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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 イーナさんと別れた次の日の夜。

 僕らがいるこの町に、小さな騒動が持ちこまれた。
 僕はそのことを知らず、いつもの通り就寝した。

 その翌朝。

「竜国の使者ですか?」
「はい。早急に会いたいと下のロビーで待っていますが、どうされますか?」

「なんだろ……すぐに行くと伝えてください」
「かしこまりました」

 この館の使用人が一礼して去っていく。
 名前を二度確認したが、「竜国の使者」としか名乗らなかったらしい。

 誰々の使者ではなく、「竜国の」と名乗ったのだ。
 ちょっと普通じゃない。

 すぐに階下へ行くと、見知らぬ男性が待っていた。

「レオンですけど、僕に用があるとか」
「レオン様ですか。わたくしは事務方のオザンと申します。お手数ですがすぐに竜の広場へ来ていただきたいのです。外に馬車が用意してあります」

「今からですか? というか何があったのですか?」
「ここでは申せません。そして、事態は一刻を争うかもしれないと……ジダイ総部省が申しております」

「!?」
 大物の名前が出た。ジダイ総部省……竜国大臣のひとりだ。
 この人はその部下なのだろう。

 だとすると、ここで話せないのも分かる。
 機密情報が漏れるのを心配したのだ。

 大臣の呼び出しなんて穏やかじゃない。
 王女殿下がいない今、この町にいる竜国民のトップはジダイ大臣となる。

「分かりました。行きます」

 アンさんに行き先を告げたいところだが、それすら機密に触れそうだ。
 こんな朝から一体何があったっていうのだ。

 馬車に揺られている間に聞いてみたが、このオザンは「自分はレオン様をお連れするだけですので」と取り付く島もない。

 直接大臣に聞けということらしい。徹底している。

 僕らが向かっている竜の広場とは、シャラザードがいる場所のことだ。
 それだけで、竜か竜操者に関する重大事だと予想がつく。

 たとえばシャラザードが暗殺者に傷つけられたとか……それはないな。

 人間よりよく気配を察知し、目もいい。さらに強靭な肉体と、何も通さない肌を持つ。
 シャラザードが外傷を負う事自体、あり得ない。

「毒も効かないしなぁ……」

 それこそ超強力で超大量の毒ならば分からないが、シャナ牛を踊り食いするような状態で食事に毒が盛られるとも考え難い。

 では一体何なのか。

 到着してすぐに分かった。
 警備が物々しい。みなだれかの護衛たちだ。
 ここに身分の高いものが勢揃いしている。

「レオン様をお連れしました」

「レオン様をお連れしました」

「レオン様をお連れしました」

 行く先々でそう告げるだけで通される。

 そのまま奥まで一直線。
 どんどん僕の名前を連呼して進むのは一種異様だ。

 そして辿り着いたのは建物の最奥部。
「何? 悪夢の体現者が来たと? すぐに通しなさい」

 部屋の奥からそんな声が聞こえた。
 何だよ、その「悪夢の体現者」って。まさか僕のことじゃないよな。

 部屋の中に入ると、偉そうな人が七、八名、立っている。
 中央のソファに男性――竜操者がひとり寝かされていた。
 ぐったりしている。意識があるのかないのか。

 見たことある顔だ。
 王女殿下の飛竜編隊、その構成員だったと思う。

「よく来てくれた。まず状況を説明させてほしい」

 僕に大柄な手を差し出して握手を求めてきたのはジダイ総部省。竜国の大臣様だ。
 超偉い人と言えば世間的に通じる。

「はっ、承ります」
 僕は緊張して答えた。

「うむ。何のために呼ばれたか、ここまで一切の説明がなかったと思う。不安に思ったことだろう。だが、これは緊急かつ重大事なのだ。心して聞いてほしい」
「はい」

 うわー聞きたくない。
 両耳を塞いで「アー」って言いたい気分だ。

「ここにいるセネゲイ操者によると、三日前、突如として魔国が技国に軍事的侵攻を始めたという」

「はっ? 魔国が攻め入って来たのですか?」

 技国に? なぜ? 魔国の狙いは竜国じゃなかったのか?
 というか、この人、兎の氏族にいたんだよな。なんでこんな(・・・)ボロボロなんだ?

「順を追って話そう。魔国軍は何らかの魔道によって、軍を覆い隠し、その存在を気取られないようにしたうえで兎の氏族領に侵入した。気づいたときには本拠地のすぐ側まで迫っていたらしい」

 僕は頭の中で地図を広げた。
 技国は横に長い。その中で兎の氏族領はちょうど中間地点にあるはずだ。

「他の氏族領はどうなったのでしょう?」
「未確認だ。魔国軍が商国を抜けてきたのではない限り、地理的に見て、蜻蛉の氏族と蜂の氏族は落ちたとみていい」

「………………」

 魔国は総力戦を仕掛けてきた――そんな言葉が僕の頭に思い浮かんだ。

「兎の氏族はすぐさま防衛戦を敷き、本拠地の手前で両軍は激突した。王女殿下は両国の盟約に従い、竜国に援軍を要請するため、一騎をソールの町に飛ばした」
「軍事同盟ですね」

「そうだ。同時に王女殿下はその地に留まり、戦況を見極めようとしたが、戦端を開いてからわずか一日で防衛戦が崩壊。本拠地への攻城戦へと移行した」

 通常の戦いでは、そんなに早く戦局が動くことはありえない。
 一日で結果が出るほど一方的な戦いになったのか。

 一方がよほど寡兵だったか、裏切りがあったか、それとも。

「先ほど、魔道で戦力を隠してと仰られましたが、もしかして戦いでもそれが使われたのでしょうか」

「レオン操者は鋭いな。その通りだ。敵の別働隊が魔道でそっくり隠されていたらしい。効果的に投入され、戦線が混乱したという。ちなみにこれは推定の話だ。上空観戦はできなかったらしい」

 飛竜がいれば、上空から戦況などいくらでも確認できる。
 それができなかったという。

「何か理由があるのですか?」

「敵の魔道使いに強力なのがいて、かなりの高度でも狙い違わず槍を投擲してくるのだ。飛竜が二体負傷した時点で上空観戦は断念したらしい」

「王女殿下の飛竜は八体でした。一体がソールの町に向かって、二体が負傷。残りは五体になりますけど」
 攻城戦の最中、本拠地に留まるのは危険じゃなかろうか。

「うむ。それゆえ王女殿下は夜まで待機し、夜陰に乗じて脱出を計る手はずであった。その際、この情報を我々に伝えるようセネゲイ操者が命を受けた」

「なるほど。彼はこの町への連絡要員になったのですね。……それでこんなボロボロの訳は?」

「殿下が本拠地から脱出することは敵が予想していたようだ。上空に舞い上がったところを集中的に狙われたらしい」

「襲われたのですか? それで王女殿下は?」

「……行方不明だ」
 ジダイ大臣は重々しく言った。


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