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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 戦っている本人たちならばいざしらず、上空から観測している竜操者が二万もの魔国兵を見逃すはずがない。

 ディオン氏族長はすぐに魔道使いの存在を疑った。

「姿を隠す魔道か、幻影を見せる魔道だろう。面倒なのが紛れておったな。……して状況は?」
「側面を付かれて大混乱です。軍をまとめて撤退する動きがありました」

「だろうな。二万の増援ではどのみち無理だ。収容の準備をしよう。しかし……やっかいな」

 氏族長の読み通り、モーリスは軍をまとめて戻ってきた。
 撤収が早かったため被害はそれほどではないが、兵たちの動揺は激しかった。

 元から一万の兵に加えて増援が二万。
 しかもこの増援の方が本命らしい。

「新たに現れた方が装備も練度も桁違いということか」
 モーリスの説明を聞いて氏族長はうなった。

「兵たちに戦跡がありましたので、すでにどこかで戦った後でしょう」
「すると蜻蛉の氏族領を落としてから来たのかもしれんな」

 魔国から進軍してくる場合、真っ先に狙われるのが蜻蛉の氏族である。

「魔道使いが増援側にいましたので、その可能性は高いでしょう」
「なにはともあれ、籠城の準備をせねばいかんな」

 敵についての憶測はそこまでにして、本拠地を固める準備にとりかかった。

 技国のどの町の城壁も高くて厚い。それは駆動歩兵戦を想定しているからである。
 ゆえにただ歩兵が攻め入ってきたところで、敵の被害ばかりが増えることになる。

 だが、モーリスの予想通りならば、敵は蜻蛉の氏族領で町を落としてきたことになる。
 勝算のない侵攻をしてくるほど魔国王は戦争に疎くない。

 高い城壁に守られているからといって、安心できない。
 必ず、なんらかの打開策をもっているはずなのだ。


 敵がやってきて、すぐに攻城戦がはじまった。
 高い城壁に分厚い門がそれを阻む。

 ディオン氏族長は時間稼ぎのための防衛戦略を練った。
 いま他の町では、戦力が徐々に集まりつつある。

 ここで粘り、集結した戦力と一緒に反転攻勢をかければよい。

「一日耐えろ。そうすれば必ず勝てる!」

 氏族長はそう宣言し、兵の士気向上をはかった。

 だが、氏族の館に戻ると、顔は一転して曇る。
「敵が蜻蛉の氏族の本拠地を落としたのならば、それなりの攻城力をもっているはずじゃ」
「正門を抜かれたらどうなります?」

「市街戦じゃな。そうなると数の利はあまり関係なくなる」

 本拠地は内部の防備も完璧である。
 百人や二百人入り込まれたところで問題はない。

 だが正門が開け放たれた場合、二万のも軍勢が入り込む。
 個々の連携は意味を成さなくなるだろう。

「駆動歩兵の稼働状況はどうですか?」
「近くの町から受け入れたから、半分は大丈夫だ。それに半日もすれば先ほど戦った駆動歩兵の整備も完了し、戦力はさらに増強される」

「ならば安心ですね」
「どうだろうな。何か見落としがあるかもしれない。わしはそれを心配しておるのじゃ」

 野戦で勝てる戦いだった。
 だが、敵の魔道使いのせいで撤退せざるを得なかった。

 敵が優勢なのは変わらない。ゆえに安心できないと氏族長は答えた。

「でしたら上から探りましょうか」
「頼めるかな?」

 他国の王族が自領にいるにもかかわらず、決戦に破れ、攻城戦を許してしまった。
 その上、上空からの警戒を頼むのは心苦しい。
 だがそんなことを言っていられる状態ではない。氏族長は伏して頼んだ。

 飛竜の索敵ならば、敵がどんな動きをするのかもすぐに分かる。
 そう思っていたが、思わぬ誤算が生じた。

「飛竜が落ちた?」

 いま攻城に参加している敵兵は一万。
 残りの兵、一万五千は後方で陣を張っている。

 本拠地からは陣の様子は窺い知れないため、飛竜を飛ばしたが、地上から放たれた強力な槍の一撃で撃ち落とされたという。

 その後、数度にわたる索敵で二体が落とされ、同じく二体が被弾した。
 怪我をした飛竜は戻ってきている。いまは誰も飛んでいない。

「これ以上の索敵は無理ね」
 敵の魔道使いに、槍の投擲に長けた者がいるらしい。

 人が出し得る何倍もの力で槍を放出しているのだ。

「王女よ。このまま脱出してくだされ」
 氏族長の言葉に王女は逡巡した。

「あと一日は持ちこたえてみせよう。だが、絶対ではない。敵は切り札を出していないと思うのでな」
「そうですね。敵陣の警戒具合から、後方に何かを隠していそうなのだけど」

「であるから、ここを脱出してほしい。あとはわしらでなんとかする」

 数体の飛竜がいたところで戦局に影響はない。
 かえって王女を守るために兵力を割かねばならず、良いことではない。

「分かりました。夜を待って、竜国に帰ります」
「すまぬの」

 王女は帰り支度をして脱出の時を待った。
 そして周囲が暗くなった頃、飛竜の一団が静かに本拠地を離れる。

 だが、いくらも進まないうち、強烈な槍が下から襲いかかった。
 回避行動をとるも、どこから飛来しているのか分からない。

 夜の闇は、敵の位置すらも隠してしまう。
 魔道使いは知らぬ間に、場所を移動していたらしい。

 散り散りになった飛竜の何体かが、槍を受けて負傷する。
 そして王女が乗った飛竜にも槍が突き刺さった。

「きゃぁああああ……」
 飛竜が槍を頭部に受け、制御を失い、きりもみ状に落下した。

 夜の闇に王女の悲鳴が吸い込まれていった。

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