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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 東の森を出て驚いた。
 あたり一面、魔国兵の死体だらけだった。
 これはシャラザードがやったものだろう。

「……で、肝心のシャラザードはどこへ行ったんだ?」
 地上にも空にもいない……と思っていたら、シャラザードが戻ってきた。

「どこへ行っていたんだよ!」
『なに、そのへんを少しな』

「確認するけど、これをやったんだよな」
『こんなもの月魔獣と比べたら、雲泥の差だな。腹ごなしにもならん』

「まあ、そうだろうけど、森の外に魔国兵以外の人はいなかったか? 竜操者――僕と同じ服を着た人たちだけど」

 飛竜隊の竜操者がどこかにいるはずだ。
 竜からおりて、王女を探しているか、一緒にいると思う。

『いたぞ』
「いたのか!」

『うむ。戦っている最中に見たが、こいつらとは違ったので、手出ししておらん』

 僕は魔国兵だけを倒すよう伝えた。
 シャラザードはそれを忠実に守ってくれたようだが、当然のごとく細かい作業は苦手だ。

 魔国兵以外がいる場所へ躍り込むと、味方もろともやっつけてしまいかねない。
 それゆえに自重したようだ。

「僕をそこへ連れて行ってくれ。場所は分かっているよな」
『もちろんだ、主よ。すぐに行くか?』

「ああ、頼む」
 僕はシャラザードに飛び乗った。



 シャラザードが向かった先は、森の北東。それも本拠地から大分離れた場所だった。

 途中で飛竜の死体があったし、所々に魔国兵と技国兵、駆動歩兵も転がっている。
 戦闘をしながら移動したらしい。

『見えたぞ』

「本当だ。……しかもまだ戦っている! 両者の間に降りてくれ」
『あい分かった』

 シャラザードが地響きを立てて、大地に降り立った。
 魔国兵の顔が驚愕に歪む。

「ここで威嚇しててくれ」
『うむ』

 大地が揺れ、みながバランスを崩す間に僕も地面に降り立った。

「……さて」
 見回してみれば、王女殿下はいた。駆動歩兵に抱えられて撤退戦の最中だったらしい。

 味方の数は少ない。
 生き残った数が少ないと言えばいいのだろうか。

 途中の死体も技国兵たちが多かった。

 魔国兵の方が多いが、別段脅威に感じるほどではない。
 と思っていたら、槍が飛んできた。

「おっと。物騒だな」
 凄い勢いで飛来してきたので、避けた。

 槍はシャラザードの足に当たっていずこかへ跳ねていった。

「シャラザード、大丈夫か?」
『とくに被害は感じないが?』
「そうか。ならいい」

 あの程度では、攻撃を受けたという認識すらないようだ。
 相変わらずというか、何というか。

「飛竜すら一撃で落とすオレの槍を……」
 なんか面倒そうなことを言っているのがいる。まだ撃つつもりだろうか。

「シャラザード、槍が後ろに通らないようにしてくれ。奴らを全滅させる」
『うむ、槍を防げばいいのだな。構わんぞ』

 敵は魔国兵と……槍を打ち出しているのは魔道使いかな?
 弓兵はいないようだし、王女殿下の脅威となるのは魔道使いくらいか。

 二本、三本と飛来してくる槍を難なく避けて、敵の魔道使いに肉薄した。

「オレの槍を……このっ!」
 敵の顔が怒りで朱に染まった。

 射出する無意味を悟ったのか、槍を持ち替えて僕に繰り出してくる。
 この魔道使い、槍の技量は『並の上』ってところかな。

 肉体をいじめ抜くのではなく、魔道の熟練度を上げるのに明け暮れていたのだろう。
 ウォートさんやイーナさんのような、鬼気迫る迫力がない。

「よっと!」
 槍をかいくぐって、小剣で手首を斬りつける。

「ぐわっ!」

