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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 魔国軍はほぼ市街戦を制した。
 現在は氏族の住む一角、いわゆる城に相当する一帯を包囲し、攻め立てている状況だ。

「この分ならば、明日か明後日には落ちるな。……その前にノールセイドを投入するかだが」

 ノールセイドの『崩壊』を使えば、城は丸裸となる。
 兵の消耗も少なくて済み、良いことづくめだが、連続して使用できないため、そろそろ長期の休養が必要になってくる。

 城が落ちるのが半日か一日の差ならば、ノールセイドなしで行ったほうが後々いい、そうライアートが考えていると、外から奇妙な報告が届いた。

 すでに日もどっぷりと暮れて、真夜中といっていい時間帯である。
 慌ててやってきた使者は、ライアートの前にくると、泡を食ってしゃべりはじめた。

 要領を得ない内容を注意深く聞いているうちに、ライアートの目が大きく見開く。

「東の森が全滅したというのか!?」

「闇夜の中に突如として巨大な竜が現れて、味方を次々と殺していくのです。それはもう悪夢のようでして……仲間は逃げたんです。だけど逃げきれなくて……散り散りになってもすぐに追いつかれて」
 それは、あまりに悲壮な声だった。

 漆黒の身体を持つ巨大な竜。
 襲ってきたのは、ライアートが見たあの竜であることは明らかだった。

「森の中に入った部隊はどうした?」
「それどころじゃなかったので、確認できておりません」

 彼は運良く生き残っただけだ。
 それ以上を期待するのは酷だった。

「ご苦労だったな。少し休むといい。……それで竜はどこへ向かったか分かるか?」
「いえ、いまだ戦場を飛び歩いているようです」

 ライアートは舌打ちしたい気分だった。
 魔道によって夜でも自由に目が利くライアートと違って、一般の兵は夜目がきかない。

 漆黒の身体を持つ竜が上空にいても気づかない。

 市街地は制したが、城攻めはこれからが本番だ。

 それとは別に、どこから敵の増援が来てもいいよう、ある程度兵を散らしている。
 というよりも、市街戦に多くの兵は必要ないから、投入していないだけだ。

 外の兵をみな市内に引き入れたいが、そうすると敵の増援に対応できなくなる。
 だが下手をすると、外に出した自軍が大ダメージを受ける可能性がある。

「ノールセイドに知らせろ。そろそろ魔道が使えるようになっているはずだ。だめでも引きずり出せ。極大魔道を黒竜にぶつけろとな」

「かしこまりました!」

 使者が去ってゆくが、ライアートの顔は晴れなかった。

 ノールセイドの魔道は月魔獣すら一撃で吹き飛ばす。
 城を落とすのに使ってもよいが、そうすると黒竜に対する武器がひとつもなくなる。

 それでは城を落としたところで詰んでしまう。ノールセイドには黒竜を倒す……のが無理でも大怪我を負わせるくらいはしてほしい。

 彼の魔道は『崩壊』だ。黒竜にも効果はあるだろう。

「……問題は、戦闘継続できるかだな」

 魔国軍は技国の目が技術競技会に向いている間に、領地の奥深くに入り込み、できるだけ多くの氏族領を落とすのが狙いであった。

 失った兵の補充は難しい。
 なにしろ、竜国は魔国との国境付近に兵を配置し、いまにも襲いかかろうと狙っている。

 加えて月魔獣の大量降下で、兵はいくらあっても足らない状況だ。
 ここで一万、二万の増援は期待するだけ無駄である。

「なんとか兵を集めて立て直すしかないか」

 明日の朝、ノールセイドが黒竜を退けたあと一旦兵を集結させ、そのうえでここを攻め落とす。

 ライアートはそう考えるが、情勢が不透明過ぎた。
 黒竜の存在が、完全にイレギュラーなのだ。

「いや兵を使って、このまま徹夜で攻め落とした方がいいかもしれないな」
 一旦引いてから兵を集めると、半日近く時間を無駄にしてしまう。

 敵に時間を与えると不利になるのはこちらである。いまは半日でも時間が惜しい。
 そう考えて、ライアートは攻撃を継続させる指示を出した。

 ところが、想像だにしていなかった出来事がおきた。
 外にいた部隊が全滅したという知らせが、飛び込んできたのだった。

「………………」

 それにはライアートもしばし、言葉が出なかった。



「なっ、なんでここに!?」
 ライアートの指示の下、約一万の兵力を市街戦に投入せず、街道の近くに集結させていた。
 魔道使いジュチは、それに『水幻影』をかけたところである。

 姿は完全に見えないはずであった。
 だが、黒竜が潜伏している軍の只中に降り立ち、殺戮をはじめたのだ。

「こ、これは、知らせなきゃ……」

 黒竜の暴威は凄まじく、ただの歩兵では手も足も出ない。
 報告に向かおうとするジュチは、他の兵もろとも黒竜の長い尾によって弾き飛ばされた。



 近くで黒い竜が暴れている。
 その知らせを聞いたノールセイドは、介護の兵を押しのけて、天幕を出た。

「ノールセイドさま」
「大丈夫だ。あと一発くらい打てる」

 ノールセイドは英雄であり、魔国を守る柱のひとつ。
 彼が出てきたならば、どんな月魔獣だろうと一瞬で破壊してしまう。

 彼は兵の信頼を裏切らない実力を彼は持っていた。

 そんなノールセイドの前に、黒竜が現れる。

 周囲にはかつて兵だった者が散らかっている。

「この悪魔め! 友軍のかたきだ。思い知れ!」

 月魔獣を破壊し、分厚い門すらその壁ごと崩壊させる彼の魔道『崩壊』。
 ノールセイドはそれを黒竜に向けて放った。

『崩壊』の魔道は、想像を絶する規模の衝撃波を対象にぶつけるものだ。
 ぶつけられた対象が持っている「形作る」力そのものを破壊する。

 衝撃波が黒竜の胸元に炸裂する。

「……どうだっ!」

 それがノールセイドの最期の言葉となった。



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