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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 シャラザードに僕はいま、指示を出していない。任せっきりだ。

 僕が何をしているのかといえば、シャラザードの背中でちゃんと魔国兵だけを区別して襲えるのか、確認していたりする。

 日が完全に落ちきるまでの時間つぶしともいう。

「……問題ないようだな」
 シャラザードは森の外にいる魔国兵たちを次々と手に掛ける。踏み潰す。尻尾でなぎ払う。

 ひと暴れするたびに、魔国兵が枯れ葉のように飛んでいく。

「そろそろ時間だ。僕はいくよ」
『うむ。我にすべて任せておれ』

「ああ、安心して任せられるさ」

 精強な魔国兵。彼らは対人の訓練を十分積んでいるだろう。
 最初の侵攻作戦に選ばれるくらいだから、忠誠心も高いに違いない。

 だが、そんなものはシャラザードの前では無力もいいところ。
 僕がひと言「暴れてくれ」と言うだけで、彼らは路傍の石と同じ程度の脅威しかない。

「……僕は王女殿下を探すか」

 辺りは暗くなってきた。
 僕はシャラザードの背中から飛び降り、そのまま闇に溶けた。



 女王陛下の影になってまだ数年。
 それでも少なくない数の指令をこなしてきた。

 僕が〈影〉として動くときはいつも、「父さんならどうやったかな」と考えるようにしている。
 僕が知る限り、父さんは最強の存在。それを目標として、どれだけ近づけるのかを考えるのだ。

「魔国兵がかなり森に入り込んでいるな」

 動く人影はみな敵兵だ。彼らはなぜこの森にいる?
 戦略上意味のない場所に兵を投入する理由は?

 これは明らかに高貴な者――王女殿下を狙っている動きだ。
「護衛の動きでバレたかな」

 王女殿下がいると理解していないでも、高貴な身分の者がこの森に落ちたことは理解しているだろう。
 護衛たちが森に落下した飛竜を追えば、何かあると感づく。

「こんなとき、父さんならどう動くかな」

 考えてみる。捜索は続けられている。
 いまだ王女殿下が見つかっていないならば、どこかにじっと隠れていると予想される。

 森は深くて広い。腐った倒木もいたるところにあり、人ひとり、腐葉土の下に潜り込んでしまえば、僕だって見つけられない。

 王女殿下に出てきてもらうには、場を混乱させて、逃げられる隙を作ればよい。
「よし決めた!」

 森にいる敵兵をみんな狩ろう。
 森の中が騒がしくなれば、気づいて出てきてくれるかもしれない。

 見通しの悪い森の中で、いまは夜。
 敵を狩るのに闇に潜る必要もない。

 僕はゆっくりと敵兵に近づき、小剣をすれ違いざまに突き刺した。
「……ッ!?」

 口を押さえて悲鳴を上げさせない。
 敵が事切れるまでそのまま待ち、草むらに死体を隠す。

 敵は効率を重視しているのだろう。
 三、四人で固まって捜索されれば困ったことになったが、見たところ一人。多くて二人組だ。

 僕はゆっくりと次の獲物を探して森の中を進んだ。



 敵が異変に気づいたのは、僕が二十人目を倒してからだった。
「おい、仲間がやられているぞ!」

 草むらに隠した死体を探し当ててのことだ。
 僕としては、今さらという気が強い。もしくは、ようやく分かったのかと。

 ここまでは数を減らすために、見つからないように動いていた。ここからは本気だ。
 僕は最近使い慣れてきて、精度と距離が上がった『闇刀』を使い始めた。

 一人、また一人と闇から出現した刃に敵兵の喉を斬り裂く。
 ある程度動く相手でも、連続して斬ることができるようになったのは、この前、技国でたくさん戦ったからだろう。

「何かいる!? この森の中に何かいるぞ!」

 兵が叫び声を上げた。
 周囲の兵たちがやってくる。これを待っていたのだ。

 狙い済ませた『闇刀』で次々と敵の喉を切り裂いていく。
 集まった兵の半数を倒したあと、闇に溶けてその場を離れた。
 今頃はきっと、疑心暗鬼になって周囲を念入りに捜索していることだろう。

 場所を次々と変えて、魔国兵を倒していく。
 ある程度の成果が出たらその場を去る。

 こう次々と仲間を殺されては、敵の狙いも変わってくる。
 森の中で生き残ることに変化したに違いない。
 さあ、正体不明の影に怯えるといい。

「……そうほくそ笑んでいたらバチが当たったかな」

 空が白み始めてきた。日の出が近い。
 つまり、僕は森のなかで一晩中探し歩いたことになる。

 倒した魔国兵の数は……もちろん数えていない。

 というか、周囲に敵がいなくなった。全員撤退したようだ。
 そしてどういうわけか、森にいるはずの王女殿下の姿がまったく見えない。

「もしかして、もう脱出していたりする?」

 一晩中森の中を歩きまわり、敵を殺し回ったものの、王女殿下の姿どころか、影さえも見えなかった。

「仕方ない。森を出るか」

 少なくとも、魔国兵の脅威は排除できた。
 森の中にいるのならば、あとは人を寄越して捜索してもらった方がいいかもしれない。

「…………って、おい!」
 森を出たら愕然とした。

 視界一面、魔国兵の死体だらけだ。死屍累々である。
 それにまともな死体はひとつもない。みなひどく損傷している。

 何があった? いや、分かっている。シャラザードだ。
 外にいた魔国兵を全滅させ、森の中から逃げてきた兵もみな倒したのだろう。

「……で、どこいった?」

 近くにシャラザードの姿はなかった。


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