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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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兎の氏族領で最初に魔国軍と戦った時のお話です。
視点は、魔国側にあります。
 魔国軍歩兵一万の前に、兎の氏族の迎撃部隊が現れた。
 互いにまだ距離がある。

 このまま一万の魔国軍が足を止めれば、両軍はにらみ合いに突入する。
 だが、それができない理由が魔国軍にはあった。

 進軍中の一万の後から、本体の二万が遅れてやってくる。
 合流するまで待っている間に、兎の氏族軍は、高台に防護陣を構築してしまうだろう。

 技国の技術力は随一だ。さして時間もかけずに強力な陣地を完成させてしまう。
 そうなればあとは持久戦しかない。不利になれば自陣に引きこもってしまうであろうし、数日経てば近隣から増援もくる。

 ここは何としても陣地構築をさせてはならない。
 魔国軍一万を預かる歩兵隊長グノウスは、微速のまま軍を前進させた。

 これによって、兎の氏族軍との遭遇戦に突入することになる。



「友軍が戦闘中だ。このまま襲いかかるぞ!」

 魔国十三階梯の第五位。
 無月ニュームーンの名を持つライアートは、率いる二万の部隊にそう命令を下した。

 兎の氏族の本拠地に向かって進軍している最中、大規模な戦いの音が聞こえた。
 斥候からの報告で、歩兵部隊が敵に発見されたことを知った。

 場当たり的だが、このまま合流し、敵を追い払わねばならないとライアートは思った。

「休息も取らずに無茶よ。私が回復させるから、一旦軍をとめて」
 同じ魔国十三階梯で、第十三位のジャクリンがそう進言する。

 ジャクリンの言葉に、ライアートが首を横に振った。
「歩兵を見殺しにはできない」
「だからといって、私たちも万全じゃないのよ?」

「俺らが万全で戦える状況なんて、一体どれだけあった?」
「それはそうだけど……いいわ。絶対に無理をしないでね」

「もちろんだ。本命の戦いはこの後だからな。……おまえら、行くぞ!」
 そう檄を飛ばして、ライアート率いる二万の軍勢は、兎の氏族の迎撃部隊に突撃を開始した。



 魔国十三階梯の使う魔道は、およそ月魔獣狩りには向かないものが多い。
 第五階梯のライアートの魔道は、戦闘向きですらない。
 なにしろ彼は、暗闇を見通す目を持つのみだ。

 彼が二万の軍勢を率いることができたのは、その目に寄るところが大きかった。
 月の出ない闇夜でも、彼は真昼と同じように行動できる。

 彼が率いれば、はじめての土地の夜間行軍ですら、道を見失うことはなかった。

 ライアートには、豪華な部下――つまり強力な魔道使いたちが与えられていた。

 たとえば月魔獣狩りにも多大な貢献を果たしている『水幻影ミラージュ』使いのジュチ。
 彼女は任意の人や物を細かな水霧で隠すことができた。

 音や匂いは遮断できないが、光の屈折でそこに何も存在しないように見せかけることができる。

 ライアートとジュチの魔道によって、気付かれないまま蜻蛉の氏族領へ進軍し、見事本拠地を陥落させることができた。
 これで後顧の憂いなく、目の前の戦いに集中できるようになったのである。

 だがここで、ふたつの誤算が生じていた。

 誤算のひとつめは、兎の氏族の警備が想像以上に強固だったこと。
 ジュチの魔道で隠した一万の歩兵は、蜻蛉の氏族領攻撃に参加せず、蜂の氏族領の中をゆっくりと進んだ。

 だが、兎の氏族領に入ったとたん、簡単に見つかってしまった。
 いくら本拠地の近くとはいえ、そこまで徹底的に索敵巡回をしているとは、ライオットも思っていなかった。

 そのため、本来合流してから休息させようと思っていた二万の部隊を戦闘につぎ込む必要に迫られたのである。


 いままで『水幻影』で隠されていた二万の軍勢は、ライアートの号令で、みごと兎の氏族の軍の横腹に噛みついた。
 結果、戦場を大いに撹乱させる結果となった。

 兎の氏族軍はすぐに撤退。
 だがここでライアートにも敵を追う余力はない。
 ようやく一息ついて、本拠地を包囲する作戦に切り替えるのが精一杯だった。

「さて、怪我をした人の回復……私の出番ね」
「ああ、頼む」

「任せて。……でも完全には無理よ」
「それは分かっている。それでもできるだけ頼む」

 ライオットに頼まれて兵の回復を担当するのは、第十三階梯のジャクリン。彼女の魔道『回復ヒール』で兵の怪我や疲れを癒やすことができる。
 ただし、重傷者には効果がない。

 ゆえにジャクリンは、治せそうな人だけを優先して治療することになった。

「……ふう、怪我人が多すぎて追いつかないわね」

 ふたつめの誤算。
 それは、意外にも蜻蛉の氏族の抵抗が激しかった事である。

 姿を隠して近づいて奇襲する。
 それは大成功だった。

 正門になだれ込んだ自軍兵は、そのまま氏族が住む一角を目指して進軍した。
 だが、途中で激しい抵抗を受け、進軍は遅滞。
 城に到達したころには、門を閉ざされた後だった。

 攻略に時間をかけられないライアートは、早々に切り札の投入に踏み切った。

「ノールセイドを出す」

 魔国王がライアートに貸し与えてくれた魔道使いの中でもとびきりの一人。
 対月魔獣戦では大活躍の男、魔国の英雄ノールセイド。

 彼の使う魔道『崩壊コラプス』は、対象に大破壊をもたらす。
 月魔獣戦では無敗。
 最近噂の大型種ですら、単独で倒せるのではと言われるほど、彼の魔道は強力なのだ。

 今回、それを惜しげも無く貸し出してくれた魔国王に、ライアートは深く感謝している。
 そして、必ず目的を達すると誓ったのである。

「あそこで切り札を使わねば、計画は水泡に帰していただろう。だが、代償はあまりに大きかった」

 強力な魔道を使う者は、その反動も大きい。

 ライアートのようなタイプは、魔道をどれだけ連続で使おうが、気にする必要がない。

 だが、ノールセイドの『崩壊コラプス』のように、明らかに人の力を凌駕する魔道は、精神に多大な負担を残す。

 そのためノールセイドの『崩壊』は連続使用できないでいた。

「魔道抜きで本拠地の門を落とす。気合いを入れていけ!」
 ライアートの激が飛ぶ。


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