 怯んで持ち手が疎かになったところに、僕の蹴りが炸裂した。
 残った手首を蹴り上げたら、おもしろいように槍が飛んでいく。それはもうクルクルと。

 もちろん行方を最後まで追うことはしない。
 さらに一歩踏み込んで、魔道使いの喉元を切り裂いた。

「……ッ」
 喉から血を吹き散らして、魔道使いが沈む。

 それまで呆然と見ていた魔国兵が剣を構える。
 あっ、いいこと思いついた。

「シャラザード、こいつら倒せるか?」
『無論だ』

 シャラザードは足を持ち上げ、僕の頭上を越えた一歩を踏み出した。
 ズンッと鈍い音を響かせ、魔国兵はペシャンコになった。

「そんな、身もふたもない」
「ただ倒せばいいというものでは……」
「あれが戦いというのか」

 僕とシャラザードの後方から、一部始終を見ていた感想が聞こえてきた。
 あれ? なんか僕が悪者になっていない?

 振り返ると、生き残った王女殿下の護衛だろうか。肩がビクンっと震えた。
 駆動歩兵も半歩下がった。……なぜ?

「……えー、コホン。サーラーヌ殿下、お迎えにあがりました」
 王女殿下は駆動歩兵に抱えられている。というか、自ら抱きついている。

 森の中に落下して、なぜこんな離れた場所にと思ったが、落下地点に駆動歩兵が駆けつけたのだろう。

 そうでもなければ、生き延びることはできなかったはずだ。

「ありがとう、レオン。それにシャラザードも。正直もう駄目かと思ったのだけど、まだ運は私に味方していたようね」

「間に合えて良かったです。僕もこんな遠くまで逃げているとは思いませんでしたので、来るのが遅れました」

「大丈夫よ、ヨーランが偶然駆けつけてくれてね。助かったわ」

 ヨーランとは、王女殿下を抱きかかえている駆動歩兵乗りのことだろうか。
 顔は見えないが、ずいぶんと親しそうだな。

 ……あれ? その名前、どこかで聞いたことがあるぞ。
 そうだ。王女殿下が僕にお忍びを強要して町中を散策したときの兵か。

 闇の中から僕も見ていたけれど、少し見ない間にずいぶんと成長して……。
 いや、こんなに大きくなるわけがない。

 僕は駆動歩兵を見た。ずっと違和感があったが、どうやらこの駆動歩兵。
 通常の戦闘タイプよりもずっと大きい。見た感じ、新品の駆動歩兵だ。

「試作機だけど大型の駆動歩兵、新型だそうよ。権利の関係で技術競技会には出さなかったらしいけど」
「なるほど、それでここに残ったのですね」

 駆動歩兵など、そうホイホイ作れるものではない。
 もし技術競技会で実演するのならば、整備士含めて全機持っていってもおかしくなかった。

 残っていたのはまさに僥倖だ。

「それでレオン、戦況は?」
 王女殿下が駆動歩兵からおりた。

「僕がここに来たのは昨日の夕方です。そのときは本拠地の正門が破られて市街戦が始まっていました。ですが、さきほど見た限りではそれも収まっています。氏族の迎撃部隊が撃退したのではないかと思います」

 周囲の緊張がいっきに緩んだ。
 ホッとして座り込んだ者もいる。

 昨日から今まで、きっと緊張しっぱなしだったのだろう。

「竜国に戻りたいところだけど、怪我人ばかりなの。本拠地が無事なのね。だったら一旦兎の氏族に戻るわ」

「分かりました。シャラザードならばここにいる全員を運んでも問題ありませんし、みなで帰りましょう」

 シャラザードの背中に人と駆動歩兵を乗せて、僕らは本拠地に向かって飛び立った。

 ……で、随分王女と親しそうだな、ヨーランくん。
 調子に乗っていると、あとで女王陛下が怖いよ? というか告げ口するよ。

 ヨーランの隣で、まんざらではなさそうな王女。
 その横顔を盗み見て、僕はそんなことを考えていた。


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