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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 アンさんと僕では、招待されているイベントの数に差がある。

「今日はご一緒できませんですわ」
 残念そうにアンさんが言う。
 今日は氏族の上層部のみに声がかかったらしい。僕は呼ばれていない。

「僕は好きに見てまわりますので、アンさんも楽しんで来てください」

「そうですわね。氏族を代表して出席するのですもの。くよくよした顔は見せられませんですわ」
「そうですよ」

「ではレオンくん。夜に会いましょう」
「はい」

 後ろ髪をひかれているアンさんを送りだし、僕は今日の予定を考えた。

「今日は即売会の中日なかびだっけか。行ってみるかな」

 多くの会場でさまざまな行事が行われているものの、すべてを一度に行うことはできない。

 とくに競技会と直接関係のないものは順番を決めて開催するのが習わしとなっている。

 明日は即売会の入れ替え日に相当する。
 今まで出していた商会が、次の商会に場所を譲るわけだ。

 売れ残った商品を持って帰るくらいならば値下げして売ってしまおうと、昨日あたりから商品の値下げは始まっているらしい。

 家族や寮の同室、そしていつもお世話になっているブロワール家のみんなにお土産を買っておきたい。

 そう思って僕は即売会の会場に足を運んだ。

「……甘かった」

 到着して思った。
 みんな考えることは同じなんだなと。

 即売会の会場は見渡す限り、人、人、人、人で溢れていた。
 これでは商品を見に来たのか、人を見に来たのか分からない。

「まいったな」

 ごった返す人の中を進みたくない。
 と言って、他の予定はなにも覚えていない。

「たしか噴水前の公会堂で何かの研究発表があったような」

 アンさんが向かったのは、その先にあるもっと立派な施設だった。

 そのおかげでかろうて覚えていた。
「……行ってみるか」

 町をふらついてもいいが、どうせなら目的があった方がいい。
 そう思って公会堂に足を運んでみると……建物の入り口で肩を掴まれた。しかもかなり強く。

 指が肩に食い込んで、地味に痛い。
 刺客か? 殺意は感じなかったけど。
 僕はゆっくり振り向いた。

「やはり、レオン殿でしたか」

「はい。えっ?」
 振り向いたら若い女性。しかも見たことがある。

「良かった。見間違えじゃなかったようですね」
「お、お久しぶりです?」
 だれだっけ?

「久しぶりですね。でもどうして疑問系なのですか?」
 クスクスと笑う声で思い出した。この女性。

『血飛沫』さんではないですかー!

「お久しぶりです。えーっと、ち……」
「イーナです。グラロス家の」

「そうだ。あの節はいろいろと歓待していただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。シャラザードさんに乗せていただけで私はとても満足ですよ」

 目の前の女性、イーナ・グラロスさんは、かもめの氏族長の娘。
 父親のグエン・グラロスさんが氏族長なので、アンさんと似たような立場と言えば分かりやすいだろうか。

「今日はお兄さんのち……ウォールさんは?」
 思わず『血煙』と言うところだった。

 この兄妹、剣の腕前だけなら、そこらの兵士を一刀で斬り伏せられるくらい強いんだよな。

「兄はどうしても外せない予定がありまして、別の場所に行っているのです」

 なるほど、アンさんと同じ会場かな。
 氏族の上の人たちが多数集まるらしいし。

「ということは、イーナさんもこの公会堂で研究発表を見に来られたのですか?」
「そうです。どうしても聞きたくて……ということは、レオン殿も」

「……は、はい」
 どんな研究なのか覚えてないのだけど。

「でしたらご一緒しましょう!」

 肩を掴まれたまま、中に連れて行かれた。
 このひと、なにげに僕より力が強くないか?

 剣一筋といった風のイーナさんも氏族の一員ということで、研究発表に興味があるのだな……と思っていた少し前の自分を殴ってやりたい。なにしろ……。

「レオン殿。これがセキオライトでできた砥石です。前のヴァミライトと違って、仕上げに使うのがいいのですけど、ここまで綺麗なものはなかなかお目にかかれませんね!」

 目をキラキラさせてイーナさんが僕に説明する。
 お目にかかれませんね、と言われても初めて見た石だったりする。
 そもそも石の善し悪しなんかまったく分からない。

 そう、この公会堂で行われている研究発表は、「砥石について」だった。
 いかに剣の切れ味をよくするか、古くなった刃物を元の切れ味に戻すかについてのものなのだ。

 そもそも剣の手入れと一口に言っても、多種多様である。

 その中でも、「研ぎ」に特化して研究してきたものの集大成がここに集っていた。
 僕には何が何だか分からない。

 砥石の使い方は僕だって知っている。
 目の粗いものから順に使用していって、徐々に仕上げていく。
 だがそれは、市販の砥石の効果を信用してのことだ。

 いま行われている発表は、いかに均等に、そして細かい目の砥石を作るか、製作者側の視点に立って、その研究なのだ。

「これは砥ぎ始める前に石にまんべんなくぬるのです。そうすると、最初から効果がでまして……」
「なるほど、最初はしばらく砥いでないと砥ぎ汁が出ませんしね」

 一生懸命話を合わせていると、急にイーナさんが立ち止まった。もうアセアセである。

「レオン殿、もしかして私の話は詰まらないですか?」
「い、いえ。……どうしてそんな?」

「先ほどから心ここにあらずだったように見受けられましたので」
 鋭い。

「そんなことないですよ。そうですね……最近シャラザードの様子を見に行ってないなとちょっと思っていたからでしょうか」
 イーナさんと言えば竜。
 なので、そう言ってみた。

「シャラザード!」
 イーナさんが目を輝かせた。
 やはり大の竜好きは違う。

「シャラザードに会ってみますか?」
「よろしいんですか?」

「ええ、シャラザードも喜ぶでしょう」
「でしたら、ぜひ!」

 というわけで、僕はイーナさんをシャラザードのもとまで連れて行った。
 なにしろ、砥石の研究発表の中身は……ちんぷんかんぷんだったし。

 僕には、ああいった専門的な話は向いてない。
 父さんからまた「脳筋」と言われそうだが、研究は研究。

 僕はその成果を使えればいいと思っている。



 シャラザードはイーナさんを覚えていた。
 同時に、鴎の氏族で食べたシャナ牛や他の餌の数々も覚えていた。

 しっかり覚えていたのは、そっちがメインではないだろうかと思いつつ、シャラザードの代わりにその時のお礼をして、シャラザードを交えて楽しく過ごすことができた。

 砥石の研究発表を聞くより、よほど有意義な時間だった。

「レオン殿は、会期中、まだここにいるのですよね」
「はい。と言っても、最後まではいませんけど」
 もうすぐ立とうと思っている。

「でしたらまた来てもいいでしょうか。今度は兄と一緒に」
『血煙』……いや、ウォールさんか。

「いいですよ。シャラザードも喜ぶでしょう」
「ありがとうございます」

 敵として対峙すれば怖いが、普段のウォールさんは話が分かる人だ。
 僕にも否はない。

「それではまた。……シャラザードも」

 イーナさんはいい笑顔で去って行くが、結果的には、この約束は果たされることはなかった。

 事態は僕が思っていなかった方向に進んでいたのだ。


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