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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第4章 竜国政争編

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 ディオン氏族長は、兎の氏族領から出ることはない。
 必要な渉外活動は、一族の者が協力して遂行している。

 アンさんのお兄さん、モーリスさんなどは領内を巡回しており、アンさんも留学を終えたらそれを引き継ぐ予定でいたらしい。

 そしてアンさんの両親、マルセルさんとコレットさんは領外へ赴いて交渉することが多いという。

「やあ、初めましてかな」
「はい。はじめてご挨拶させていただきます。レオン・フェナードと申します」

 このおふたりはモーリスさんの結婚式のときにもいた。
 だが、王女殿下の護衛竜操者のひとりであった僕は、そのときまだマルセルさんと直接話せる立場になかった。

 内乱で大山猫の氏族が侵攻してきたときも、マルセルさんたちは婚姻と同盟締結の話し合いをするために山羊の氏族領へ行っていたて留守だった。

 つまり、面と向かって顔を合わせたのがこれがはじめてだったりする。
 婚約者の両親と会食……胃が痛い。

「ずっと会いたいと思っていましたわ」
 コレットさんはコロコロと笑う。
 ちょうどアンさんをそのまま成長させたような感じだ。

「僕もです。お目にかかれて光栄です」

 会食は穏やかな雰囲気で進んだ。
 以前僕の実家にアンさんが来たとき、僕の黒歴史暴露大会が開催されたが、さすがは氏族長一家である。

 アンさんの黒歴史を暴露するようなことはなかった。
 小さい頃はカエルを煮て食べる子だったんですよとか言われたら、どう返していいか分からない。

 アンさんに限って、そんなことはないか。
 反対にいろいろ僕に質問してきた。

 別段探るような雰囲気ではなく、純粋に興味があったようだ。
 とくに僕が技国でパン職人の免状を取得したことなどが話題になった。

 十代で取得する者はいるものの、よほど英才的な教育を施されて、なおかつ本人の努力と素質。さらには運が必要であり、入念な準備もなく、初回で取得したことは大層驚かれた。

「よほどパン作りが好きなのですわね」
 コレットさんが、ほほほと楚々とした笑い声をあげた。

「技国は職人を大切にするし、尊敬を集めている。そのパン作りの才能……惜しいな」
 竜操者としてではなく、パン職人としての道もあったのにと、マルセルさんは惜しんでくれた。

 僕としてもその道に進みたいが、シャラザードがいる限り無理そうなのだ。
 どうにか両立できる道を模索しているけれど、大転移が収まるまではどのみち不可能なので、今は諦めている。

「そうですわね。序列一位を取ることができるのも研究者や技術者たちのおかげですもの。氏族を束ねる者としては、日々頭が下がる思いですわ」

 コレットさんがそう優しそうな目で僕を見てくれる。

 こんな素晴らしい両親と僕は家族になれる。
 それはきっと素晴らしいことなのだろう。

 彼らの期待を裏切らないようにしよう。
 ぼくはあらためてそう決意した。

 楽しい歓談の時間が過ぎていく。
 最初はどうなることかと思ったが、考えてみればアンさんのご両親なのだ。

 あのアンさんを育てた人たちに悪意や隔意があるわけがない。
 最後の方は大分気が楽になった。

「残念ながら、技術競技会は始まったばかりでね。このあと夜のイベントに出席しなければならないのだ」
「また時間のあるときにゆっくりとお話しましょう」

 どうやら、わずかな時間を僕のために割いて、抜け出してきてくれたらしい。
 マルセルさんもコレットさんも競技会の運営者だ。

 今は一番忙しい時期なのだろう。

「今日はお会いできて嬉しかったです」

「また会いましょう。次はゆっくりとお話したいですわ」
「時間をうまく調整すれば少しくらいは会えるだろうし、会期中でも遠慮なく尋ねてくれたまえ」

 そう言って二人は去って行った。
 これからまだ仕事らしい。

「大変そうですね。こんな時期にわざわざ時間を作ってもらって、なんだか申し訳ない気分です」
「レオンくんと会うのを両親は楽しみにしていたようですわ。これで良かったのだと思います」

「明日からは、アンさんはどうされるんですか?」
「招待されているものが一日にひとつかふたつありますが、それ以外の時間は自由ですの」

「だったら、その時間だけでも一緒に回りますか?」
「はい、よろこんで!」



 次の日から僕とアンさんはできるだけ一緒に行動した。
 意外にもアンさんは技術的な講演会などに行きたがった。

 王女殿下がちんぷんかんぷんと評した講演会だが、出席して聞いてみるとたしかに難しい。
 けれど、途中でアンさんが解説してくれたので、思ったより内容を理解することができた。

 さすがアンさん。知識も理解力も優れている。
 そこらの学者と対等に話せるくらいの学を修めているのではなかろうか。

 結婚したあと、僕が脳筋とバレたらどうなるのだろう。
 軽蔑した目で見られたりしなだろうか。

 内心で僕が戦々恐々としていると、アンさんは「昔から技国内で行われている研究はできるだけ目を通すようにしていましたの」と言って笑った。

 気負ったところのい、自然な笑顔だ。
 やはりできる人は違う。



 連日アンさんと一緒に行動していたことで、周囲の人にも僕がアンさんの婚約者であると周知されるようになってきた。

 知り合いも増え、とくに商人たちから熱い視線を注がれるようになった。

「そりゃ、序列一位の姫君の結婚となったら使うお金も半端ないだろうし、それを期に深く食い込めるでしょ」
 とは王女殿下の弁。一日置きに、暇つぶしに呼びだされている。

 なじみの商人がいないから、僕とアンさんの御用達になりたい商会が多いのだという。
 専用の商人になると、看板を掲げられるので、実利が大きいらしい。

「へんな約束をしないようにしなさいよ」
 暢気に「へー、そうなんですか」と相づちを打っていたら、そう釘をさされた。

 いろんなことに頭が回る王女殿下は、意外と苦労性なのだろうか。

「あなたはもう少しいるんでしょ」
「ええ、まだいくつか誘われているイベントがありますので」

「そう。またシャラザードに乗ってさっさと向かいたかったのだけどね」
「いや、それは止めてください。ドラス操者に怒られます」

 ドラス操者は、王女殿下がよく護衛編隊として利用する飛竜隊の隊長である。
 今回も来ているのを見かけたが、例によって近くに行かないようにしている。

 以前シャラザードに王女殿下が乗ってみなを振り切ったあと、拳骨を落とされて長時間の説教を食らったことがある。
 あんな目に遭うのはごめんだ。

「シャラザードで兎の氏族領に入るのはインパクトがあるけど、あなたの立場を考えたらいろいろ微妙だものね」
 アンさんとの婚約を気にしたのだろうか。

「じゃ、またそのうちどこかで会いましょう」
 そう言って王女殿下は、兎の氏族領へ旅立っていった。


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