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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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ここから時々、レオン以外の視点の話が入ることがあります。(4章終わりまで)
 時間は少し遡る。兎の氏族、本拠地内。

「魔国軍が現れたじゃと!? 国境警備は揃って昼寝でもしてたのか!」
 ディオン氏族長の怒声が飛ぶ。

「領内、領外とわず、どこからも報告はありませんでした。狼煙も上がっていません」
「敵軍の規模は?」

 兎の氏族領は魔国と接していない。
 突然、領内に敵兵が現れたからには、手引した者がいるか、他の氏族領がすでに落ちていることを意味する。

「敵軍は、ここより二十キロメートル西の平原で確認されました。数は約一万、兵種は歩兵とのことです。数時間前の情報ですので、いまはもっと近づいていると予想されます」

「一万か……少ないな」

 半年前、大山猫の氏族が攻め込んできたときの教訓を活かし、本拠地周辺の防備は万全である。
 今回、魔国軍がその警戒網に引っかかった。

 それは重畳といえるが、本拠地の警戒網が最初に敵を発見するのは本来おかしい。

 一万の歩兵ならば、本拠地内の戦力でも迎撃は可能である。

「よし、近隣の住民に避難勧告を出し、各町の兵と駆動歩兵を集結させろ。場所は……そうだな、リミスの町がよい」

「はっ、すぐに伝令を出します」
 側近が去っていく。

「本拠地にいる駆動歩兵は三千、兵は四千か。志願兵を募ればあと二千は集まるな。本拠地に引きつけて防衛戦の方が被害が少ないが、敵は魔国。どのような魔道使いがいるか分からんしな」

 先手を取らている。
 なぜか分からないが、本拠地近くまで敵が迫っていることに気づけなかった。
 この状況で迎撃戦をするか、籠城戦をするか決断しなければならない。

 本来ならば、地の利を活かして籠城した方がよい。
 相手は日頃から月魔獣と戦っている魔国兵だ。魔道使いもいるだろう。

 籠城しても、大規模な破壊魔道を使ってくる可能性が高い。
 魔道で門を破壊され、一気になだれ込まれることもありえる。

「姿を隠してここまで来たということは、町攻めをしたいからだろう。籠城は不安が残るな。ならば、迎撃か」

 敵にどのような秘策があるか分からないが、喉元に刃を突きつけられるまで待っているわけにはいかない。

「だれか。モーリスをここへ。……それと王女殿下にお越し願うよう使いの者を」



「魔国の侵攻ですか? どうしてここに……」
 ディオン氏族長から報告を受けたサーラーヌ王女は眉根を寄せて考えこんだ。

 以前より魔国と竜国は小競り合いだけでなく、ある程度の規模の局地戦も繰り返してきた。
 魔国としては、竜紋限界の一部を自国の領土に組み込みたいと考えている。
 そのため、小競り合いが絶えないのだ。

 反面、魔国と技国は過去何十年遡っても、武力衝突の記録はない。
 この時期にいきなり戦争を仕掛けてくるのは、完全に想定外の出来事といえる。

「殿下の身の安全がいささか保証出来かねる事態になりました。時期を見て退去をお願いするかもしれません」
「そうですね。状況をみて退避することにします」

「わざわざ戻っていただいたばかりでしたが、申し訳ございません」
「いえ今回の出来事。非があるとすれば魔国でしょう。それに竜国は兎の氏族との盟約にしたがい、ともに歩を進めることにしましょう」

「それはありがたいことです」
 ディオン氏族長は頭を下げた。

 王女がそう言ったところで、ここに竜国の戦力はない。
 王女が連れてきた飛竜が八体いるが、これは戦うために来たのではなく、王女の護衛だ。
 勝手に戦場に出すわけにはいかない。だが。

「すぐにソールの町へこの事実を伝えます。ですがそのまえに正確な情報を知る必要がありますね」

「と言いますと?」
「観測のため、我が隊のものが空から見て参りましょう」

 つまり索敵に出てくれるというのだ。
 その事実に気づいて、氏族長はさらに深く頭を下げた。



 魔国軍の動きを探りにいった飛竜が情報を携えて戻ってきた。
 出発して一時間もしないうちである。

「魔国軍歩兵約一万、ここより十キロメートル離れた地におりました。休憩中のようです」
「なるほど、そこから一気に攻めてくるつもりじゃな」

「この町より出ました迎撃戦隊ですが、敵から二キロメートル離れた高台に陣を敷いています。数は歩兵が三千と駆動歩兵二千、さらに後方に千五百の歩兵が待機中です」

 空から観測したからであろう。
 斥候に出た竜操者が地図にスラスラと配置を書き込んでいく。

「敵の増援は?」
「見える範囲にはおりませんでした。あったとしても、到着まで半日以上かかるかと思います」

「なるほど。他には?」
「攻城兵器を積んでいるのか、輜重車しちょうしゃの数が多いように見受けられました」

 輜重車とは、車輪と板だけでできた簡素な手押し車である。
 手で引いて移動するため重いものは運べないが、馬車と違って簡単に数が揃えられる。

「待てば待つほど敵が不利になるでしょうし。戦端はすぐに開かれるわ。もう一度行ってくれるかしら」
「かしこまりました」

 いま近隣の町に人を出し、兵を集めている。
 まとまったら投入する予定だが、早くて明日になる。

 つまり今日一日睨み合っていた場合、技国側の戦力は明日で倍に膨れ上がる。

 総大将のモーリスもそれが分かっているから、敢えてぶつかろうとせず、高台に陣を敷いたのだ。

「このまま今日は睨み合ってくれると助かるのじゃが」
「そうですね」

 氏族長と王女の願い虚しく、緒戦が始まったと連絡が来たのは、それから三時間後だった。

 両軍は平地で激突し、技国側がやや有利な展開で戦争が継続された。

「はるばるやってきて、勝算のない戦いを仕掛けるのか、魔国は」
「おかしいですね。もう少し探らせましょう」

 王女は戦争観測の飛竜を増やし、戦の変化に対応させた。

 そもそも魔国側は積極的に攻撃を仕掛けるのではなく、方陣を組んで耐える戦いを選んでいる。

 技国側の方が数が少ないため包囲は完成していないが、勢いは技国側にあり、ジリ貧となるのは魔国側の方である。

「そろそろ駆動歩兵の活動限界だな。後方の予備兵と入れ替えがあるじゃろう」

 駆動歩兵は強力だが、連続稼働時間の問題がある。
 余裕をもって帰還できるように、戦場にいる時間は厳密に管理されている。

 この場合、活動限界の六割を越えない範囲でしか戦場に投入しない。
 あと一時間ほどで後退することになるだろう。

 後詰めの歩兵千五百が、その穴を埋める。
 そう思ったとき、飛竜隊の観測者がとんでもない情報を持って戻ってきた。

「突如として、二万を越える魔国兵が出現しました。味方が側面をつかれ、戦場は大混乱です」

「なんですって!?」

 戦場に新たに出現した二万の敵軍。
 それはだれにとっても、寝耳に水の出来事であった。

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