者に緊張がはしる。

「ただ今より全軍の指揮権をジャクリンに委譲する。ジャクリンは兵をまとめて国に撤退するんだ」

「あなたはどうするのです?」
「任務がある。俺一人ならばこの城に潜入し、氏族を全員血祭りにあげることができる」

「それは可能でしょうけど……脱出できないわよ」
「もとよりそのつもりだ。ジャクリンは生きろ。このことを魔国王に伝えるのだ」
「でも……」

「時間がない。急ぐんだ。外が全滅したならば、俺たちはいま袋の鼠。すぐに脱出しろ」
 有無を言わせぬ口調で告げるライアートに、ジャクリンは反論しかけて止めた。

 作戦は失敗。
 もともと完全な成功は望めない作成であった。
 最低でも三つの氏族領を落とす。それが今回の遠征の目的となっていた。

 できるだけ技国の奥深くに入り込み、世間の耳目をここに集める。

 帰りの安全は保証されない。捨て石となっても進み続ければ魔国のためになる。
 ライアートはそう思っていた。

 だが、フタを開けてみれば、奇襲で落とせた氏族はたった一つのみ。
 しかも技国全体にほとんど影響のない、弱小氏族だ。

 虎の子の魔道使いを投入してすらこの体たらく。
 作戦は完全に失敗だった。もうできることは、一兵でも多く自国に返すのみ。

 多くの兵を失った以上、ここを落とすことは不可能。
 それどころか、ここで全滅の可能性も出てきた。

「俺はこのまま町に溶け込む。いいか、必ずすぐに脱出するんだ」
「……はい。しかと承りました」

 これが最期の別れになるだろう。
 ジャクリンはライアートの姿を目に焼き付けた。

「ジャクリン様」

「……っと、私も責務を果たしましょう。全員に通達。本拠地を出て魔国に帰ります。すぐさま正門前に集合するよう、全員に徹底させなさい」

「「「ハッ!」」」

 敬礼して出て行く人たちを送り出してから、ジャクリンは一筋の涙を流した。

              ○

 シャラザードの背に全員を乗せて、僕らはディオン氏族長の元に帰還した。
 頭部のみを外した駆動歩兵ヨーランの足をかけて転ばしてやろうかと思ったが、なんとなく王女殿下の視線が突き刺さっているので、自重しておいた。

 空から激戦を繰り広げていた市街地を眺めたが、戦闘を継続しているところはひとつもない。
 たまに見かける人影は、家の中に閉じこもっていた民たちであった。

「敵はすでに撤退したみたいです」
 多くの人が道ばたで屍をさらしている。多くの人が戦って死んだ。

「市民は氏族の住む一角に避難させたみたいね」
 王女殿下が町を見下ろしてそう言った。

 正門が破られていたが、その前にある程度の避難は完了していたのだろう。
 逃げる時間はあったはずだ。

 いまも市街にいるのは、私財を守ろうと自ら残った者たちだろう。
 彼ら避難民は、身一つでやってくる。避難も早いはずだ。

 王都に住んだとき、言われたことがある。
 もしも王城に避難する事態になった時は、荷物を持ち込まないようにと。

 銘々が荷物を持ち込むと、場所も時間もかかってしまう。それによって失われる命もあるのだから、身ひとつで素早く避難するのは常識となっていた。

 シャラザードが上空を旋回して安全が確認されたので、いつもの場所に降下する。

 そこからの交渉ごとは、すべて王女殿下がやってくれた。
 僕はただ、言われるままに報告を済ませ、食事を摂った。

 昨晩は徹夜して森の中を動き回ったために、そろそろ眠くなってきた。

「まだ昼前よ」
「そうは言っても、前々日から寝てないしね」

 大山猫の氏族領から飛んで来て、そのまま戦闘である。
 体力的にそろそろキツくなってきた。

「まあ私もそうだし、少し寝るといいわ。とりあえず警備はしっかりやってくれるだろうし」

 王女殿下の護衛は一人だけ生き残った。ほぼ壊滅だ。
 竜操者も生きているのは二名という有様だ。

 あの真面目で仕事一筋のドラス隊長も、早々に帰らぬ人となったらしい。
 部下を死なせて自分だけ安全な場所にいるような人ではないので、そうだろうと思う。

 そんなことをつらつら考えているうちに、睡魔に負けて、寝入ってしまった。

「……ん? まだ夜か」

 あてがわれたベッドで目を覚ました。

 外が暗い。
 話し声が聞こえるから、それほど遅い時間ではなさそうである。

 僕がいるのは氏族が住む館の中だが、ここは小さな町と言っていいくらいの規模がある。
 いまは避難してきた人たちがまだ残っているため、遠くから人の喧噪が聞こえてくる。

「お腹空いたな」

 食べるものをもらうついでに様子を確認したい。
 僕はベッドを抜け出した。

 外を歩くと、人が集まっている理由が分かった。
「炊き出しが行われているのか」

 人は生きているだけで腹、が減る。
 暖かくて美味いものがあれば、そこに人が集まるのは道理である。

 アンさんがここにいない今、位の高い人と堅苦しい作法で食べるよりは、列に並んだ方がいい。
 僕は炊き出しの列に並ぶことにした。



「ふー、美味しかった」

 まる一日以上何も食べていなかったので、簡素な味付けの汁物だったが、存外美味しかった。

「考えてみれば、本拠地にいる料理人ってことは、三級以上の免状持ちだよな」
 美味い理由に納得した。

 その後ぶらぶらと避難してきた人々の様子を眺め、夜も更けてきた頃に、あてがわれた部屋に戻ることにした。

 その途中……言いしれぬ違和感を抱いた。

「……ん?」

 戦場に身を置いていたからか、神経か研ぎ澄まされたからなのか。
 今まで感じたことのない、妙な気配のもとを探るべく、僕はそっとその場を離れた。


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